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猫王様の千年股旅  作者: ma-no
猫歴50年~

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猫歴50年その2にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。剣の道は険しい。


「「「「「朝帰りですか~?」」」」」


 妻たちは厳しい。


「「「「「不潔にゃ~」」」」」

「「「「「……」」」」」


 子供や孫たちは冷たい。


 鉄之丈と盛り上がりすぎたわしは、家族から針のむしろ。いちおうあったことを報告したけど、【無意の剣】をわしがマスターしていなかったので疑いは晴れず、妻たちからモフられた。寂しかったらしい。

 その翌日は、猫パーティは訓練の日だったので、わしも拉致。気分転換に、いつものソウ市の地下ではなく猫帝国に転移した。


「モフモフ~!」

「さっちゃ~ん! 危にゃいからそんにゃとこに登っちゃダメにゃ~!!」


 これはさっちゃんの強い要望。殺風景な地下より雪景色やマンモスを見たいとか言ってたから連れて来たけど、鼻が8本もある白マンモスに登るなよ。体高50メートルもあるのに怖くないんじゃろうか?


 さっちゃんは白マンモスと仲良くやってるので、あとのことはコリスと猫兄弟に頼んでわしは自分の修行。初心に返って刀の素振りをしている。


「それが【無意の剣】?」


 そこにイサベレが近付いて来て、わしの目の前で止まった。


「いんにゃ。ただの素振りにゃ」

「残念。教えてもらおうと思ったのに」

「鉄之丈もいまいちわかってなかったからにゃ~……そういえば、イサベレは修羅の剣は習得したにゃ?」

「たまにできる程度」

「おお~。さすがはイサベレにゃ。剣に関しては天才だにゃ~」

「どこが。ダーリンはすぐに使えるようになってた」

「わしの場合は下地があったからにゃ~」


 わしが修羅の剣を使えるようになったのは睡眠学習のマグレもあるけど、一番は前世に祖父の銀次郎にしごかれていたから。こちらの世界に来てからも、刀を作って生き物を何万匹と斬り殺していたから使えるようになったと思われる。


「ま、修羅の剣と優しい剣は相反するモノだからにゃ。いまは修羅の剣習得を優先したほうがいいにゃろ」

「んっ!」

「おっとにゃ」

「握り潰された……」

「にゃはは。できてたんにゃから、そんにゃ顔するにゃ」


 イサベレは修羅の剣でわしの首元を斬り付けたので、斬られたら気持ち悪いから完全防御。それが気に食わないイサベレはしかめっ面だ。

 それからわしたちは、見合うように刀を振り続け、たまにイサベレが成功させる修羅の剣は刀で打ち払うわしであった……



 世界旅行に飽きて来たさっちゃんが我が家でゴロゴロし出した頃、モフられていたわしの下へワンヂェンが近付いて来て「ちょっと」と目配せした。

 その真面目な顔で察したわしは、さっちゃんのモフモフホールドをスルッと抜けて、ワンヂェンの部屋で話をする。


「にゃんか相談事にゃ?」

「うんにゃ……アリーチェが身籠もったにゃ」

「にゃっ! おめでた…い、ワケではなさそうだにゃ……」


 オニタに早くも子供ができると聞いてわしは大喜びしたかったが、ワンヂェンは険しい顔を崩さないので上げた手をゆっくりと下ろした。そのワンヂェンは、大きめの封筒からレントゲン写真を取り出してテーブルに並べた。

 このレントゲン写真は、レントゲン魔法と複写魔法の合わせ技で作れるのだが、レントゲン魔法だけでもかなり難しいことをやっているので、いまのところわしと医療魔法特化のワンヂェンぐらいしかできない芸当だ。


「レントゲン……アリーチェのだよにゃ?」

「うんにゃ。ここ見てくれにゃ」


 ワンヂェンの指差す場所をよく見てみたけど、正直よくわからない。エコー写真とかなら白黒で映るからそうでもないが、これ、人間の輪切りが現物で映ってるんだもん。

 つまり、気持ち悪い。かと言って、患者さんにそんなことを言えない。患者さんはバリバリ言うけど……


「これは……ま、まさか……」


 生々しさに耐えたわしは、ようやくアリーチェの体の異変がわかって狭い額から汗がツーッと垂れた。


「そうにゃ。双子だったんにゃ」

「にゃんてこった……にゃんでオニタにばかり……」


 わしがオニタの不幸を悲しんでいるのには理由がある。エルフ市では双子は禁忌。1人産むだけでも母体に死ぬほどの負担が掛かるのに、2人同時となると母体の生存率が限りなくゼロに近付いてしまうからだ。


「このこと、オニタたちには……」

「まだにゃ。シラタマに判断を仰いでからのほうがいいと思ったにゃ」

「……ちょっと時間をくれにゃ」


 こんな重大なこと、わしにだって決められない。わしはワンヂェンの部屋を出ると、実家に転移して大声で喚き散らすのであった……



 その夜、わしは答えを持たずしてワンヂェンの部屋を訪ねた。


「主治医としての処方はどう考えてるにゃ?」


 なので、人任せ……黒猫任せだ。


「堕ろすのが無難だと思うにゃ……生きてさえいれば、まだまだ産めるにゃろ?」

「だよにゃ~……でも、2人が嫌がるかもしれないにゃ。その場合はどうするにゃ?」

「説得するしかないにゃろ。産むわけにはいかにゃいし」

「だよにゃ~……アリーチェが死んだら、オニタは立ち直れないと思うしにゃ~。その方向で進めといてくれにゃ」


 わしの発言で、ワンヂェンは目を丸くした。


「ウチが言うにゃ?」

「だって……主治医にゃろ?」

「こんにゃ重大なこと、ウチはオニタに言えないにゃ! シラタマは家長にゃろ! シラタマが言えにゃ~~~!!」

「わしだって、言いづらいんにゃ~~~!!」


 どちらが発表するかで、掴み合いのケンカ。その「にゃ~にゃ~」言い合う声が大きかったからリータたちが乱入して来て、2人して死ぬほどモフられたのであった。


 ケンカの仲裁に来たって言ってたけど、ホントかな~?



 翌日、わしとワンヂェンは、オニタ夫婦を仕事部屋に呼び出した。


「ちょっと言いにくいことにゃんだけど……」


 そこでわしからの発表。お母様方にも相談してみたら、多数決でわしに決まったの。言うからワンヂェンはわしの脇腹に肘打ち入れるな。


「心して聞いてくれにゃ」

「じいちゃん。早く言ってくれ」


 わしがゴニョゴニョやっているので、オニタも痺れを切らしている。


「アリーチェがおめでたにゃんだけど産むには問題があるんにゃ」


 ここは一息で。オニタとアリーチェも嬉しそうな顔をお互いに向けたが、すぐにわしに視線を戻した。


「問題とは?」

「エルフ族ってのは、出産に制約があるの知ってるにゃろ? イサベレたちが産んだ時、しばらく家に帰れなかったのも……オニタは小さかったから覚えてないかにゃ?」

「覚えてないけど……母さんがじいちゃんなら、母子共に健康に出産してくれると言ってた。違うのか?」

「1人だったらにゃ」


 オニタはオニヒメから出産についても話を聞いていたので話は早いかと思ったが、双子の件は聞いていなかったようでポカンとしてる。


「ワンヂェン先生の診断では、双子だったんにゃ。それで……」

「双子!? やった! 私やったよ!!」

「お、おお! やったな!!」


 しかし、何故かアリーチェは喜び出し、わしのセリフを(さえぎ)ったのでオニタも一緒に喜んでいる。


「ちょ、ちょっと待ってにゃ。最後まで話を聞いてくれにゃ。そのまま産んでしまうと、アリーチェが死んでしまうんにゃ。その話をしたいんにゃ」

「え……」

「だからなに??」


 続きを喋るとオニタは青ざめたが、アリーチェは気にしているようには見えない。


「にゃに? じゃなくて、死にたくないにゃろ? ハイエルフ族でも双子は禁忌じゃにゃいの?」

「禁忌なんてとんでもない。双子を産んだ母親は、尊敬されていつまでも敬われるのよ」


 何度も質問して聞き出したところ、どうやらハイエルフ族は長い間孤立していたから、わしたちとは死生観が違うらしい。

 特に双子を産んだ母親は、人数を減らすことも増やすこともせずに亡くなるから、狭い土地で暮らす部族としては一番有り難い死に方だとわしには聞こえた。



「ダ、ダメだ! 産むな!!」


 アリーチェがわしの質問に答えて終わりが見えた頃、さっきまで心ここにあらずだったオニタがテーブルを叩いて立ち上がる。テーブルはわしが守ったからセーフだよ。


「なんでよ。凄く名誉なことよ?」

「名誉なわけない! 死ぬんだぞ!!」

「それでいいのよ。どうせ産むしか選択肢がないんだからね」

「イヤだ! じいちゃんなんとかしてくれ!!」


 オニタに頼られたからには、わしはドヤ顔。でも、ワンヂェンがズイッと割り込んでその先は取られてしまった。


「猫の国の技術があれば、子供を安全に堕ろせるにゃ。もちろん、それで子供を産めない体になることは少なからずあるにゃ。でも、その確率はかなり低いから、ウチに任せてくれにゃい?」

「ほっ! ほら! 真っ黒ババアもこう言ってるぞ!!」

「ま、真っ黒ババア……」

「プッ……」

「シラタマ……笑えにゃ。大声で笑ってくれにゃ」

「いまはまだ笑えないにゃ~」


 こんな緊迫した場面にオニタがブッ込んだけど、笑いは我慢。ベティの騒音パーマといい、オニタの付けるあだ名はクセが強い。

 それから絶望の顔してるワンヂェンの背中をわしが撫でて励ましていたら、アリーチェの質問が来た。


「仮に私が生き残るとして、赤ちゃんはどうなるの?」

「それは……シラタマ?」


 主治医のクセにイヤなことをわしに押し付けやがるが、ふざけている場合ではない。


「日ノ本では水子と言ってにゃ。あの世に旅立つにゃ」

「そんな言い方しても、死ぬってことでしょ! 2人を殺すのね!?」

「言い方が悪かったにゃ。確かに殺すことになるにゃ。でも、人間はいつから人間かは、議論の余地はあるんじゃないかにゃ? まだ8週目にゃから意識もないはずにゃ」

「議論の余地なんてないわよ! 私のお腹の中にいるのよ? それを人間と呼ばず、なんて呼ぶのよ!!」

「あ、熱くなるにゃ~。わしたちはアリーチェに死んでほしくないから、鬼になる覚悟で説得してるんにゃ~」

「熱くなってない! 絶対産むからね! この猫~~~!!」


 わしの遠回しの説得は火に油。アリーチェが怒鳴り散らして部屋から出て行くと、オニタも勢いよく立ち上がった。


「アリーチェ!」

「オニタ! ストップにゃ!!」

「なんでだよ!!」

「お前まで熱くなったら話にならないにゃ。いまはアリーチェを1人にしてやれにゃ。にゃ?」

「……うん」


 ひとまずオニタは納得してくれたので、「コリスに遊んでもらえ」と部屋から追い出すわしであった……



「プッ……」


 部屋に2人きりになると、ワンヂェンが軽く吹き出した。


「にゃ? にゃんかおかしいことあったにゃ??」

「『この猫~!』だってにゃ。アリーチェにとっては猫が鬼ってことなんにゃろ? にゃははははは」

「ホンマにゃ!? でも、ワンヂェンも猫にゃよ?」

「ホンマにゃ!?」


 わしを指差して大笑いしていたワンヂェンだが、特大のブーメランが返って来て見事に突き刺さるのであった。


「真っ黒ババア……にゃははははは」

「いま笑うにゃ~~~!!」


 そこに言葉のトゲを突き刺してやったら、笑ってくれと言っていたクセにめちゃくちゃ怒るワンヂェンであったとさ。


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