猫歴89年その1にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。猫クランに卑怯者はいない。
「ベティは? キツネが目の前で爆発したんですよ?」
玉藻前の言う通り、います……それも相手にトラウマを植え付けるような極悪人が……
ベティのえげつない魔法を食らった玉藻前はお冠。再戦をしようとベティを追いかけ回していたけど、ベティは「旅に出ます!」と書き置きを残して消えた。
「まぁ卑怯なのはよくないけど、それを覆して勝つのが絶対的強者にゃ。酷にゃ言い方になるけど、玉藻前にも非があるんにゃよ?」
「対戦前から、いろいろ罠を仕掛けてたんですよ!?」
「わしだったら勝ってたにゃ。文句言ってにゃいで訓練しろにゃ。そんにゃ心持ちじゃ、ご老公に勝つのは夢のまた夢にゃ~」
「うう……次は殺してやるんだから……」
「もうベティと関わらないほうがいいんじゃないかにゃ~?」
玉藻前は本当にベティを殺してしまいそうだから、宥めるのは大変。そのままの殺意を抱いて、猫帝国に帰って行った。強くなるためにあっちで暮らすらしい……野生のキツネになりませんように!
そう祈りながら玉藻前を送り届けたあとに、わしがキャットタワーの廊下を歩いていたら変な気が漂う場所があった。「なんだろう?」と思いながら、擦れ違う時になんとなくわしは手を伸ばした。
「にゃ? ベ、ベティさんにゃ……」
するとモニュッと柔らかい感触があるなと思った直後、何も無かった場所にベティがスーッと出て来たので、わしは血の気が引いた。
「ななななな……どこ触ってるのよ! エロ猫~~~!!」
ささやかな胸を揉んでしまったんだもん。その大声で王妃様方がシュタッと現れたのだから、わしは恐怖に震えるのであったとさ。
それからわしはモフられていたけど、あんなに被害者ぶっていたベティは「事故だった」と主張して擁護してくれた。そして、わしを保護して密室に連れ込まれたのでもっと怖い。
「にゃに~? 謝ったにゃろ~。ま、まさか……わしから慰謝料取ろうとしてるにゃ?」
「違うわよ。隠していた魔法を見られたから、その口止めよ」
「あぁ~……そういえば、透明人間みたいになってたにゃ。にゃにアレ??」
「アレはカラーリング魔法のアレンジよ。空気にね……」
どうやらベティは、わしからカラーリング魔法を盗んでから実験を繰り返し、空気に色を付けることに成功したらしい。
これを使って、なんとか玉藻前を撒いたとのこと。だから誰にも知られたくないから、口止めしようとわしを呼び出したそうだ。
「でも、シラタマ君はなんでわかったの?」
「にゃんでと聞かれても勘としか……わしににゃんかしようとしてにゃかった?」
「うん。後頭部にシラタマ君の顔を描こうとしてた……それか!?」
「そんにゃことしたら笑い死にする人が出るから、絶対にやめろにゃ」
そのイタズラ心が漏れていたから、わしは侍の勘か野生の勘でベティの位置を掴んだ模様。両面に顔がある姿は、わしでも笑うからマジでやめてほしい。
「慰謝料、それでいいから描かせてくれない?」
「イヤにゃ~。そんにゃことしたら、覗き魔法のことみんにゃにチクるからにゃ~」
「そんな魔法名じゃないし!?」
こうしてわしはベティのイタズラは回避し、覗き魔法の本当の名前も知れたので、魔法書から楽々ゲットしたのであった……
覗きのためじゃないよ? ベティのイタズラ対策で……でも、一回ぐらい……
猫歴88年は玉藻前が猫クランに加入するぐらいしか大きなイベントはなかったのに、覗き魔法を知ってからわしの自制心が試される事態に。
女湯を覗きに行かないようにわしが頑張って……普段女湯に入ること多いから悩む必要なかったな。そのことに気付いた日にインホワが顔を前と後ろに付けて歩いていたから、キャットタワーに激震が走った。超面白いもん。
モフモフ組も死ぬほど笑っていたけど、いつ自分の後頭部にも同じ顔が描かれるかわからないと気付いて恐怖に震えることに。寝る時はフードを被って寝る習慣となった。
しかし、描かれるのはだいたい皆が揃っている時なので、「幽霊が描いたのでは!?」と小さい子がパニックだ。
なのでわしは「いい加減にしないと国外追放するよ?」と笑顔で脅して、ベティの蛮行を食い止めたのであったとさ。
そんな感じにワーワー……にゃ~にゃ~騒がしくして暮らしていたら猫歴89年になり、東の国の女王誕生が終わった2日後に、アメリヤ王国のシャーロット元女王からイサベレに電話が来た。
内容は、株取り引きのこと。でも、わしがまだ着信拒否してたから、アメリヤ王国との戦争の書類にサインしたイサベレに掛けたと思われる。電話を代わったら「いつになったら着拒やめんのじゃ。オオ?」と凄まれました。
株取り引きのことも着信拒否のことも完全に忘れていたことは秘密だけど、城を訪ねたらバレていたので、サヴァンナ女王とシャーロット元女王の2人に「オオ? オオォ?」と凄まれ続けてます。
「えっと……株取り引きの話をしましょうにゃ~。今年、世界金融会議に議題を提出するんにゃろ?」
わしが本題を出すと2人は席に着いてくれたので助かった。
それから話をするのかと思ったら、サヴァンナは「あの者を」と意味深なことを言い、しばらくしたら手錠を掛けられた髪が長く髭も伸びた胡散臭い顔の男が黒服に押されて入って来て、わしの顔を見るなり泣き出した。
「お猫様~! なんで助けに来てくれないのですか~~~!!」
「にゃ? お前……ズールイにゃ??」
「顔も忘れてる!? オ~イオイオイ……」
「いや、6年振りぐらいにゃったし……」
ズールイが泣き崩れるなか、わしはどうなってるのかとサヴァンナたちを見たら「トドメ刺したのあの猫よね?」とヒソヒソ喋ってる。
「にゃあ? こいつ、犯罪者みたいにゃ登場したけど、にゃんかやらかしたにゃ??」
「はい。と~ってもやらかしましたよ~?」
「と~っんでもないことをやらかしましたよ~?」
「笑うなら、目も笑顔にしてくんにゃい? 怖いにゃ~」
わしの意見は通らず。2人は殺気をほとばしりながらこの6年間の話をしてくれる。
アメリヤ王国限定のインターネット株取り引きが始まってから、最初はズールイの作ったファンド会社と、シャーロットの作ったファンド会社で売上勝負をして、そこから問題点を焙り出していた。
この頃の話はわしも知ってる。ズールイがグレーなことばっかりするから、勝てないし顔がムカつくって電話が毎日来てたもん。
問題はわしが着信拒否したあと。グレーゾーンをしっかり検討して、規正したほうがいい物は法案にまとめて議会に提出した。
しかし、新法で議員が詳しいワケがないからすぐに通ると思っていた法案は、多数決の末、廃案となったのだ。それが何度も続くから、さすがのサヴァンナもおかしいと思って調査をした。
すると、犯人はズールイ。議員に株式で稼いだ金をバラ撒き、法案成立をあの手この手で止めていたのだ。
ズールイは収賄罪で逮捕したが、議員に余計な知識を身に付けさせてしまったから、法案はなかなか通らず。なので苦肉の策で、ズールイを無罪にする代わりに知恵を借りたんだとか。
その結果、議員も大量に裁かねばならない事態に。ズールイは議員から、様々な情報を貰ってインサイダー取引をし、キックバックを渡していたんだもん。
このことで議会は解散。選挙までしたから法整備が整うまでに、わしに会いに来る余裕もないぐらい忙しくして6年もの時間が掛かったんだってさ。
「あぁ~……あの、その……お疲れ様でしたにゃ~」
ここまで酷いことになっていたのでは、さすがのわしも掛ける言葉がないよ。
「「こんなにやらかしておいて、それだけですか~??」」
「まぁ、その分、法整備は完璧になったんじゃにゃい? わし、株取り引きの法整備は大変だと言ったにゃろ?」
「まぁ……こっちの予想だにしない手まで使って来るから、参考になりましたけど……」
「にゃろ? ズールイはアメリヤ王国にあげるから、これからもアイデア出してもらえにゃ」
「はあ!? こんな危険人物いりませんよ!!」
「下手したら、アメリヤ王国は滅亡してたんですよ!!」
「「持って帰ってください!!」」
「えぇ~……わしもいらにゃいのに~~~」
「お猫様~~~!!」
ズールイの働きは災害級。ズールイはこのままでは死刑になってしまうとわしに泣き付き、2人にも押し付けられてしまったのだから、お持ち帰りが決定してしまうのであったとさ。
サヴァンナたちともう少し喋ったら、着信拒否も解除して帰宅。ズールイはわしのファンド会社に残すのは怖いので独立を促したけど、再雇用してくれと土下座で頼むので改心したのかも?
なので何かやらかしたらクビにすると条件を付けて再雇用してやる。仕事はアメリヤ王国の株式会社で技術力のある会社に融資すること。乗っ取りはわしの許可無くやらせない。
ちなみに捕まったあとのことを聞いてみたら、猫の国国民だから城に軟禁されていたとのこと。そこで王家が作ったファンド会社で、合法の方法のみで金儲けさせられてたんだって。
国家予算並みに稼いだから、命は取られなかったのだろう。やはりこいつを手放すのはもったいないな……
ズールイを見張りながら猫クラン活動をしていたら、アメリヤ王国に行ってから1週間後に、今度は東の国に呼び出された。
その日はシリエージョと会う日だったので「忙しい」とブッチしたら、わしは後ろからシリエージョに抱っこされてフランシーヌ女王の前に置かれた。だからこの日に呼ぼうとしたのか……
「えっと……にゃんか怒ってにゃす?」
フランシーヌ女王とアンジェリーヌ元女王は、コメカミに血管が浮かんでいるのだからわしでもわかる。しかし、怒られる理由はまったくわからない。
そんなとぼけた顔で2人の顔を交互に見ていたら、フランシーヌが一通の手紙をわしの前に投げた。
「にゃにこれ?」
「にゃにこれ? 猫の国にも届いているのにとぼけるのですか?」
「いや、わしはにゃにも聞いてないんにゃけど……」
「はぁ~……アメリヤ女王からの手紙ですよ!!」
フランシーヌの問いにわしがずっととぼけた顔をしているので、アンジェリーヌはため息のあとにテーブルを叩いて怒鳴った。
「ああ~……世界金融会議の出欠確認にゃ……」
「そうです。猫の国が連名になっています。おじ様は東の国を裏切ったのですか!?」
「裏切るにゃ??」
「アメリヤ王国に助言して、新しいことを始めようとしてるのですよね!? この裏切り猫~~~!!」
「ちょちょ、ちょっと落ち着いてくれにゃ~」
アンジェリーヌが怒りのあまり、わしの襟首掴んで揺らすので話もままならない。しだいにわしをモフモフし始めたから、そろそろ落ち着いたかな? もう80歳超えてるんだから無理するな。
「あのにゃ。わしが手伝っているのは、システムだけにゃよ? 為替で言うと、ネット環境の部分だけにゃ」
「そんなことないですよね? こんなに画期的なことは、おじ様じゃないと思い付かないはずです」
「そうでもないんだにゃ~。今代のアメリヤ女王は、金融関連にめちゃくちゃ強いにゃ。わしだって、してやられたと思ってるんにゃよ~?」
「「うそ……」」
わしがサヴァンナをベタ褒めすると、2人は顔を見合わせた。その隙に、わしはこの6年間のアメリヤ王国の動きを掻い摘まんで教えてあげた。
「にゃんでもかんでもわし頼りにされたら困るにゃ。フランちゃんも功績欲しいにゃら、頭を使わないとにゃ。自分で思い付かないにゃら、下の意見を聞く耳を持てにゃ。案外、下を見ていたら面白い物が落ちてるモノにゃ~」
わしがいいことを言って締めると、2人は尊敬した目を……
「「賢いこと言ってる……」」
しない。
「そのバカに、東の国は散々集って来たんにゃよ?」
「「あ……たはは……」」
なので、わしもコメカミに血管を浮かべてツッコミ。ここまで言われては2人も反論できないのか、苦笑いしかできないのであったとさ。
それから数日後、リビングでわしはウトウトしながらテレビを見ていたら、ミテナが飛び込んで来てわしを揺らした。
「なんでアメリヤ王国にあんなに凄い功績あげてるのよ! この裏切り猫~~~!!」
「もうそのやり取りは、もうフランちゃんたちとやったにゃ~~~!!」
世界金融会議をするというニュースがあったからだ。フランシーヌたちとは違い、わしがどんなに論破しようとも、ミテナは聞く耳持たずで揺らしまくるのであったとさ。




