猫歴87年その5にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。みんなプロレスをしてください……
関ヶ原は2日目が終了。4対3で猫クランがリードしている。もう1、2勝ぐらいしていてもいいのに玉藻たちがプロレスをしてくれないから、この僅差で折り返してしまった。
その件の苦情を言いに天皇陛下の屋敷を訪ねたけど、わしにも「手加減せい!」との苦情。猫クラン後衛組が規模の大きな魔法を使いまくったから、会場がエライことになったんだって。
幸い死人は出ていないが、呪術対決に出ていた神職の者が怪我してトラウマを抱えたそうだ。それは本当に申し訳ありません……
苦情を言いに行ったのに、倍の苦情をお持ち帰りしたから負けた気分になって、この日はなかなか寝付けないわしであったとさ。
関ヶ原3日目。8種目めは剣道なので、猫クランの出場者選びは難航。全員、侍攻撃ができるから選り取り見取りと言いたいが、アンクルチームが出たいと折れてくれないの。
なのでわしが「11種目めのほうが楽しめる」からと土下座してなんとか辞退してもらえた。
猫クランからは、先鋒グレタ、次鋒シゲオ、中堅シリエージョ、副将インホワ、大将わしだ。
日ノ本からは、先鋒黒タヌキ、次鋒玉藻前、中堅秀忠、副将玉藻、大将家康だ。おそらく侍攻撃の精度で決められたと思うけど、今日もプロレスなしか~い。
全員竹刀を持って闘技場に登って挨拶したら、先鋒の対決。グレタはあっという間に倒したけど、竹刀は折れるわ黒タヌキの頭から血が吹き出したのでやりすぎ。
次は侍攻撃の精度は玉藻前が上だったので、玉藻前の勝ち。その疲れがあったのでシゲオが勝ったけど、ギリギリだ。
観客はやっと普通に見える試合が見れて大盛り上がり。日ノ本側は昨日から満員御礼でブーイングの声もデカイ。
仕切り直してシゲオVS秀忠は、秀忠はわしに負けてから剣の稽古に打ち込んでいたからかなり強くなっていたので、シゲオは二本取られて負け。
シリエージョVS秀忠では、なかなかいい勝負となったが、シリエージョのほうが地力で勝った。インホワはまた息子の仇討ちがしたかったのか、シリエージョの負けを祈っていたから殴られてました。
次はシリエージョVS玉藻。もちろん玉藻のほうが侍攻撃を習得して長いので、シリエージョは歯が立たず。インホワVS玉藻も一緒。インホワは頑張ったけどストレートで負けてしまった。
「マジで手、抜いてくんにゃい?」
「ククク。まぁ妾はまだシラタマには適わないからな。家康に任せよう」
「スタミナ削りに来るにゃよ~」
わしVS玉藻は、玉藻が消極的な戦い方をするから長い戦いに。わしは何度も指導を訴えたけど、行司のヤツ、明後日の方向を向いて口笛吹いてやがる。
それでもわしは強いから、小手を二本入れてストレート勝ちだ。
「ご老公も時間稼ぎはやめてくれにゃ~?」
「フッ……お主がどれだけ疲れているかによる」
「そこはすぐ倒してやるとかにゃろ~~~」
家康まで消極的。一本目は時間を長く取られて、わしの面アリ。二本目の家康は守ったり攻めたりとわしを揺さぶったが、胴有りでブッ飛ばしてやった。腹立ったんじゃもん!
剣道対決は勝利したけど、わしは集中力を使いすぎてグデ~ン。だがしかし、9種目めの囲碁対決の出場者を決めなくてはならない。
「ギョクロ。軽く捻り潰してやれにゃ」
「無茶言うにゃ!? 相手はプロ棋士にゃよ!?」
「にゃ~? 囲碁ゲームやってたんにゃから、にゃんとかなるんじゃにゃい?」
「にゃるわけないにゃろ!!」
わしが無茶振りしたらギョクロは騒ぎ倒していたけど、しばらくしたら落ち着いた顔になった。
「俺たちの子供にゃら勝てるかもしれないにゃ」
どうやら黒モフ組の一期生と二期生の子供はAI技術製作に携わっており、囲碁や将棋のオンラインゲームも作ったんだとか。
「誰でもいけるにゃろ?」
「「「「「いやいやいやいや……」」」」」
でも、ギョクロのも無茶振りみたい。みんなプロ棋士には勝てないと首を横に振りまくっている。ならばわしの出番だ。
「オンラインゲームってことは、そのAIに戦わせたらよくにゃい?」
「「「「「それにゃ~~~!!」」」」」
囲碁対決は、猫クランでもなければ猫ファミリーでもないAIに決定。孫たちはデータが取れるとメラメラ燃えるのであった。勝ちは目指してないんじゃ……
「ノルンちゃんは!? ノルンちゃんが出れば楽勝なんだよ!?」
その時、ノルンがいきなりの立候補。わしはうっとうしいヤツが来たと相手はするが、孫たちにはさっさと行けと手で合図した。
「にゃんで今まで囲碁できるの言わなかったにゃ?」
「ノルンちゃんは猫クランの頭脳担当だから、泣き付いて来ると思ったんだよ~。ノルンちゃんも出してなんだよ~。え~んだよ~」
「泣きながらブンブン飛ぶにゃ~」
ノルン、泣き付いて来られなかったから、逆にわしに泣き付く。あまりにもうっとうしいので、将棋なら許可を出すわしであった。
「仕方ないんだよ。それで手を打つんだよ」
「将棋もできるんにゃ……」
てっきり囲碁しかできないと思っていたわしの負け。しかし孫たちから「データが~」とモフモフ囲まれたので、「AIが負けそうになったらノルンがやって」と土下座するわしであったとさ。
わしが土下座することでノルンも「プププ。仕方がないんだよ」と納得。孫たちに「こんなちっこいのに……」と冷めた目で見られたから腹は立つが、囲碁対決に目を移す。
囲碁対決は、日ノ本のプロ棋士と、尻尾の形が違う黒猫孫の2人掛かりで対戦。1人がノートパソコンを操作して、1人は石を動かす係だ。
玉藻たちからは許可を取れたが、観客は「2人掛かりじゃないと勝負もできんのか。卑怯者~!」とヤジが凄い。でも。戦っているのはAIだから無駄だ。
その試合は、プロ棋士の調子が悪いのか長考が目立つ。AIはすぐ返すから、焦っているのかもしれない。
なんだか長く掛かりそうだなとわしが思っていたら、玉藻に呼び出された。玉藻も同じことを思ったらしく、お昼からやる予定の、10種目めの将棋も同時並行でやりたいそうだ。
それを受け入れてノルンと孫を送り込んだら、しばらく様子見。ノルンが駒を動かす係をするのかと呆れたけど、ちゃんと孫の指示通りやっていたからもういいや。
暇になったので、この時間にお昼寝に突入するわしであった。
それからお昼になり、モグモグしながら途中経過を聞き、まだ掛かりそうだったのでまたお昼寝。その1時間後ぐらいに、囲碁対決の決着だ。
「あらら~。負けちゃったんにゃ」
「いいところまで行ったんだけどにゃ~……AIが予想していない奇策を打たれたにゃ」
「ふ~ん。天才ってヤツにゃ……あのプロ棋士、スカウトしよっかにゃ?」
「それいいにゃ。息子たちも喜ぶにゃ~」
AI開発には必要な人材なので、スカウトは決定。孫たちが戻って来たら労ってあげたけど、プロ棋士を絶対に連れて来いと燃えていた。負けたのもういいんだ……
そうこう黒モフ組に囲まれて「にゃ~にゃ~」喋っていたら、将棋の会場から「わっ」という声が聞こえた。
「父さん! 勝ったにゃ! 勝ったにゃよ!!」
「う、うんにゃ。よくやったにゃ~」
大番狂わせ。プロ棋士にAIが勝ったというか、外国人に負けたと日ノ本の客は驚いたのだ。わしは嫌な予感がヒシヒシとしてます。
「なかなか上手かったんだよ。でも、最後の詰めが甘かったんだよ」
「ノルンちゃんのこの一手、痺れました。これこそ神の一手……また修行を積みますので、再戦してください」
「いつでも挑戦受け付けるんだよ~~~!」
だって、プロ棋士はちっこいノルンと握手をしてるんだもん。たぶんだけど、後半はノルンがAIを無視してやっていたな……
戻って来た孫が「AIがノルンちゃんに負けた」と悔し涙を流していたから確実。わしはプロ棋士をスカウトしてやるからと慰めるのであった。
会場はしばし休憩に入り、11種目めに突入。対決内容は、直接攻撃有り、魔法有りの実践対決だ。
猫の国の参加者は、先鋒ベティ、次鋒メイバイ、中堅リータ、副将イサベレ、大将のわしだ。コリスを副将にと考えたけど、ワイロで負けそうだからやめておいた。
日ノ本の参加者は、先鋒また黒タヌキ、次鋒秀忠、中堅玉藻前、副将家康、大将玉藻だ。メンバーは剣道対決とほぼ一緒だけど、順番は魔法を加味した実力で決められたと思われる。
「まさか将棋を取られるとはのう」
「わしもビックリにゃ。ま、ここまでで6対4なら、予定通りにゃろ。民も集まってくれたしにゃ~」
「じゃな。しかし、戦闘をほとんど取られているのは見栄えが悪い。ここは取らせてもらうからな」
「いや、最後で一発逆転があるんにゃから、勝ち星を縮めようとするにゃ~」
玉藻たちはやっぱりプロレスは無視。「絶対勝つ!」って円陣を組んで気合いを入れているので、産休明けの人が多いのにアンクルチームは「やっていいのね?」と妖しく笑うのであった……
実践対決の獲物は、全員折れないように白魔鉱の得意武器の刃が無いヤツ。先鋒タヌキは初めて白魔鉱の刀を握ったのかテンション上がっていたけど、ベティのワンパンで退場だ。
続いて秀忠との対決は、ベティが汚い魔法を使いまくって楽勝。日ノ本の観客のブーイングがうるさいからって、ベティは中指を立てていた。ヒール役、似合ってるな……
次はベティVS玉藻前。ベティは汚い魔法を見せ過ぎたから距離を取られ、玉藻前の遠距離魔法で膠着状態になってしまう。
そこでベティは真面目にやるようなことを言っての騙し討ち。玉藻前がガム弾で足を取られた瞬間に一気に距離を詰め、ピストル型の武器二刀流で玉藻前を打ち付け、風魔法乱射で場外に追いやった。
ベティは三連勝で勝ち上がったが、家康との対戦は拒否。勝てる試合しかしたくないらしい……だからブーイングが起こるんじゃ……と思っていたけど、けっこう限界は近かったみたいね。
続きましては、メイバイVS家康。メイバイは素早さでも通じないから、侍攻撃の接近戦に持ち込んで二本の小刀を振るう。
わしの目には、侍攻撃の精度はややメイバイが上。しかし相手は人間界3位の化け物。何度かいいのが入ったぐらいで、メイバイは大きな軍配を食らって弾き飛ばされてしまった。
わしが「暴行事件だ!」と叫んでいたら、リータVS家康の試合が開始。リータも接近戦を挑み、拳を振り続ける。
ただし、リータのメイン武器は大盾。さらには長い鎖も使えるから、家康は足に鎖を巻き付けられ、大盾を崩せずに戦い難そうにしている。
長い戦闘になると、先に根を上げたのはリータ。集中力もスタミナも切れたところに軍配が振るわれ、大盾で防御は間に合ったモノの闘技場から落ちてしまった。
またわしが「プードルにしてやる~!」と叫んでいたら、イサベレの登場。イサベレも接近戦の侍攻撃を選び、家康を追い詰める。
家康が不利になっている理由は、イサベレの戦闘方法のせい。横移動だけじゃなく縦移動も入れて、空中から素早い剣戟を繰り広げているからだ。
勝敗は、3戦連続、侍攻撃を受けた家康の集中力とスタミナ切れ。イサベレの刀を頭に食らって、ズシーンッと仰向けに倒れたのであった。
行司の勝ち名乗りが響くなか、わしは刀を杖代わりにして立っているイサベレに駆け寄る。やはりイサベレも体力の限界で立っているのもやっとだったので、お姫様抱っこで運び出す。
そうして闘技場に戻ったら、玉藻に介抱されていた家康が頭を押さえていた。
「まさかご老公が負けるとはにゃ~」
「ああ。してやられた3人掛かりで儂の体力と集中力を削っておったとは……作戦負けじゃ」
「にゃはは。今回は潔いにゃ~」
「また地面に張り付けられたくないからのう」
わしと家康は初めて戦った関ヶ原の思い出話に発展しそうだったが、玉藻に止められて大将対決に移行。お互い得意武器を構えて相対す。
「家康が負けるのは予定外じゃったが、ピンピンしているシラタマとの戦いもよかろう。今回こそ勝たせてもらうからな!」
玉藻が鉄扇を向けて宣言するが、わしはもうプロレスしろと言う元気もないよ。
「どうでもいいけど、わしと初めてやった時のことは覚えているにゃ?」
「フッ……妾もあの頃とは違うのじゃ。妾の本気の呪術を受けてみよ!!」
玉藻はわしと同じく、魔法特化の獣。開始と同時に闘技場が吹き飛ぶような魔法をいくつも繰り出した。
「フッ。いくらシラタマでも無傷では済まんじゃろう……アレ?」
充分な攻撃を加えた玉藻が勝ち誇った顔をしていたけど、煙が晴れてアグラを組んで座っているわしを見たらとぼけた声が出た。
「やっぱり忘れてたにゃ~。魔法はわしには効かないにゃよ?」
「しまった!?」
そう。わしには完全防御とまではいかないが、魔法をほとんど消してしまう【吸収魔法・球】がある。
初めて会った時もこれを使って玉藻の猛攻を全て受け切ったのに、玉藻はこのことを忘れていたから、わしは大きなため息が出てしまうのであったとさ。