猫歴87年その4にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。家臣を怖がらないでください。
天皇陛下は玉藻たちの実力に縮こまって叱ってくれないので、わしがプロレスをやれと「にゃ~にゃ~」苦情。玉藻たちは耳を塞いでいたが、わしはもう眠たいのでオクタゴンに帰って熟睡。
翌朝、関ヶ原2日目が始まった。
「勢揃いだにゃ……」
関ヶ原4種目めは、武術対決。わしは玉藻たちが信じられないので大将として出場したら、玉藻、家康、玉藻前、秀忠が道着を着て立っているからキレそうだ。
「まぁ、朝からこの入り様なら、昼には満員になるじゃろう。作戦は成功しておる」
確かに玉藻の言う通り、日ノ本の空席は昨日より半分以上埋まっているから満員は時間の問題。しかし、玉藻が大将をするのは、勝ちを狙っているとしか思えない。
「わしが女を殴れないから、その順番になってるんにゃろ?」
「いいや。ただの強さ順じゃ。ほれ? もう始めると行司も言っておるぞ。下がらんか」
「今日も夜に説教あるからにゃ~~~」
わしがゴネていても、武術対決は開始。先鋒のニナはネコパンチでタヌキ武術家を場外に追いやった。
勝負はここから。次鋒の秀忠には、得意な汚い攻撃のできないニナでは力及ばず。決まり手は縦四方固めという女性に配慮した技だったけど、わしは「セクハラにゃ~!」と叫び続けた。
猫クランの次鋒は、メイバイ。素早いヒットアンドアウェイで秀忠をボコボコにしてくれてから、わしの溜飲は下がる。
日ノ本の中堅は玉藻前。お互い慎重に戦って小出しの技ばかりだったから、指導の貰い合いに。てか、行司は見えてないからそんなこと言ってたと思う。
ホームタウンデシジョンでメイバイが負けたから、わしは怒鳴り込みました。
猫の国の中堅はリータ。足を止めて玉藻前の攻撃を受け、疲れたところを捕まえてマウントポジションを取った。リータの一発目のパンチは外れたけど、玉藻前は疲れもあるからギブアップを宣言した。
わしが「リータのパンチにビビってる~」と煽っていたら、副将の家康が入場。観客は大声で応援してわしの声は掻き消される。
それでもマイクを握り「わしの嫁に怪我させたら毛を全部剃ってやる!」と叫んでいたら、決着。
家康には遠く及ばないのだから、スピードでも負けたリータが6本のタヌキ尻尾にくるまれるだけで負けを認めたのだ。決まり手は「幸せホールド」とリータが言ってましたけど、それは浮気なのでは……
猫の国の副将は、猫クランランキング2位のコリス。またわしは家康にブーイングを送っていたら、リータとメイバイがわしをサンドイッチして試合が見えなくなった。
武術の試合なんだから殴り合いは当然だから、わしの口を塞いだみたい。わしのこの細腕では、2人のお胸から抜け出せないから我慢する。
試合は防御無視のガチンコの殴り合いで観客は大盛り上がり。そんなことをしていたら、家康がローブローが入ったと苦情を入れたあとに勝ちを譲った。
リータたちに何があったのかと聞くと、コリスの尻尾が家康の腹に減り込み、それが決定打となったけど、家康は負けたと言いたくなかったんだろうね。
次はコリスVS大将の玉藻。今回はお互い足を使って戦っていたが、3回目に接触したあとにコリスは自分の足で闘技場を降りた。コリスの頬袋が膨らんでいるところを見るに、玉藻がエサを詰め込んだのだろう……
「買収にゃんて、汚い手を使うにゃよ~」
大将のわしが闘技場に登ると大きなブーイングが上がったけど、それは不正をした玉藻に言ってくれ。
「コリスは強いからのう。シラタマと当たる前に疲れたくなかったんじゃ」
「だからにゃ。これ、八百長試合にゃよ? 本気で戦うにゃと言ってるんにゃ~」
「まぁまぁ。妾が勝ちそうになったら、そちを上から見下ろしながら負けを宣言してやるから安心しろ」
「わしを倒そうとしてるにゃ~」
問答を繰り返していたら、行司がハッケヨイ。その掛け声で、わしたちは闘技場から消える。
これは、人の目には見えていないだけ。闘技場の上では、わしたちは縦横無尽に動き回っているよ。
ただし、わしは女性を殴りたくないので受けるだけ。それを5分ほど続けたら、ついにわしは攻撃を仕掛けた。
闘技場の端で玉藻の御御足を抱えたら、垂直に放り投げる。わしも同時に飛び上がると空中で玉藻と目が合った。
「フッ。そちの狙いはわかっておるぞ。妾の場外負けじゃろう? 妾だって空中歩行ができるようになっておるから、絶対に落ちてやらんからな」
「ここまで盛り上がってるんにゃから、もういいにゃろ~」
「よくはない。シラタマに勝てるチャンスはそうそう巡って来んからな。この試合は勝たせてもらうぞ!」
「負けるって言ってたにゃ~~~」
玉藻は聞く耳持たず。空中でパンチを振るったが、わしは空気を踏んで懐に入ると猫だまし。玉藻は目の前で拍手をされて一瞬目が眩んだ。
「猫が猫だましとは……ん? どこ揉んでおるんじゃ~~~!!」
その隙に、わしは諸手突き。事故で玉藻の大きな物に当たっただけだから、揉んでない。しかし、玉藻はセクハラを受けたと思って本気の拳骨。
わしはそれを避けられずに、闘技場中央に突き刺さるのであった……
「まったく……まさかシラタマがそんなことをするとはのう」
玉藻は頬を赤くし、胸を手で隠しながら着地。すると意外な声が聞こえた。
「玉藻様の場外! 勝者、猫の~王~~」
「……は??」
その行司の声で玉藻が足元を見たら、闘技場は爪先から10センチほど前。上空に投げられた時は、確かに闘技場の端だったから、玉藻が目測を誤るワケがないのだ。
「シラタマ……何をしよった!!」
なので、わしを怒鳴る玉藻。わしはニヤケ顔で、闘技場にできた穴から顔を出した。
「にゃはは。飛ぶ前に闘技場をちょっとズラしただけにゃ。上手く引っ掛かってくれたにゃ~。にゃははははは」
そう。わしは試合中に闘技場がズレないかと、端に行った時には必ず尻尾で横を叩いていた。それでズレることを確認していたから、罠に嵌めたというワケだ。
「クッ……それを悟らせぬために妾の胸を揉んだのか! この助平猫~~~!!」
「玉藻さん。わしは諸手突きをしただけであって、お胸に当たったのは事故ですにゃ。大声でそんにゃこと言わないでくれにゃせん?」
武術対決は猫の国の勝利となったが、玉藻の発言はテレビ放送に乗ってしまい、日ノ本の民や見ていた他国の者に助平猫と呼ばれてブーイングまでされたので、まったく勝った気がしないわしであったとさ。
会場はあまりにも「助平猫、助平猫」とブーイングが酷いので、一旦休止。一部のキツネ族は「羨ましい」とか「揉み心地を聞きたい」と酒の肴にしたんだとか。
わしはリータたちに「揉んだんか? オォ??」とモフられて気絶していたので、その声は一切聞いてない。目覚めたら、次の対決だ。
関ヶ原5種目めは、流鏑馬対決。猫クランメンバーには馬に乗れる人も弓を射れる人もいないから、どうしたものかと考えて、乗り物は電動バイク。弓の代わりにピストルと決まった。
わしたちに有利に見えるが、出場者はほとんど使ったことがないから、どっちにしても負けると思うから許されたのだ。
猫クランからの出場者は、インホワ、シゲオのカッコイイ物好き親子。コスプレ大好きキアラ。ピストル型の武器で戦うベティ。大将のわし。全員、黒の革ジャン革靴でキメ顔だ。
「シラタマ君もインホワ君側でしょ?」
「ベティもにゃろ~」
わしもベティも似たような気持ちで参加しているけど、流鏑馬対決はスタート。ちなみに流れ弾で怪我しないように、猫クランが黒魔鉱製のアミを持って待機しているよ。
予想通り、インホワ、シゲオ、キアラはバイクを扱い切れず、ピストルも的に滅多に当たらず仕舞いで終了。
日ノ本組は本気で戦っているから、玉藻たちは出場辞退。流鏑馬が得意な武士が的を次々と射抜いていた。汚いヤツらじゃ……
もう負け決定だけど、わしとベティがやらせてくれと懇願したら、なんとか通った。それも2人で全ての的を射抜けば勝ちまで譲ってくれるとは、汚いなんて言ってごめんなさい。
「さあ、ベティ……やっちゃいにゃ~!」
「全部射抜いてやるわ!」
わしとベティは、こう見えて第三世界出身。バイクに乗ったことあるし、アクション映画も見まくっていたから、いまの運動能力ならマネぐらいできる。
副将のベティからバイクをふかし、全ての的を射抜くわしたちであった……
「お主ら、風魔法使っておったじゃろう? 妾の目はごまかせんぞ??」
「「バレたにゃ? てへ」」
でも、玉藻に不正はバレてしまったので、2人でてへぺろ。流鏑馬対決は日ノ本の勝利になるのであったとさ。
関ヶ原6種目めは、呪術対決。ただし、遠くの的を狙うだけの対決だから、面白くないからか玉藻たちの出場はナシ。
それならば我が猫クランの独壇場。チュドーンッ!と的を射抜くどころか破壊して楽勝だ。
続いての7種目めも呪術対決。今回のは出場者の頭と両肩に付いている紙風船を割るだけの競技だけど、またしても玉藻たちはおらず。
またしてもチュドーンッ!と紙風船を割って、猫クランは2連勝でこの日の対決を終えたのであっ……
「翁~。麻呂たちの扱いが雑でおじゃるぅぅ」
「派手に活躍していたの見ていなかったでごじゃるか?」
でも、呪術対決に出場していたグリゴリー、ナディヂザ、アリス、サクラ、ウロは納得いかない顔だ。
「ちゃんと見てたにゃよ? でも、わしも言ったよにゃ? 玉藻たちがいにゃいんだから、いい勝負に見えるように戦えと……にゃのに、にゃんで大技の魔法ばっかり使うんにゃ~」
「「め、目立つためでごじゃる……」」
「そんにゃことするから、チュドーンッ!で終わるんにゃ~」
「「「「「そんにゃ~~~」」」」」
この対決を引っ張ると、この年の話数が増えることは関係ない。単純に猫クランの後衛組が大技ばかり使うから書くことがなくなっただけ。
自業自得なのに、もっと出番をくれとうるさい後衛組であったとさ。