猫歴83年その2にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。長いだけの会議はわしも嫌い。
株取り引きのオンラインシステムのために、猫大技術部門のシステムエンジニアをゴッソリ引っこ抜いたら、狐尻尾の黒猫息子フユからは感謝。そこで仕事を頼んだら興味津々だ。
「にゃるほどにゃ……為替に使ったアルゴリズムが使えそうだにゃ」
「てことは、すぐできるにゃ?」
「にゃワケないにゃろ。最低1年は見てくれにゃ~」
「だよにゃ~……あ、この本、使えるかもしれないにゃ。参考に預けるから、絶対に外部に漏らさないでくれにゃ」
わしが積み上げた本は、株式関連の本。昔は猫大地下大図書館で普通に読めたのだが、ホウジツがやりたいと言い出してから隠した物だ。だって、マネーゲーム嫌いだもん。
「にゃあ? いまから株取り引きを始めるんにゃろ?」
「うんにゃ。それがにゃに?」
「だったら、アメリヤ王国に貸し出したほうがよくにゃい? そのほうが助けになるにゃろ?」
「まぁにゃ~……でも、この世界の人が言い出したんにゃから、たまには苦労させてやろうにゃ」
「父さんがイジワルしてるにゃ……」
「イジワルじゃないにゃ~。これが正しい未来の作り方なんにゃ~」
わしが遠回りなやり方をしているので、フユにはアメリヤ王国をイジメて楽しんでいると思われるのであったとさ。
フユを引き抜いたのは朝だったので、システムエンジニアはお昼まで株式関連の参考書を熟読。わしもその部屋でサボ……参考書をながら読み。
途中で寝ていたらしく、フユに起こされて食堂でランチだ。狸尻尾の黒猫息子ギョクロたちもいたので、黒モフ組に囲まれたから暑苦しい。わしの取り合いのケンカは禁止で~す。
「父さんじゃないにゃ。フユに戻って来いと言ってるんにゃ」
「そんにゃこと言って、わしがいなくて寂しいんにゃろ~?」
「スリ寄るにゃ! 気持ち悪いにゃ! 俺のこといくつだと思ってるにゃ~~~!!」
ギョクロがあまりにも悲しいことを言うので、わしはスリスリ攻撃。狐尻尾の黒猫娘ナツも巻き込んでスリスリしたら、「キモッ」て汚物を見られる目をされて泣きそうだ。還暦すぎているのに辛辣すぎるじゃろう……
「いまにゃ! 父さんが囮になっている内に逃げるにゃ~」
これは実はフユたちを逃がすため。ギョクロたちが「にゃ~にゃ~」騒いでいる内にフユたちは脱出したけど、わしは深い心の傷を作るのであったとさ。
それからフユたちが使っていた部屋を訪ねたらもぬけの殻。夜逃げしたように何も無かったから電話してみたら場所を変えていたみたい。
なのでわしもそこでお昼寝……ではなく、株式関連の本をながら読み。夕方頃にフユに起こされてキャットタワーに帰った。
「シラタマさん……正座」
「にゃ、にゃんでですか?」
「ギョクロたちの仕事を邪魔したらしいニャ……」
「にゃ!? ギョクロ! 自分の都合のいいチクリ方するにゃよ!!」
リータとメイバイが説教モードだったので、後ろに隠れていたギョクロを引っ張り出して、斯く斯く云々と説明。すると説教の対象はギョクロに変更。でも、わしもトバッチリでモフられました。
リータたちが満足して離れた場所には、わしとギョクロがピクピクして倒れていた……
「だから言ったんにゃ……こうにゃるから……」
「ゴ、ゴメンにゃさい……」
「もういいにゃ。それよりギョクロたちがやってる実験にゃんだけど、いまの施設が小さ過ぎるのが問題じゃにゃい?」
「確かに……もっと大きくて、誰にも迷惑が掛からない場所にゃら実験が捗るかもにゃ……それって父さんが作ってくれるにゃ?」
「それぐらい予算をやりくりして自分でやれにゃ~」
「ママ~~~!!」
「黙れにゃ!?」
わしがいいアドバイスしたのに拒否したら、ギョクロはお母様方を再召喚。今回はギョクロは優しく撫でられて、わしは超絶技巧の撫で回し。ギョクロの仕事を手伝えってことらしい。
こうしてわしが猫の島マーク2に実験施設を作ることで、フユたちシステムエンジニアチームは快く送り出されて丸く収まったのであった。
「プププ。また王様らしくない仕事してる」
「マスターは建設会社に入社したんだよ~」
「にゃんでベティとノルンまで来てるにゃ~。どっか行けにゃ~」
「バカンスよ」
「バカンスなんだよ」
「「キャハハハハハ」」
猫の島マーク2は、王族専用リゾート地。わしが時間の掛かる作業をするからって、猫ファミリーの暇な人はバカンスを楽しみながらわしを嘲笑うのであったとさ。
猫ファミリーが水着を着てキャッキャッと遊ぶ中、わしはせっせっとせっせっと実験施設の建設。そんなことをしていたら、巨大な白いタコが騒ぎ声に誘われて島に近付いて来たので、猫クランが処理してた。
その猫クランの活躍を黒モフ組は初めて目の前で見たので腰を抜かしてた。巨大な白タコもそうだが、お母様方の虐殺風景が怖かったんだって。わしも怖いからそんなもんだよ?
実験施設建設は、ギョクロたちの注文が細かいので2週間も掛かってしまった。正確には週に2日の猫クラン活動は休ませてもらえなかったから、こんなに掛かったの。
お母様方の怖い姿を見たから、早く完成させたいギョクロたちも反対してくれなかったのが理由だ。
それからのわしは、猫クラン活動と黒モフ組の視察で休みはナシ。ギョクロの実験チームの所でお昼寝し、フユの株式チームの所でお昼寝してるからだ。
それをチクられてお母様方にモフられたけど……寝るなら家で寝ろですか。怒りません?
ギョクロやフユを邪魔するくらいなら家で寝ろと言われたので、堂々とお昼寝。そもそも大口の取り引きを取って来たし、実験施設も建てたからゆっくりしてよかったんだって。
そんな感じでダラダラしていたら、フユから試作機ができたと聞いたので、株式チームの半数を連れてアメリヤ王国へ。
サヴァンナ女王とシャーロット元女王に、株式チームのリーダーであるフユがプレゼンだ。
「にゃに?」
「父さんがやってくれにゃ~」
いや、フユはこういうのは苦手らしいので、わしに押し付けられました。サブリーダーの狸尻尾の黒猫娘シラツユにも頼んでみたけど、目も合わせてくれませんでした。
「えっと~……これはまだ試作機で、不具合があることは了承してくれにゃ。今回は株式システムを導入するに当たって、行程表の確認をするために、突貫工事のシステムを持って来たからにゃ」
サヴァンナからも許可を得たので、わしは資料を見ながらプレゼン。どいつもこいつも、わしが賢いこと言ってるってうるさいな。ちゃんと読んで来たっつうの。
「まぁ要約すると、まずは株取り引きをする場所のシステムをアップグレードして、アメリヤ王国内で個人が簡単に参加できるシステムを構築するにゃ。その後、世界に広げるって、段階的にやって行こうってことだにゃ。ひとまず試作機で試して、より使いやすいように、わしの自慢の家族やエンジニアが改良してくれるにゃ~」
最後までプレゼンしたら、よくできましたとスタンディングオベーション。その発言が無駄だわ~。
「んで、ひとつ問題があってにゃ~……」
わしが言いづらそうにすると、サヴァンナが小さく手を上げた。
「問題とは?」
「これらのシステムを使うに当たって、電力がけっこう必要になるんにゃ。ウチも電力はいっぱいいっぱいでにゃ~……アメリヤ王国で捻出できにゃい?」
そう。猫の国は自国に加えて、世界中に電池魔道具をレンタルし、衛星電話回線に加えてインターネット用のデータセンターまで電力を出しているからカツカツ。
いくら電力を無限に産出できる施設があろうとも、電力を補充する物は有限だからない袖は振れない。だからアメリヤ王国にデータセンターを置きたいのだ。
「電力ですか……ウチもそこまで余裕がないのですが……」
しかし、アメリヤ王国もカツカツなのでサヴァンナの顔も曇った。というか、全ての国は太陽光発電に頼っているから、電力問題は世界中の課題なのだ。
なのでサヴァンナは猫の国を頼りたいらしいが、わしもこれは折れられない。そうこう押し付け合いをしていたら、同席していたシャーロットが閃いた。
「火力発電……おじ様がコーン油の生産を緩和してくれたら、余裕が生まれます!」
わしの不平等条約だ。銃だけではなく、兵器に関わることはわしが規正を掛けていたから、そこから希望が生まれた。
「コーン油にゃ~……わしとしては、ちょっとしか取れない油より、食料に回したほうがいいと思うんだけどにゃ~」
「しかし、電力を解決するには、それしか方法がありません」
「だよにゃ~……でも、減った分の食料はどうするにゃ? 民がお腹ぺこぺこだと、反感が生まれるにゃよ? もしくは、どこからか奪おうと考えるきっかけになるにゃ」
「そこは猫の国から輸入するのはどうでしょう? これからアメリヤ王国は株取り引きで多くの利益があるのですから、購入は容易かと。猫の国にも利益があるのですから、ウィンウィンじゃないですか?」
確かに猫の国が儲かるのは、利害の一致は頷ける。
「システム開発と運用の概算は、こちらににゃります……」
「「たっか……」」
でもでも、一番大事な部分を握っているのは猫の国だ。わしが概算を見せただけで、シャーロットもサヴァンナも悩みに悩み出したのであったとさ。
話し合いは一時保留。ひとまずアメリヤ王国内の株式システムを構築を進めて、電力関係は追々考えるみたい。
フユたち株式チームは1ヶ月ほど掛けて片っ端から株式会社の情報をパソコンに打ち込んだら、わしも呼び出されたので、サヴァンナたちと一緒に大画面モニターでデモを見ていた。
「にゃあぁ~……人力でやるより、かなりスピーディーになったにゃ~」
「はい。さすがは猫の国の技術力です。思っていたより、何倍も素晴らしいシステムとなりました」
「これで試作機とは……売りも買いも、全ての株式価格も一目瞭然です。改良の必要すら見当たりません」
その結果は、脱帽の一言。まぁ第三世界の株取り引きのプラットフォームを丸々パクったんだから、ケチのつけようがないわな。
このシステムなら大枚叩いても欲しいようなので、購入は即決定。電力は、しばらくはアメリヤ王国内で賄えるだけのコーン油で発電するので、猫の国から食料の輸入まで決まった。
「ま、世界の発展のためににゃるし、コーン油の緩和は認めるにゃ」
「「ありがとうございます」」
「でも、これから大変だにゃ~。株取り引きは、法整備がめっちゃ大変にゃよ?」
「「法整備??」」
シャーロットもサヴァンナも、わしの何気ない発言に首を傾げてる。
「ほら? インサイダー取り引きもあるし、企業が良く見せようと粉飾決済もあるにゃ。企業を格付けするようにゃ機関もにゃいと、買い手はにゃにを信用していいかわからないしにゃ~。
世界中でやり出したら、他国が他国の企業を乗っ取れることもできるにゃ。さらに言うと、不況になった時は企業や個人の破産がめちゃくちゃ増えるから、その救済措置も必要だにゃ~」
なのでこれから起こりそうな問題を教えてあげたけど、ポカン顔。わしは返事を待っていたら、2人はワナワナと震え出した。
「「なんでそんなに詳しいのですか!?」」
どうやら助言し過ぎたみたいでついていけなかったみたい。
「いや、ホウジツがそんにゃこと言ってたようにゃ……」
「知らない言葉ばかりでしたし……これ、おじ様にも協力してもらったほうがいいのでは?」
「世界金融会議も一緒に出席してもらったほうがいいのでは?」
そのせいで、まだまだわしを頼りたくなってる。
「そっちが発案者にゃんだから責任持ってやれにゃ~」
でも、わしの仕事が増えそうだからやりたくない。
「いや、そこまで言ったにゃら手伝ってやれにゃ。猫の国の利益にもなるにゃろ」
しかし、フユがアメリヤ王国側に回ってリータたちにもチクったモノだから、株取り引きには猫の国も、一枚も二枚も三枚も噛まないといけなくなるのであったとさ。




