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第5話 あのさぁ、ホラーゲームのセオリーってあんじゃん?

13


 目を開ける。私は大量に汗をかきながら、息を荒くしていた。ベッドの下の私に、伯父さんは話しかけている。

「俺のこと、信じるか?」

 私はベッドの下から出て、伯父さんの肩を思い切り叩いた。


「信じないっ。伯父さんのことなんて、全然信じられないっ」


 伯父さんは呆気にとられた様子で、私のことを見る。それからどこかムッとした顔をして「なんだと……?」と呟いた。

「だってすぐ死ぬもん、伯父さん。私の気持ちも考えないで!」

 何やら険しい顔をしていた伯父さんが、唐突に私に着せていた上着のフードを引っ張って被せた。「何するの!?」という私の抗議も無視だ。それから上着のチャックを完全に上まであげて、私の顔を隠した。

「可愛い姪にそんなことを言われたんじゃあ、俺も黙っていられないな」

「何!? 何なの!?」

「絶対に顔を出すなよ。頭を守れ」

 体が宙に浮き、すぐ腹の辺りを圧迫される。どうやら肩に担がれたようだ。


「見てろよ見てろよぉ」

「見えない!!」

「伯父さんも昔はワルかったんだ」


 部屋を出る。風を感じた。すごい速さで移動していることだけはわかった。伯父さんがなぜ走っているのかは知らない。

 それから強く踏み込むような音がする。私ごと浮いた。その時点で私は気持ち悪くなり、吐きそうだった。


 ドッ――――と何かにぶつかる音がする。それから壊れる音。それがもう凄まじく、まるで高価な壺を十個ほど一気に地面に叩きつけたような音だった。

 頭を押さえつけられてフードがちょっとずれたので、ようやく外の景色が見えるようになった。


 私たちは飛んでいた。辺りにはキラキラとガラスの破片が飛び散っている。そしてそのまま、私たちは落ちていく。


 悲鳴を上げた。今日一番の悲鳴だった。


 地面が近づいてくる。伯父さんの左腕から着地し、四回半ほど転がって止まった。動きが止まってからも私は悲鳴を上げ続け、数秒経ってようやく自分の口を押さえた。

 心臓は早鐘を打ち、今にも口から飛び出しそうだった。


 何とか落ち着いてきたころ、私は自分が伯父さんの体を下敷きにしていることに気付く。慌てて飛びのくが、伯父さんは全く動かなかった。

「お、おじさん……」

 私はもう色んなことに追いつけず、わんわん泣きながら伯父さんの肩を揺さぶる。「死んじゃやだぁ……もう外出たらやり直せないよ……」と伯父さんの胸に突っ伏して泣いた。

「なんだってこんな無茶するの? ほんと信じらんない……」


 いきなり伯父さんが目を開ける。ガバッと起き上がり、「危ねえ……走馬灯が見えた」とけらけら笑った。

 私は口をパクパクさせて、とりあえず伯父さんの肩を殴る。

「どうだ、伯父さんだってやればできるだろ? 最初からこうしとけばよかった」

「絶対もう二度とやらないで。めっちゃガラス刺さってるし」

「どれどれ」

 言いながら伯父さんは私の顔を覗き込み、頬に触れながら丁寧に見た。「うん、大丈夫だな。お前の顔に傷なんかついたら大変だ。それだけが心配だったんだ。痛いところはないか?」と尋ねてくる。私はもう一発伯父さんを殴った。


 はあ、と私は深いため息をつく。「まあ出られてよかったじゃないか」と伯父さんは言った。「どうしていつもそうなの? 私たちだって伯父さんのこと大好きなんだよ?」と睨みつける。伯父さんは虚を突かれたような顔をして、「ありがとう」と言った。全く何もわかっていなそうだった。


 尚も何か言ってやろうとしたが、不意に手元の人形がもぞもぞと動き出したので私は飛び上がってしまう。私と同じ姿をした人形がパラパラと崩れ、その中から鍵が現れた。鍵はいきなり私に向かって飛んできて、胸の辺りに刺さる。伯父さんが慌てて立ち上がったが、私は痛みも何もなく「大丈夫」と頷いた。鍵はそのまま消えてしまった。

「何だったんだろう、これ」

「本当に大丈夫か? 今、鍵が刺さったよな」

「うん……。てか、伯父さんの人形は?」

「まあいいだろう、そんなことはどうでも」

「どうでもよくないでしょ!」

 館に置いてきてしまったのなら回収しなければ、と私は振り向く。しかしそこに、あの屋敷はなかった。跡形もなく消えているのである。


 私はまたその場にへたり込む。

「何だったの……ほんと……」

「警察に行っても信じてもらえないだろうな」

「もうホラーゲームはこりごり」

「ホラーゲーム?」

 首を横に振って、私は伯父さんに手を伸ばした。「帰ろっか」と言うと、伯父さんは私の手を掴んで「七美には怒られるだろうなぁ」と頭を掻く。

「怒られた方がいいよ、伯父さん。全然自分のこと大事にしないんだもん」

「お前も一緒に怒られるんだぞ」

「私はいいんだよ。伯父さんは怒られた方がいい」

「そんなことないだろ……」

 そんな話をしながら二人で歩く。この館に着くまでにあれだけ迷ったのが嘘のように、すぐに車道に出ることができた。今度は車に轢かれることもなく、近くのコンビニエンスストアに助けを求めた。



14


 病院に駆け付けた母は第一声に「なんで!!」と叫んだ。

 私はほとんど打撲や小さな切り傷程度だったが、伯父さんは右手を包丁で切っていたし、ガラスであちこち切って何針か縫ったし、左腕は骨折していた。もう包帯ぐるぐる巻きの状態だった。

「いや、七美……俺がついていながらすまない。山で遭難してだな」

「なんであんな山の麓で遭難するの? 車で行けるところよ、あそこ」

「色々あったんだ、色々」

 母は私の顔をまじまじと見て、「あんたは大丈夫? 大きな怪我はないの?」と確認する。私は頷いて、「本当に色々あったんだよ、お母さん。これは誰のせいでもないんだって」と控えめに訴えた。そんなことはどうでもいいとばかりに、伯父さんに対して「何でそんな怪我したの? なんで? またすごい無茶したんでしょ!」と決めつける。

 伯父さんが否定しようとしたので、母は私を振り向いて「無茶したんでしょ、伯父さん」と同意を得ようとした。私は迷いながら、しかし嘘も言えないので「すごい無茶してました」と肯定する。伯父さんは「おい……」とちょっと青褪めた。


 母はこめかみを押さえながら、「お兄ちゃん」と呟く。

「佳乃子を守ってくれたのはわかる。でもそれでお兄ちゃんが死んじゃったら、同じことよ。どっちも大事なのよ、佳乃子もお兄ちゃんも」

「わかってるよ」

「わかってないから言ってるんでしょう」

 いよいよ母は泣き出して、「帰ってきてくれてよかったけど」と言いながら私と伯父さんを抱きしめた。伯父さんはバツが悪そうにして、「ごめんな」と言いながら母のことを抱きしめていた。



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