9,再び聖都へ向かうべく
長らく更新できずにすみません…
「ありがとうございます、レナトゥス様」
「なんですぐ呼ばないんだよ!?」
「念話、通じないように回路遮断してたでしょう?それでどうやって呼べって言うんです?叫んで聞こえる距離でもないのに」
セフェレアは容赦なく正論を言ってくる。
その通り過ぎてレナトゥスには反論の余地もない。
「しかし、お前がたかが出来損ないの瘴気塊に絡まれるなんてどうしたんだ?」
「少々頭の回る個体がいたみたいで、気を抜いた隙に」
「そうか」
「はい。改めてありがとうございます」
再び礼を言いながらセフェレアはエプロンのポケットに入った懐中時計を開く。
針が指している時刻はいつもならとっくに夕食の準備を始めている時間だった。
「すみませんレナトゥス様、本日の夕食は少し遅れてしまいそうです」
「ああ、別にかまわん。できたら呼んでくれ」
セフェレアが急ぎ足で厨房に向かっていくのを見送り、レナトゥスも自室に戻った。
先程まで空中に描いていた魔法陣が若干変わって、文字やら記号やらが増えている。
「アンタは必要箇所を端折り過ぎなのよ。そのせいで余計な式を組み込んでいくから効率が悪くなってるの。そんなこともわかんないなんて…、ほんとに主様が気にかけるほどの価値があるわけ?」
ベッドの上でふんぞり返った可愛らしい少女が、その容姿に見合わぬ、刺々しい言葉を吐いた。
「レヴォネ?お前が自分から出てくるなんて珍しいな」
フン、と鼻を鳴らした少女はレナトゥスの魔導書が人化したものである。
彼女はレナトゥスをあまり快く思ってないらしく、いつもこんな風に刺々しい態度を取るが、容姿が容姿なだけにほほえましい気持ちになってしまう。
「何ニヤニヤしているの?気持ち悪い」
うげぇ、と顔を歪ませるレヴォネを尻目に、レナトゥスは彼女によって書き直された魔法陣を見直した。
追加されているのはレナトゥスが不要と判断し、消した式ばかりだ。
その代わりに入れた式はものの見事にすべて消されている。
「なあ、この式はいらないんじゃないのか?」
レナトゥスが指し示した箇所にレヴォネは赤い瞳を向ける。
「アンタは悪魔でしょ、サクレの術式を改良のもとにしてるみたいだけどあっちは天使なんだから持ってる力の性質が違う。それなのにサクレのを参考にしたって効率的になるわけないじゃない。
その式で悪魔の力の性質を天使のそれに近づけるの。そうすれば、サクレの術式をほんの少し改良するだけで効率が再現できるのよ」
バカにするようにまた鼻を鳴らしたレヴォネだが、その頬は少し赤くなっていて興奮しているのがわかる。
どうやら彼女はレナトゥスと同類らしい。
加えて、魔導書なだけあってレナトゥス以上に様々な術や魔法に精通しているため、できることの幅がとても広い。
「なるほどな…。ならこれは?」
「これは…」
という風に二人は数多ある術の組み合わせを探すべく試行錯誤に没頭していった。
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レナトゥスと別れたセフェレアは厨房であくせくと動き回っていた。
どうやらレヴォネが顕現したらしい、レナトゥスの部屋から彼女の気配を感じたのだ。
小さな姿に似合わずよく食べる彼女の分もせっかくなので作ってあげることにした。
多数の魔法を同時に展開し、食材を切り、焼き、煮込み、蒸し、と様々な調理が調理台やコンロの上だけでなく、果ては空中にまで及んでで行われている。
火加減の調節など緻密な操作を行いながら、セフェレア自身も調理に掃除にと忙しい。
(あ、レナトゥス様にレヴォネも一緒にと伝えてもらいませんと!)
急いでレナトゥスに念話を飛ばそうとするが、またもや回路が遮断されている。
仕方がないのでセフェレアは自身の作業を一旦止めて、壁にかかっている伝声管の蓋を開けた。
「レナトゥス様、そちらにレヴォネが様もいらっしゃいますよね?レヴォネさまの分もご用意しましたので呼んだら一緒に連れてきてくださいね!」
『ん』
短い生返事が帰ってきた。
大方レヴォネとともに趣味に没頭しているのだろう。
レナトゥスが聞いていなくてもレヴォネならしっかり聞いていただろうから大丈夫なはずだ。
そう思い、セフェレアは作業を再開した。
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「レナトゥス様、夕食の準備ができましたので」
伝声管からくぐもった声が響く。
が、レナトゥスには聞こえていならしくレヴォネは彼の頭を引っ叩いた。
「呼ばれてるわ、さっさと行くわよ!」
レヴォネは自身の足取りが弾むのを感じていた。
なにせセフェレアの料理は素晴らしく美味なのだ。
毎日食べているレナトゥスが羨ましく、彼を快く思わない感情の原因の半分になるくらいには。
だからとて忙しいセフェレアの仕事を増やしたくなくて、めったに姿を現さないようにしているが。
「はいはい」
レナトゥスは、レヴォネがセフェレアの作るご飯がとても好きなのを理解しているため、部屋の扉と食堂の扉を繋いで開けた。
眼の前に広がる、いつかと同じように大量の料理の並んだテーブルは圧巻の一言だ。
レヴォネはすぐさま席につき、セフェレアが取り分けた料理を頬張る。
セフェレアはその様子を微笑ましげに見つめていた。
レナトゥスも席につくと、セフェレアが取り分けた料理を運んできた。
「セフェレア、近日中に聖都に行きたいんだが…」
「かしこまりました。仕事の調節をしておきます。明日からみっちり働いてもらいますからね?」
「あ、ああ」
覚悟していたことだが、言葉にされるとやはり嫌なもので、レナトゥスはげんなりしてしまった。
しかし、サクレの報告も聞きたいし自分の方の進展も伝えたいのだ。
なるべく早く聖都に向かうためにもやるしかないのである。
腹を括ったレナトゥスは明日のための英気を養うべく、セフェレア作った夕食を食べ始めた。




