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魔王様の万能メイド、実は正体は〇〇でした!  作者: 犬前 狼花
3章 魔王様、聖都にて
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6,聖都より一時帰還


「離反せし御霊ら

 輪廻の間にすら帰るにあらず 肉叢を置いてどこに行くや

 汝ら巡りて何になるや 汝らの坐すべきは此処なり 汝らのなすべきは此処にこそあり

 廻り還りて役儀を修めん」


荘厳な大広間に朗々とレナトゥスの声が響く。

それに応えるようにいつぞやにも見た紫の蝶も高く舞い踊る。


セフェレアはその光景にほぅっと息を吐いた。

いつ見てもレナトゥスの蝶は美しい。

彼自身も無意識であろうが魔力に込められるのは紛れもない慈愛。

鱗粉がステンドグラスからの光を受けて輝き、息も忘れて眠る神官たちに降り注いだ。

蝶たちはこの場ではレナトゥス以外には感じることさえままならない魂を見つけ、繋がっている身体()の元へ運んでいく。

次第に蝶たちは減っていき、それに比例して神官たちは呼吸を取り戻していった。


「ふぅ、なんとか戻せたみたいだな。流石にこうまで人が多いと疲れる…」


疲労を色濃く滲ませた声でレナトゥスは言葉をこぼした。

子供の姿に戻ってしまっているところを見るに相当な負担がかかっていたらしい。


「ホントごめんねぇ…。埋め合わせはきちんとするから今日はもう休んで。夕食は部屋に届けさせるよ。ソアレ、手配して」


「そうして、く…れ」


なんとか言葉を紡いだレナトゥスがその場に倒れ込んだ。

どうやら久しぶりに魂に干渉する術を使ったことでいつも以上に魔力を消費し眠ってしまったようだ。


「ソアレ様、レナトゥス様もこうなってしまっては明日の夜までは起きられないでしょうから一度オリアスに帰ろうかと思うのですが…」


「教会にいたら魔力の回復が阻害されるだろうからそのほうがいいかもね。

 すぐ転移門を開くからちょっとまってて」


サクレに目で合図されてレナトゥスを担ぎ上げたソアレはセフェレアの方を向いてコクリとうなずく。


「ありごとうございます、サクレ様、ソアレ様。では御前失礼いたします」


ソアレとともに門をくぐり抜ければそこは見慣れたオリアスのホールだ。

階段を上がり、レナトゥスの寝室までソアレに運んでもらってベッドに寝かす。

部屋を出て、ソアレの他に誰もいないことを念の為確認してから、セフェレアは口を開いた。


「ソアレ、この前も言いましたが…()()()が来たら、よろしくお願いしますね」


「…はい」


悲痛な面差しで返事を絞り出すように返したソアレは、来たときと同じく転移門で聖都へ戻っていった。



 

 _________________________




なんとなく意識が浮上する。

気怠い心地で目を開けるとそこは見慣れた天井。

レナトゥスは若干困惑したもののすぐに事情を察した。


(俺、魔力の使いすぎでぶっ倒れたのか…。格好悪いなぁ)


なんて呑気に考えていると、部屋の扉がノックされた。


「レナトゥスお目覚めですか?入りますよ」


入ってきたせフェレアが手にしているお盆に載っているのは熱々のリゾットのようだ。

作りたてらしく柔らかな湯気がほやほやと立ち上っていた。


「3日もお目覚めにならないので心配しましたよ?」


と肩をすくめてセフェレアは言う。


「3日!?そんなに寝てたのか。通りでなんだかスッキリしないわけだ」


気だるさの原因は寝すぎだったようだ。


「とりあえず、これ食べてください。まだお目覚めにならなかったら、と思って執務は調整してありますので今日()ご自由に過ごされて構いませんよ。

 それから、サクレ様がこの間の件について意見を聞きたいと手紙が来ております。埋め合わせもその時とのことなのでこれだけは今日中にお返事をお送りしてくださいね。では、失礼します」


やけに今日()の部分を強調しつつ、レナトゥスにリゾットを押し付けるとセフェレアは部屋を出ていった。


せっかくセフェレアが作っていくれたものなので熱いうちに食べてしまおうと、早速レナトゥスはリゾットに手を付けた。

リゾットはレナトゥスの好きなパミドールをベースにしたもののようだ。

柔らかく煮込まれた野菜や米の甘みと旨味、パミドールの優しい酸味が3日間水すらも入らなかった胃袋を満たす。

悪魔という種族であるため本来で飲食と睡眠(魔力などを回復するためのものは除く)は完全に嗜好品であるはずなのだが、レナトゥスは基本的にヒトと同じように毎日食事を摂り、寝る。

なぜかといえば、オリアスが姿を変える原因にもなった勇者がレナトゥスにそれについても力説し、彼がそれに折れるという形でなんだかんだと習慣になってしまったからだ。


結構な量を盛られていたはずだがそれをぺろりと平らげてしまうと皿を返すべくレナトゥスはセフェレアがいるであろう厨房へ向かった。



 _________________________



厨房の後片付けやら掃除をする傍らセフェレアからは機嫌良さげな鼻歌が溢れる。

それは子守唄のように穏やかなメロディなはずなのに、どこか不安を感じさせる不思議なものだった。


ふと誰かの気配(と言ってもレナトゥスしかここにはいないのだから彼だが)を感じたので鼻歌をやめ、そちらを振り返る。


「わざわざ持ってきてくださったんですか?念話を飛ばしてくだされば取りに行きましたのに」


「別に、気が向いただけだ。サクレからの手紙は執務室か?」


「はい」


「じゃあ、返事を書いたら部屋に引っ込む。何かあったら呼ぶからそれまでほっといてくれ」


「かしこまりました」


大方、惰眠でも貪るか、何かしらの術式の研究でもするのだろう。

レナトゥスは拘りは多岐に渡るが、とりわけ魔法に関しては凄まじい。

魔法陣の美しさや魔力効率を追求するのが趣味で、執務に向けてほしいと真剣にセフェレアが悩むくらいには集中するのだ。

最近はセフェレアが仕事を強要していたり、魔界や聖都に行ったりしていたのでなかなか没頭できなかっただろうから、気が済むまで放っておいてあげようと思うのだった。









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