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魔王様の万能メイド、実は正体は〇〇でした!  作者: 犬前 狼花
2章 魔王様、魔界にて
33/46

15,オリアスはいつも通り



セフェレアが種明かししてから数日。

レナトゥスは魔界に帰省する前と打って変わって精力的に仕事をこなしていた。

それもこれも全部セフェレアが仕事を全てレナトゥスの元へ持ってくるからだ。

この前の一件について大きな借りを作ってしまったため、断るに断れないというのが真実ではあるが。


「はああ」


誰もいない一室でレナトゥスは何に対してもなく、ため息を吐いた。

捌けども捌けども減らない書類の束はレナトゥスの執務机を埋め尽くし、今にも雪崩を起こしそうな危ないバランスを保っている。

レナトゥスが書類にサインをしようとしてインク瓶にペンを浸した瞬間だった。

どうやら動かした腕が書類の重心に当たってしまったらしい。


「あッ!」


思わずそう声を漏らすも、虚しく空中に舞う書類達。

部屋を白が埋め尽くす。

レナトゥスには、それが雪が降る様子をスローモーションで見ている様に感じた。

彼の体感でゆっくりに見えていたとしても、ちょうどそのときレナトゥスに休憩のお茶とお菓子を持ってきたセフェレアには書類の束が宙を舞うのをただボケっと眺めているようにしか見えなかった。


「はあ、まったく何してるんです?」


そう言いながらセフェレアは魔法で落ちた書類を浮かべ、整理しながら机の上に置き直している。

両手がお盆でふさがっているため仕方ないだろう。


あっという間に整理され、トレーを置くスペースが出来た執務机の上にカップとお菓子を並べてお茶を注ぐ。

するとすぐに執務室は薫り高い紅茶の匂いで満たされた。


「スマン、ありがとう。

 なんか調子が悪かったり、魔法が使いづらかったりしないか?」


魔界から帰ってきてからほぼ毎日のようにしている質問を今日もまた繰り返す。


「何度も申し上げてる通り、そんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ」


この答えもまた、帰って来てから繰り返されている。


紅茶を啜りながら、先程よりは少し余裕のある気分で書類に目を通しつつサインをしていく。

その間セフェレアはサインがされた書類を種類ごとに分類しながら各部署へ送っていた。



 ―――――――――――――――――――――――――




そうして、ようやく書類を捌き切ったのはそろそろ夕食の時間になろうかというときだった。

外は夕闇に包まれ、黄金の月光がオリアスを煌々と照らし出していた。


セフェレアがちょうど夕食の準備ができたとレナトゥスを

呼びに行ったとき、ちょうど彼がぐったりとした様子で出てきた。


「あ、レナトゥス様。ちょうど夕食の準備が出来ましたので呼びに行こうとしていたんですが…、随分お疲れのようですね」


「随分お疲れのようですね、じゃない…。あれだけの書類を今日中に捌き切ったんだぞ?疲れて当然だと思うが?」


「そうですね。でもこれで急ぎのモノは全て片付きましたから明日からはもう少しゆっくり仕事してくださって構いませんよ」


「…仕事はしなきゃならないんだな」


「当たり前です!」


そんなやり取りをしつつ、食堂に向かう。

勿論、その道中は魔法で廊下を繋げ近道をしている。

ドアを開ければそこはもう見慣れた食堂の中だった。


厨房へ続く扉がひとりでに開き、食事を載せたワゴンが出てきた。

そこに載っている料理はセフェレアがだいぶ前に作ったものなのだろうが、魔法でしっかり保温されていて作りたての温かさを残している。


その匂いに誘われながら席に付けば、すぐさまセフェレアが配膳してくれた。

カトラリーを手に取り、食べ始める。

セフェレアはいつの間にか厨房に行っていて、デザートの仕上げにかかっているようだ。


話す相手もいないため黙々と食べ進める。

そうして独りで食事をしているとほんの一ヶ月ほどしか経っていないのにヴラカスやサクレ達と食べた晩餐を思い出してしまって、なんとなく寂しい気がした。


食事の大半を食べ終えたところで、タイミングよくセフェレアがデザートを持ってきた。

フラウラと生クリームのクレープだった。

美しく飾り付けされたクレープは一種の芸術品とも言えるような雰囲気をしていて少しナイフを入れづらい。


「…どうしました?

 お気に召しませんでしたか?」


いつもならすぐに手をつけるはずのデザートになかなか手を付けないレナトゥスにセフェレアは心配そうに訪ねた。


「いや、すごく美味しそうだ。

 その…、お前が食事の必要がないのは分かっているんだが、一緒に食べないか?」


「急にどうしたんです?別にいいですけど」


セフェレアは訝しみながらも厨房からもう一つ同じものを作って持ってきて、レナトゥスの向かい側に置いて席につく。

それを見たレナトゥスはナイフとフォークを取り、ようやくデザートを食べ始めた。

セフェレアもそれに習ってデザートにナイフを入れた。


二人でデザートを食べ始めて少しした頃、レナトゥスが徐に口を開いた。


「なんとなく寂しい気がしてな」


「?はぁ、そうですか。

 ああ、なるほど。要はサクレ様たちが恋しくなったわけですね?」


小首をかしげながら合点がいったという風にうなずくセフェレアは少々幼さがあり可愛かった。

その推測は当たっており、図星をつかれたレナトゥスはほんのり頬を染めてそれを否定する。

その様子が鎌をかけただけのセフェレアの推測を確信に変えるとも知らずに。


「そ、そんなわけないだろ!ただ、なんとなく独りで食べるのは味気ないなと思っただけで…」


だんだん語尾が小さくなっていくレナトゥスにセフェレアの口角が上がる。

しかし必死に言い訳をしているレナトゥスはそれに気づかない。


「分かりました、ではソアレ様にお伝えしておきますね。レナトゥス様が寂しがっているのでサクレ様を寄越してくださいって」


「なっ!何でそんな話になる!?サクレが恋しいなんて一言も言ってないだろ!?」


「ええ。言葉にはされていませんね。でも、その必死に言い募る感じがお気持ちを物語ってますよ?」


ニマニマという言葉のためにあるような笑みをその可愛らしい顔に浮かべてレナトゥスをからかうセフェレアは、先程と打って変わって悪魔の様だ、と魔界きっての大悪魔は思うのだった。



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