2,オモテナシの準備をしましょう
1.5からだいぶ空いてしまいました。
スミマセンm(_ _;)m
セフェレアは断言する。
魔城オリアスは美しい。
美しいと言っても装飾的な美ではなく、機能性と生活感の排除を追求した合理的な美である。
オリアスの美は、魔王レナトゥスの拘りによるものである。
かの魔王は怠惰ななくせに、拘りが強いのだ。
そんなオリアスは、勇者が訪れるときだけ姿を変える。
魔城の名にふさわしい、禍々しく、暗い、いかにもな城へと。
セフェレアが廊下を通る。
彼女が通ったあと、廊下の白かった壁は黒く染まり光の加減で銀色に輝く紋が浮かび上がる。青い絨毯は赤黒い、まるで血のようなものに変わっていた。
城の外観もおどろおどろしいものへと変わり、森に住む魔種たちへ勇者の訪れを伝えた。
「レナトゥス様、あと2時間程で勇者一行が到着しそうですので、正装にきがえてきてください。」
「あぁ、分かった。
まったく、サクレの奴め!セフェレア、後であいつに俺の魔力を込めた呪具送っとけ。」
「畏まりました。
ほら、時間ないんですからさっさと着替えて来てください!」
数時間前にもしたやり取りをもう一度して、セフェレアは階下の厨房へオモテナシの準備に、レナトゥスは自室に着替えに向かった。
(さて、今日の昼食を料理を作りましょうか!)
セフェレアは大きな鍋を取り出すと、その中に様々な食材を投げ込んでいく。
幻鳥シシルテをまるごと、ハレーの果実、ワイン、ハーブ、香辛料を加えて蓋をした。そして、料理をするにはにはそぐわない、炎の魔法を唱える。
「燃え盛れ地獄の業火、古に在りし日の赫炎、今ここに顕現せよ!」
魔法で生み出された炎が具材の入った鍋を覆い尽くした。
中からグツグツと音が聞こえる。
(このまま一時間位放置ですね。ちょうど良い時間に煮込み終わるでしょう。)
セフェレアはまた大きな鍋を取り出すと、パミドール、香味野菜、地牛ウルーカの燻製肉などを入れて、また料理にそぐわない魔法を唱えた。
「万物にこもる核、内なる力よ爆発せよ!」
鍋の中から、料理中とは思えない爆発音が聞こえた。
蓋を開けて中を除けば、パミドールの実が弾け香味野菜の溶け出したとても美味しそうなスープが出来上がっていた。
次にセフェレアが取り出したのは、野菜である。
レタスに似た葉物にパミドール、爽やかな匂いのするミズハの実を空中に浮かべて今度は風の魔法を唱える。
「風の刃よ、我が目の前のものを切り刻め!」
魔法の風が食材を切り刻み、セフェレアが手に持つボウルの中に吸い込まれていった。
すると、どこからともなく胡椒やオーリブの油、酢が入った瓶が飛んできて勝手にボウルに中身を入れてまた元の場所に戻っていった。
「ふぅ、こんな感じでいいですかね」
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階下からものすごい音が響く中、自室の扉を開け中に入ると、書斎の机に金色の封蝋が押され、白い羽根が添えられた手紙が置かれていた。
レナトゥスが部屋を出たときには無かったものだから、セフェレアが置いておいたか、書斎に直接届いたものだろう。
レナトゥスはその手紙を見てものすごく嫌な予感がしたが、封蝋は聖王が使うのもののため見ないわけにもいかない。
ペーパーナイフで金色の封蝋を切れば、手紙が手のひらほどの大きさの白いフクロウに変化し、聖王サクレの声で話し出す。
『やぁやぁレナトゥス、久しぶりだねぇ!
全然連絡くれないからこっちからさせてもらうよ。今代の勇者を君の方に送ったんだけど、そろそろつく頃かな?』
レナトゥスはフクロウに向って返す。
「お前なぁ、暇つぶしで俺のとこに勇者送ってくるなよ!
俺だって暇じゃないし、何よりセフェレアに負担がかかるだろうが」
『君はほんとにセフェレアちゃんが大好きだねぇ。まぁいいじゃないか。それに怠惰な君が、「暇じゃない」?嘘は良くないと思うよ?』
「そっくりそのままお前に返すよ。
それで、本題は?まさかそのためだけにフクロウ飛ばしてきたわけじゃないだろうな?」
『おっ、流石察しがいいね。
その通り。そっちに送った勇者のパーティの中に魔種になりかけてるやつがいるから鑑定して浄化してもらっていいかい?』
「はぁ?魔種に変えてくれって言うならまだしも、浄化しとけ?浄化はお前のしごとだろ。」
『それはそうなんだけど…、そいつがどうしても君に会いたいって言うから、ついでにやっといてもらおうと思って!』
「嫌だね。わざわざ昼間から勇者の相手なんかしなきゃならないのになんでそんなめんどくさいことまで」
『浄化してくれたら今後100年そっちに勇者を送らないことを約束するけど?』
「100年じゃ短い。200年は送ってくるな」
『わかったよ、200年で手を打とう。』
「今回だけだからな?
次にこんなこと押し付けてきたら聖都を潰す。」
『お〜怖!ま、そういうことでよろしく〜。
あ、そうそう、いい忘れてたんだけど勇者にセフェレアちゃん取られないようにね〜』
そう言い残して白いフクロウは金色の炎に包まれて消え、あとには添えられていた白い羽根だけが残った。
「は!?それどういう意味だよ!?」
レナトゥスは盛大なため息をついて、セフェレアを呼んだ。
「なんですか?」
と、階下にいたはずなのに扉の外からすぐに返事が聞こえる。
「どれ着ればいいんだ?」
「はぁぁ。右から13番めの黒いシャツを着て、下の3段目にあるズボン履いてください」
セフェレアに大きなため息をつかれる。
「着たぞ。」
「そしたら、9番目の裾に紫の刺繍が入ったローブ羽織ってください。」
「ああ、羽織った。」
「なら、失礼します。」
そう言って、セフェレアが部屋に入ってくる。
「ほら、レナトゥス様、鏡の前座って。前見て動かないでくださいね?あと、いいって言うまで目つぶってください。開けたら目、潰しますから。」
「潰れるじゃなくて、潰すのか?」
「ええ、潰します。」
「お前、主人の扱いがひどくないか?まぁいいけど…」
ブツブツ文句を言いながらも素直にレナトゥスは目をつぶる。
すると、顔のまわりをほのかに温かい風が撫ぜたかと思うと体全体をめぐって、消えた。
「はい、開けていいですよ。」
レナトゥスは目を開けて、鏡に映る自分を見る。
黒から暗い赤にグラデーションする髪は右側を掻き上げられ左に流され、右耳には、柘榴石が嵌まった羽根がモチーフのピアスと、金色の細い鎖の先に琥珀のついたピアスが一つずつつけられていた。
「相変わらず器用だな。」
「お褒めに預かり光栄です。
あぁ、そろそろ時間ですね。食堂にいてくださいね?勇者様たちが到着したらご案内するので。」
そう言ってセフェレアは部屋を出ていった。
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セフェレアが出ていった部屋の中、鏡を大きくしたレナトゥスは全身を見た。
裾に紫の刺繍が入っているだけだったローブは、肩から背中の真ん中辺りまで届く金色のチェーンが5本垂れ、その先に自分の魔王印や悪魔の紋章がついている。
「はぁ。あいつは俺を飾り立てるのがほんとにうまいな。」
姿見の中のレナトゥスは満足そうに笑っていた。
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