4,魔界は仕事で溢れている(2)
「たったの5人で私を相手取るおつもりですか?」
そう言って、セフェレアは胸元のリボンを解いた。
その瞬間、彼女の纏う空気が変わった。
その空気はレナトゥスが纏うものと同等である。
賊も彼女の雰囲気が一変したことに驚きを隠せないようであったが、すぐに立ち直りセフェレアの思い通りにまだ木陰に潜む仲間を呼んだ。
「おい!こっち来い!」
そうして出てきたのは6人。もう残党は隠れていなさそうだった。
(11人ですか。レナトゥス様がご到着されるまで、どんなに早く見積もっても10分はかかるでしょうか。
ふう、とりあえず今はリリエラッテ様の安全の確保が最優先。馬車に注意が向かないようにしなくては)
そう思い、馬車に認識阻害、防音、保護の結界を張る。これで賊の注意が馬車に向くこともないだろうし、万が一攻撃が当たっても害されることはない。
そして、リリエラッテに外の音が聞こえることも無いため、余計なことを聞かれる心配もしなくて良い。
こうなれば、セフェレアも本気を出せるというもの。
「では、始めましょうか」
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セフェレアが戦いの口火を切った。
「うおおお!!」
大げさな掛け声とともに殴りかかってくる賊2人。
(どうやらほかはとりあえず様子見を決め込むつもりみたいですね。
流石に殺してはいけないでしょうし…うまく手加減できるでしょうか。魔界にいると力のコントロールがうまくいかないんですよね。
ま、案ずるより産むが易し。やれるだけやりましょうか)
二人の動きはまるで統率が取れていない上に遅い。
セフェレアは緩慢にそれを避けると、避けられることを想定していなかったようで、二人は大きくよろけて体勢を崩した。そこを狙って足をかけて転ばせる。
顔を地面に強打し、失神してしまった。これで残り9人。
今度は一人、かなりの大男がセフェレアを捕まえようと腕を伸ばしてくる。腰を低く落としたその体勢はさっきの男たちを見ていたからだろう。
しかし、その程度の対策は何の意味も為さない。
セフェレアは伸びてきた腕を取ると、関節とは逆方向に捻じりあげ、相手の背後に回ると手刀で意識を刈り取った。残り8人。
次に向かってきたのは3人。全員小ぶりのナイフを持っている。最初に向かってきた2人寄りは動きの統率があった。
だが、もちろんそんなことは関係ない。
セフェレアは長いメイド服のスカートを物ともせず、先頭の1人の頭を蹴り上げた。
賊は後ろにいたもう1人を巻き込んで吹っ飛ぶ。
「ぐぅッ!」
二人に気を取られ背後の注意を怠っていた。
いつの間にか後ろに回っていたもうひとりがセフェレアの首を腕で締め上げる。
流石に彼女の力ではその腕は振りほどけない。仕方なく、魔法陣を展開する。
(はあ、結界を維持しながらの魔法はだいぶ疲れるんですよねぇ)
足元に描かれた魔法陣に賊は気が付かないまま、陣から生え出てきた蔦に絡め取られて首を絞められ、気を失った。
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5人の賊は恐怖していた。
自分たちより圧倒的に小柄で、動くのに適さないフリルの付いたロング丈のメイド服をものともせずに仲間を失神させてしまった。
しかもまだまだ余力を残していそうである。
そして、仲間が首を絞めた際にちらっと見えた首の紋章。アレは“魔王印”だ。
つまり目の前の女は魔王と契約しているということ。
それに気づき逃げ出そうとしたが、時すでに遅し。
いつの間にか巻き付いた茨が体の自由を奪い取り、吊り上げていたのだった。
「終わりですか?このくらいの茨も解けないとは…。最近の賊は落ちたものですね」
大げさに肩をすくめるような動作に腹が立つものの、動けないためどうにもならない。
「さて賊の皆さん、何故この馬車を襲ったのです?
あと、御者の方を殺したのは何故でしょうか?
幸い、魔王陛下が到着なさるまでたっぷり時間はあります。じっくり、お話聞かせてもらいますね?」
そう言って綺麗に笑う眼前の得体の知れない女の目にはこの状況を明らかに楽しんでいるような様子が伺える。
賊たちは体から血の気が引いていくのを感じた。
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「ふむ、あなた方は雇われてこの馬車を襲った、雇い主は分からないってことですね」
セフェレアはその言葉とともにギリギリと茨で賊の体を締め上げる。
茨の棘は容赦なくその体に刺さり、傷を作っていった。
あまりの痛さに賊たちは次々と声を上げる。
「俺たちはホントに雇われただけなんだよぉ!」
「そうだ!指示があるまで森で待機しとけって言われてたんだ。今朝急に指令がきて、森を通る馬車を片っ端から襲えって!」
(はあ。これ以上この人達は何も知らなさそうですね。)
「分かりました。もういいですよ」
セフェレアの言葉に助かると勘違いしたのか賊たちの顔には血の気が戻っていったが、勿論そんなことは無い。
賊の足元から体を縛っているのとは別の黒い茨が生えてきた。
それは賊の首元に巻き付くと昏睡作用のある毒を打ち込み、また地面へ戻っていった。
「さて次はこの気を失っている人たちですね」
セフェレアは同じく茨で縛られているものの地面に転がったままの男6人に目を向けた。
(意識を戻すと暴れだしかねませんし、さっきの人たちみたいに素直に話す保証はありませんよねぇ。
ちょっと面倒ですけど、記憶を回収しましょうか)
「ふう。
赤き血の鎖、生命の根源に突き刺さりし記憶の杭を抜きて、我がもとへ」
セフェレアの足元から赤い鎖が6本伸びてきて、男たちの頭にそれぞれ吸い込まれるように入っていき、一分もしないうちに頭から飛び出てきた。
その先にはなんとも形容し難い色、ブヨブヨとした見た目の球体がぶらさがっていた。
セフェレアはそれを空間に投げ入れる。
そして馬車の守護と認識阻害の効果はそのままに防音の効果だけを解いて中のリリエラッテに声をかけた。
「リリエラッテ様、大丈夫ですか?」
「ええ。突然何も聞こえなくなりましたけれど。
貴女の結界のせいですわね?お陰で状況把握もできませんでしたわ」
「申し訳ありません。高貴な淑女のお耳に挟むには少々品がありませんでしたので。
もうすぐレナトゥス様とシルヴァ公爵閣下がいらっしゃいますのでそれまでもう少し馬車の中でお待ち下さいね。何かあれば何なりと申し付けください」
「なら遠慮なく。私、少し小腹が空きましたの。何か甘いものでも用意してくれるかしら?」
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レナトゥスとシルヴァ公爵がセフェレアたちの元に到着した時、リリエラッテは馬車の中で優雅にお茶を飲んでおり、セフェレアはその外で控えていた。
馬車の後ろには茨で拘束された族と思しき者11人が気を失って、宙吊りになっていた。
GWは頑張って毎日投稿してみました!
とりあえず今日から投稿頻度はまた不定期に戻ります。
読んでくださっている方、本当にありがとうございます。
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