11,魔王と聖王(2)
ブクマ、評価ありがとうございます!
レナトゥスの年齢の矛盾と誤字を修正しました
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ひと騒動あったものの、和やかに纏まりつつある謁見の間の様子にセフェレアはホッと安堵の息を吐いた。
(レナトゥス様が怒ったときはどうなるかと思いましたけど、とりあえずうまく収まりましたね。
これで200年の間は勇者がやってくる心配も無くなる…ということは…レナトゥス様に仕事をさせる時間を増やせるってことですね!そろそろ私ではどうしようもない案件が溜まってきたんですよねぇ。なら……。)
そんなセフェレアの思惑に気づいたのかレナトゥスの身体がビクリとはねた。
セフェレアはニンマリと頬を緩め、これからいかに怠惰な主を働かせようかとことに思考を巡らせ始めた。
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すごぉく嫌な予感がした。
背骨が氷に変わってしまったかのような感覚とともに悪寒がする。
レナトゥスが振り返ると葡萄色の目を虚空に向け、何事かを企むセフェレアの姿が映った。
「セフェレア…?お前何か悪いこと考えてるんじゃないだろうな?」
恐る恐る問えば明らかに遅れて反応が帰ってきた。
「……………。
あぁ、すみません。考えてないですよ?貴方の害になるようなことは。」
セフェレアはそう言ってきれいな笑顔をレナトゥスに見せる。
しかし、レナトゥスはその言葉と笑顔の意味を正しく読み取った。
(まさか…。俺、働かされる……?
いや待て、俺の害になるようなことじゃないって言ってたもんな。“働く”ということは正しく俺の害になる。セフェレアは俺を一番よく分かってる……ハズだ。そう思いたい。うん、そう思おう!)
レナトゥスはめちゃくちゃな理論で自分を騙し、全力で現実逃避を実行した。
そんなときだった。
勇者たちを和やかに労っていたサクレから急に声をかけられる。
「そうそうレナトゥス、例の件で話があるんだけど。他の部屋で二人で話せないかい?」
“例の件”という言葉に一瞬思考が停止し、すぐさま動き出す。
「わかった。
セフェレア、俺はサクレと執務室で話してくる。適当に勇者達の相手をしといてくれ。」
「畏まりました。お茶等はどうされますか?」
「それはいい。俺がやる。」
会話を終えるとレナトゥスとサクレは連れ立って謁見の間を出ていった。
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(とても仲良さげになさっていたが、サクレ様と魔王は敵対しているのではないのか?)
ヴラカスたち一行は皆等しくそう考えた。
その疑問を察したのであろうセフェレアが答えをくれる。
「聖王サクレ様と魔王レナトゥス様は敵対などしておりませんよ。ご覧の通り、とても仲が良くていらっしゃいます。」
「なんでですかぁ?」
アンベシルが皆が思ったことをすぐさま代弁してくれた。
「流石にご本人様方のいらっしゃらないところでは……。」
困ったように眉を下げる様子を見てしまえば、これ以上の追及はできないだろう。
会話が途切れ、どうしようかとヴラカスが迷っていた時だった。
「そういえばセフェレアさんってどれくらい魔王様に仕えてるんですか?」
フォルがした結構踏み込んだ質問にヴラカスは肝が冷えた。
(待て待て!セフェレアは女性だろ、そんな年齢に関わるような質問ってタブーじゃないのか?!いや、女性同士ならありうる……?しかし……)
そんな心配は、結果、意味をなさなかった。
「私はレナトゥス様が生まれたときからお側におりますよ。ですからそろそろ5500年くらいでしょうか。」
「嘘ですよね?」
セフェレアの言葉にかぶせるようにフォルが確認するが、もちろんセフェレアから帰ってきたのは、否の一言であった。
「本当でございます。なんならサクレ様に聞いてくださればわかると思いますが。」
サクレの名前を出されてしまえばヴラカスたちも信じざるを得ないだろう。
彼らはまたしても皆等しい感情に至った。
(やっぱり女性に年齢を聞くのはやめよう…。)
と。
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(まさか“魔王にどれだけ仕えてるか”なんてことを聞いてくるとは思いませんでした。一瞬誰のことかわかりませんでしたよ。)
セフェレアはヴラカス達に気づかれぬよう、そっと息を吐いた。
「勇者様方、レナトゥス様達がお話を終えるまでもう少しかかるでしょうから移動しましょう。ずっとこの部屋にいるのは退屈でしょうし、何よりここは座れるような物がございませんから。」
レナトゥスは“少し”と言っていたが、まだまだかかるだろう。きっとあの話をしているのだろうから。
「とりあえず談話室にご案内させていただきますね。そこでお茶でもしながらレナトゥス様達を待ちましょう。」
重厚な扉を難なく開きヴラカス達に外に出るように促す。
出たのを確認すると、扉を閉めて案内を始めた。
歩きながら少しだけオリアスの構造を弄って廊下と談話室の扉を繋ぐ。謁見の間に案内したときにも使った方法だ。
これを使うには少々多めの魔力を使うのだが、セフェレアにはレナトゥスという無尽蔵の魔力を持った悪魔がバックにいるのだ。魔力枯渇の心配など皆無に等しいため、セフェレアはこの方法をバンバン使いまくって、このとてつもなく広いオリアスの管理を一人で担っていた。
ヴラカス達に続いてセフェレアも一緒に部屋へ入る。
するとどこからかティーポットやカップ、小さめなスイーツなどが載せたワゴンがやってきた。
セフェレアはカップを温めつつポットにお湯を注ぎ茶葉を人数分と少し多めにいれ、砂時計をひっくり返した。
砂が落ちきる頃には紅茶の芳醇な香りが談話室に満ちるだろう。
そしてヴラカス達に三段のケーキトレーに載った様々なお菓子を勧める。
「どうぞ、召し上がってください。お口に合うと良いのですが…。」
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談話室が紅茶の匂いで満たされる。
セフェレアがヴラカス達が座っている場所から少し遠いところでカップに紅茶を注いだ。
高いところから注ぎ、少しずつ紅茶を冷ましながら入れるため、熱いお茶がヴラカス達にはねないようにという気遣いだろう。
風の魔法で目の前に運ばれてきたカップからは、芳しい香りが湯気となって漂ってくる。その匂いに誘われて、ヴラカスはカップに手を伸ばした。
「お砂糖やミルクなど、ご自由にお使いください。」
そう言って、セフェレアは紅茶に入れる用にレモンの飾り切りや砂糖、ミルクをテーブルの上に並べてくれた。
隣に座るトァブは大柄で強面な風貌に似合わず甘いものに目がないのですぐさま紅茶に角砂糖を2つほど入れ、お茶請けに手を出している。
ナル、フォルはゆっくりと紅茶を味わっていた。さすがは双子なだけあって飲むところからカップを置くところまでタイミングが完璧に揃っている。
アンベシルはうさぎの飾り切りを橄欖石の瞳をとてもキラキラさせて眺めていた。
(そうか、アンベシルはうざきの獣人のハーフだったな。感情が昂ぶると時々耳が出てしまっていたっけ。)
なんてことを思い出し、ヴラカスは一人温かい気持ちになった。
「そうだぁ、セフェレアさん。さっきぃ、サクレ様が言ってたぁ、”例の件“ってぇ、なんですかぁ?」
「それは私も存じ上げなくて……。お役に立てず申し訳ありません。」
アンベシルの問いかけにセフェレアは可愛らしい顔を歪めとてもすまなそうに答えてくれた。
「いやいや、セフェレアのせいじゃないから!」
「いくら信頼しあっていたってお互いに言わないこともあるだろうさ。そんなに気に病むことでもないだろう。」
慌ててナルとトァブがフォローを入れてくれる。
「お心遣いありがとうございます。」
今度はその可愛らしい顔を花が咲くように綻ばせ、とても美しい笑顔を見せてくれた。
その笑顔に見惚れて、ヴラカスの頬が薄紅色に染まる。
「アレ?ヴラカス様なんだか顔が紅いですよ?どうしたんですか?」
セフェレアは少し困ったように、トァブやアンベシル、ナルは生温かく、揶揄いを含んだ笑みを浮かべヴラカスを見る中、フォルだけが状況をわかっておらず、ただ首を傾げていた。
《サクレ》
·“神聖”の名を冠する大天使でレナトゥスより少しだけ長
く生きている
·白銀の髪に銀色の瞳をした全体的に白い姿をしているが
それと裏腹に結構腹黒い享楽主義者
·背中の大きな翼は強い浄化のちからがあるとされている
がサクレが言うには、邪魔なだけで、そんな力はないら
しい
·現在、第157代聖王として聖陽教会のトップに君臨するが
すべての代の聖王は彼であり、聖陽教会上層部はこのこ
とを秘匿しているため、聖種からは“サクレ”という名は
聖王になるときに世襲するものだと思われている




