第七章 いい歳してるのに雪を見て興奮してしまう
ついに、薫一の自殺シーンです!
はっきり言って、ここからが第一章みたいなもんです。
あたり一面雪。
こんなにも綺麗な銀世界だと、醒めた俺ですら興奮させてしまう。
足を滑らせてしまえば簡単に自殺できるものの、やっぱり本能的に、雪に滑らないように、慎重に歩いてしまう。
人間っつーのは、なんてめんどくさい仕組みになっているんだ。
俺の嘘の目的地、トイレが見えてくる。
小汚くて、おそらく和式トイレだ。
離れているここからでも、悪臭がしているのがわかる。
しかも二つも入らないんじゃないか、という狭さである。
嘘でもここには来たくないわ。
でも、こんなトイレも「嘘の目的地」とか表現すれば格好よく聞こえるもんなんだな。
俺はその汚いトイレを素通りして、さらに奥へと進んでいく。
まゆばい光を放つ雪と、それと対照的な、どよんとした気分の中で、俺は考えた。
普通、人間というのは自殺する時は何も考えられず、無感情になるものだと俺は勝手に思っている。
なのに、俺、感情ありすぎじゃないか?
これって、なんかの暗示じゃないだろうか?と思う。
例えばほら、北村に見つかって馬鹿にされるとか、目覚めたら生きていたとか、とにかく自殺に失敗するかっこ悪い俺。
いやな予感がする。
とにかく、トイレが点より小さくなってきたので、ここら辺かな、と思って立ち止まる。
もう、そのトイレ以外は何も見えない。
一面白である。
こういう場所が理想的だ。
誰も来ないし。
適当に新雪に手を突っ込み、足が入るほどの穴をあける。
慎重に足を突っ込んで、穴を広げていく。
頭の裏まで雪があるのを感じる。
さっきまで掻き出していた雪を、今度は自分の上にかけていく。
冷たい。が、我慢している。
しばらくしたら、自然と睡魔が襲ってきた。
今がチャンスだ、と思って、俺は睡魔に身を任せることにした。