第六章 山小屋の飯は美味いのが30%、不味いのが70%
昼食のカレーはとてつもなく美味かった。
さすが絵那ちゃん。
の、お母さん。
前、ノリでやってみたお試しスキー教室で食べたちゃんこ鍋は死ぬほど不味かったから、俺は山小屋のイメージが激変した。
っていうか、ちゃんこ鍋に入っていたキノコが駄目になっていたのかもしれない。
そういえば
「雪山は自然界の冷蔵庫」
とか言ってる人ばっかりだったしな。
「うー、食った食った。」
三木っていう腹の出た奴が、その出た腹をさすっている。
大食いのあいつが腹いっぱいなんだから、相当のおかわりの量が用意してあったのだろう。
そういうとこもちゃんとしている。
かなり感嘆した。
頃合いを見計らって、俺はそろそろだ、と思った。
「じゃあ俺、トイレ行ってくるから。」
予定通りの台詞を、予定通りみんなが立ち上がるより先に立ち上がって言う。
みんなが納得するように、バスでは一回もトイレに行っていない。
「トイレは外よ。気をつけてね。」
山小屋の人が教えてくれる。それはとっくのとうに調査済だ。
ただし気をつけるもなにもない。行く途中で足を滑らせて死んでも、本望だ。
でもそれは自殺にならない。
「そうだな。薫一、一回もトイレ行ってなかったから、ついに限界なんだ。玄界灘。」
北村は、ただでさえ寒い雪山を氷結させた。
しばらく間があったが、みんなは笑顔で言った。
『いってらっしゃい。』
みんながこぞって送り出してくれた。
俺を死への旅路へ。
玄界灘…我ながらコレ言ったら結構シラけると思います。