泳空
惑う俺を余所に、オールはまた作業道具を漁り、革のベルトを取り出した。
そして薄着の服の上からそれを体に巻いた。
革のベルトには、ポケットがいくつもついていた。その中から、飴玉を取り出し、口に放り込んだ。
「さあさあ、とにもかくにも仕事の始まりだ。さあ、早くハーネスをつけて」
「だから、俺はやらないって言ってるだろ」
「否定するなんてナマイキだねえ、アラン・ノアくん。学校をサボったあんたに否定する権利はないんだぜ」
そう言って近づいてくる。
ずいずいと俺の持つハーネスに手をかける。
「ちょっとやめてくれ・・・ッ!」
振り払おうとするおれを無理やり引き寄せオールは口づけをしてきた。
「ッ!!?」
レモンの味が広がる。オールの舐めてるの飴のせいだ。
「・・・ぷはッ・・・。キスは麻酔だよ。・・・久しぶりにしちゃった」
オールはわずかに紅潮してにこやかな笑みを浮かべて、じゃーんと手を広げた。
気づくとおれの体にきちんとハーネスが装着されていた。
「お、まえ、何を・・・」
「ふふ、アミル達には内緒だよ。キスしたことも・・・そしてこれからすることもね」
そう言ってオールは数歩後ずさった。
「ノア、安心して。仕事と言っても点検なんてしてもらおうとは思わない。部外者にさせたなんて職人たちの矜持を傷つけてしまうからね」
「あなたはただ彼らと同じ感覚を味わってほしいだけよ」
そう言ってオールは指をふっと振った。
その瞬間、俺の体を巨大な何かが衝突した。
それがオールの強大な風魔法で作られた風であること。それが理解できた時、その何倍も風が吹く空間にほっぽり出されていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
そこは紛れもない空間。
すなわち空だ。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!」