自分の定義
「デート、とは・・・」
昨日のアミルとのデートを思い返しながら、朝の『スカイシティ第1地区』駅でオールを待つ。
ここの駅はあらゆる路線が乗り入れするターミナル駅だ。
ブルーキャノピー屈指の規模をほこり、たくさんの人が絶えず行きかっている。
おまけに丁度大きな雲が差し掛かっているらしく、街全体がうっすらと靄がかかって視界が悪い。待ち合わせをしたのはいいが、無事オールと会えるかどうか、なんとなく心配だった。
俺は石造りの駅舎に背を預け、ぼんやりと天使を待つ。
ふと横を見ると、ホームレスが駅舎の屋根の下の方へ荷物を移動させていた。雨でも予感しているみたいだ。ここの駅舎はかつての王族の別荘を使っている。だから余程の雨風でもびくともしないつくりになっている。
こういった歴史的建造物はスカイシティの至る所にみられ、街にうまく融和して趣ある重厚感を作り出していたりする。
「はあい、ノア」
オールはそれから10分後にやって来た。
深い紫色の作業着、ブーツを履いている。デートと言うにはいささか色気が無い格好だ。
「で、アミルは?」
「大人しく学校に行ったよ」
「それは何より。あいつったらノアに甘すぎるんだ」
「アミルを誘ったのは俺だよ。アイツの所為じゃない」
「ノアもアミルに甘すぎる。まあ、だからこそアンタたちは一緒にいるべきなんだけど」
そうして俺たちは人ごみの中を歩き始めた。
「さて、じゃあデートだ。迷子にならないでよんノア」
そう言ってオールは俺の腕を抱き寄せた。
密着する天使の体の感触に腕が一気に緊張する。アミルほどではないが妙に柔らかい感触が伝わってくる。
「・・・で、今日は何をされるんだ」
俺は平静を装いつつ聞いた。
「される、か。その表現は好き。っていうか昨日言ったよね、今日は橋脚点検だって。それに付き合ってもらうよ」
「・・・俺が行く意味があるのか?俺は空も飛べない、魔法も使えない。手伝えることはないぞ」
「そんなことはない。あんたの仕事もちゃんと用意してるからさ」
「橋脚点検は、その筋の専門家と熟練の工事関係者、それに天使。この国の重要な仕事の一つだろ。人並以下の能力しか持たない俺に仕事なんてあるかよ」
「ははは、それは違うねノア。アンタは自分の定義を大きく間違ってる」
オールは言う。
「自分は何もできない、という決めつけで停滞しているとアンタはより大きな傷を負う」
群衆の中でも、オールの声は静かに響く。
「十年前から、この世界は思ったより深刻な事態に突入している。何が起きるかわからない、未曽有の事態にね。そんな状況で今できること、今できないこと。その尺度を変えないまま、今定義したままでいたら後悔することになる」
「後悔?」
「そう、必ず後悔する事件が起きる。具体的に言うとそうだな・・・」オールはわずかに唸って告げる。
「近いうちに5年前の悲劇が再び起こる、とかね」