ノアの混乱
「アミル!どこだ!返事しろ!」
アミルの返事はない。
その瞬間、ある情景がフラッシュバックする。
落ちていく人。崩れる島。そして・・・父さんの姿。
「・・・まさか、嘘だろ・・・」
俺は急いで下流に向かって駆け出した。
ここから島外まで数キロほど。下流は流れが強いところもあるから・・・。
ぶんぶんと頭を振った。最悪を想定するな。吐きそうになる。
心臓が必要以上に高まる。走り始めたばかりなのにもう息がしづらい。
のんきに寝ていたなんて馬鹿だ。自分を激しく責めたい。
二度とあんなことを繰り返してはいけないのに。
「・・・アミル!」
数分走ってようやく見つけた。
河の上で浮いている金色の天使の姿。
俺は夢中になって、水しぶきを上げながら駆け寄る。
「うわわ、ど、どうしたんですかアラン君!」
アミルは目を丸くして驚いた声を上げ、ばしゃんと水の中に尻餅をつく。
「ばか!何やってたんだ!」
「ご、ごめんなさい、水が気持ちよくてぷかぷか浮いてたん」
「島外まであと一キロもないんだぞ!あのまま流されてたら死んでたところだ!」
「わ、私は落ちても飛べるから心配いらないですよ」
アミルの言葉を聞いて、俺は我に返る。
こいつは天使で、空を飛べる。例え滝から島外に落とされていても、飛んで帰ってこれる。
「そ、そう・・・だよな。俺は・・・何を・・・」
ふと正気に戻った気がする。悪夢からさめたような感覚だ。
「大丈夫ですかアラン君。なんだか具合が悪そうですよ」
「・・・あ、あ大丈夫だ。取り乱して悪かった」
俺は川の流れの中でアミルをぎゅっと抱きしめた。
アミルがわずかに身震いしたが、そのあと何も言わずに俺の頭を撫でた。
その後、俺たちは河原で服を乾かした。
魔法が使えない俺に変わって、アミルが魔法で火を起こしてくれた。
青色の空が橙色に染められている世界で、俺たちは焚火を囲んでぼーっとして過ごした。
時々、アミルが俺の方を向いて優しく微笑む。
「俺は、どうかしてたよ」
「もういいんですよ・・・それになんだか嬉しかったです」
俺は何となく恥ずかしかくて目を逸らした。それからほどなく陽が完全に沈む前に服が乾いたので、俺たちは黄昏時に帰路についた。