研究所
研究所での俺の主な役割は、昼飯の調達、掃除や洗濯、書類の整理、ゴミ出し、器具の片付けや設置などとにかく雑用だらけだ。
アルバート・グリンダのことも次第にわかってきた。
彼は業界でもそこそこ有名な研究者の一人で、およそ20年前にはスカイシティの魔法大臣から表彰もされたほど業界では名の知れた人間らしい。
彼の研究テーマは「浮力エネルギー」。言うまでもなく、このブルーキャノピーを保つための基幹エネルギーだ。その保全のために中枢部から連絡が入ることもたまにある。
時折小窓に取り付けたベルがリンリンとなり、風力電話が鳴っているのを知らせているが、アルバートは「出るな!」と怒り気味に俺に指示した。
どうやら優秀だが、性格のクセが強すぎるようだ。
「アルバートさん、掃除終わりました」
「黙ってろ!忙しい!」
彼は手を振るい風を起こす。
魔法だ。単純だが、指先は神経質にプルプルと震えている。やがて風はヒューヒューとつむじを巻き、大掛かりな機械の間にある模型にぶつかる。
大きな菱形の八面体は少し揺らぎ始めたかと思うと、そのままバランスを崩して転がった。
「やはりだ!どう考えても理論値と合わん!」
どうやらブルーキャノピーの浮力エネルギーが理論値と違うらしい。
「スカイシティに繋がるすべての浮力エネルギーは明らかに10年前より減少している。それなのになぜまだ浮いているんだこの国は!」
おいおい。何やらおっかないことを言っているな。
「どっか穴でも空いて抜け出てるんじゃないですか?」
俺が言った瞬間、アルバートの方から思いっきり突風が飛んできて俺は舞い上がった書類と一緒に床に転がった。
「バカは黙ってろ!昼飯は買ってきたのか?」
「いえ、今からですが」
「何してる!役立たずめ!とっとと買ってこい!」
はいはい、と言って俺は服についた埃を叩きながら、
部屋を後にした。
インターンにきて今日で五日目。
俺は日々の雑務をこなしつつ、徐々に研究所の仕事にも慣れてきた。特に何か得られたという実感はないし、アルバートは相変わらず常にイライラしてるが、自分の役割が少しでもあると少しの安心感がある。
カビ臭い研究所を出ると、外は雨が降っていた。
霧雨で視界が悪く、大気はどこか重い雰囲気を漂わす。
少しだけ嫌気が差したが、アルバートにまた怒られるので仕方なくスカイシティに向かった。
その時は、何も気づいていなかった。




