雲解けの河
俺たちはしばらく列車に揺られ、トレガン島にやって来た。
草花が生い茂り、風光明媚で知られる島だ。自然が多く、休日はピクニック客などがやって来る。何か目を引くような絶景や目立ったランドマークがあるわけではないので、人気がある島というわけではない。ただアミルが北の山から、島を横断するように流れるトレガン河を好んでいて、何度か川遊びに一緒に来たことがある。
「わあ、冷たい!ここの水は相変わらず気持ちいいですねアラン君!」
靴下とローファーを脱ぎすて、アミルは俺より先に河に足をつける。
「島の場所もいいからな。雲が山に直接当たる分、水量も多い」
アミルははしゃぎながら、どんどん川に入っていき、背中から大きな金色の翼を広げた。水しぶきがついた金色の翼は太陽のもとできらきらと輝く。
しかし、当の天使アミルさんはその翼を河に浸けて「ああ~」と温泉につかるような声を漏らす。
「ああ~、極楽、極楽です・・・」
「天使がそんなこと言うなよ」
「アラン君もやってみてくださいよ・・・気持ちいいですよ・・・」
「遠慮しとく」
俺たちはしばらく水遊びを堪能した。およそ一時間くらいだろうか、疲れた俺は川べりの木陰に寝そべった。足だけを水につけて、腕で目を覆い日よけにする。
ああ、確かに気持ちいい。河に来たのはどうやら正解だったみたいだ。
「お隣失礼しまーす」
アミルがやって来た。
そっとその姿を見ると、制服が濡れて下着が透けている。一緒に住んでいるから初めて見るわけではないが、なんとなく目を逸らした。
「いやあ、最高ですね。川遊びの後は、木陰でのんびり休憩。こんなに遊んだのは久しぶりですよ」
「ああ、たまにはいいもんだな。気が紛れていい」
アミルとたわいない会話をした後、俺は気づいたら眠り込んでしまった。
・・・・・・
「・・・・・・ん」
目を覚ました時は、陽が傾きかけていた時だった。
「・・・」
水がざあと流れる音しか聞こえない。
俺はゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。
「・・・アミル?」
アミルの姿が無かった。
さっきまで隣にいたのに。
「アミルー?」
返事はない。
次第に焦燥が押し寄せてきた。