進級先
インタステラハイスクールは7年制の教育カリキュラムが組まれている。
魔法学、数学、気象学、天文学など空の世界で生き抜く学問と技術を学ぶための学校で、生徒は各学年に200人程度。
5、6、7年目の生徒は実技研修で郊外の研究専門機関や、スカイシティの研修機関にいるため、学校には実質的に4年生以下の生徒、約800人しかいない。
ちなみにノアとアミルはそんな学校の4年生だ。
「そうだね、最近は後輩たちも頼りがいが出てきてね。僕らなしでもそつなく生徒会の仕事をこなしてるんだ。ははは、成長したのは嬉しいけど、ちょっと寂しいかな」
グランが何人かの女子生徒に囲まれながら楽しそうに談笑している。
俺とアミルはその光景を教室の後ろから眺めていた。
「相変わらず人気者だな」
「ですね。多分生徒会の引き継ぎの話ですよ。グランくん、来年からスカイシティの研修機関に行きますから」
「詳しいなアミル」
「前聞いたんです」
その言葉の裏には色んな事情が含まれているのだろうが、俺がそれを深く尋ねることはない。
ふと他のクラスメイトたちにも目をやった。
楽しそうに談笑している人が大半だが、中には研修機関について情報交換している者もいる。最近は進級後の話題が増えた。大方の生徒は、卒業後の進路のために5年生以降を過ごす研修機関を決めているはすだが、魔法が使えない俺はどこの研究機関にも行けない。おそらく後輩たちに後ろ指をさされながら、落第生用の教育プログラムを終えて、社会に放出されるだろう。
この空の世界にで生きていくために必要不可欠な要素は「魔法」だ。
特に「水」と「風」を基礎とした魔法は、生活全般を支える貴重なエネルギー資源となっている。
ゆえに使えないということはこの空ではまともな生活すら送れないということと同義だ。
魔法が使えない人間の割合は限りなくゼロに近い。魔法式は限りなく普遍化されているし、体内魔力が少なかろうと、体外魔力ソースに頼ることもできる。
だから使えないということはよりパーソナルな問題になるはずなのだが、その原因は俺自身わかっていない。
「ノアくん、進路はどうします?」
「さあな」
「はあ、そういうと思ってました」
はいコレ、とアミルがクリップで留められた紙の束を差し出してきた。
「何だこれ」
「いいから読んでください」
中にはとある研究機関の名前が書いてあった。
「アクロシアス天文台研究所って、あの有名な?」
「そうです。私が研修先に選んだところです」
アミルがまさかそんなに有名な研究所に行くとは思わなかった。
しかし。
「それがどうしたのか?」
「ここの研究所ではないですが、同じ所内の関連施設で人員を募集しているそうです。それでノアくんの話をしたら、誰でも歓迎すると言ってくれましたよ」
「気持ちはありがたいけど、オールがこんな状況なのに、俺のことなんて・・・」
「はあ?」
アミルが声を素っ頓狂に裏返しながら、顔を近づけてきた。
間近に迫った金髪天使はその表情を苛立たしげに歪めていた。
「そんな言い訳もう通用しませんよ?いいですか、確かにオールのことは不安だし、他のことに手がつかないほど心配なのはわかります!けどですね、オールはオール。私たちは私たちでするべきことは必ずありますし、今あることを全力でしないと何も変わらないんです!」
いつまでもウジウジと全く!とアミルは腕を組んで鼻を鳴らした。
そこでハッと気づいてあたりを見回すと、グラン含め楽しく談笑してたクラスメイトたちがみんな何事かとこちらを見ていた。
「あ、し、失礼しました〜あははは・・・」
アミルはバツが悪そうに、俺を引っ張って急いで教室から出て行った。
水晶の廊下を通り抜けながら、俺は手を引くアミルに言う。
「わかったよ、アミル」
「え?」
「来年から俺はそこに行くよ。アミルの言うことが正しい」
今の俺はオールに何もしてやれない。だから、せめて今までとは違うことをして自分の出来ないことを探ってやる。
俺が言うと、アミルは少し微笑んだ。
「わかりました。何かあったら私がついてます。一緒に歩み出しましょう」
「ああ」
「あ、それと一言勘違いしてほしくないんですけど」
その日の帰り道にアミルは口を開いた。
「さっきの募集先、今からでも人手がほしいらしくて、ノアくん来週から行ってもらえますか?」
「・・・は?」
アミルはまたバツが悪そうにあははと笑った。
「言葉足らずでした」
「はぁ!?」




