金の天使と言い訳
「アラああああああああああああああああああンンンン!!」
オールが去った後、恐ろしい速度で金色の天使アミルが飛んできた。アミルは俺の前に着地するや否や、がばっと俺の胸倉を掴んで、ぶんぶんと引っ張る。
「なに学校抜け出してるんですか!!勉学に励んでこその学生でしょ!私はこんな子に育てた覚えはありません!ていうかこんなところで何やってるんですか!」
「・・・見ての通り木陰で休んでいるんだ」
「休んでいるんだ、じゃないですよ!授業はどうしましたジュギョウは!!もー!」
金髪碧眼の天使は半分宙に浮いて、俺の周りをぐるぐると回りながらぷんすかと怒る。
「そんなに怒るなって。たまにはいいだろ。今日は学校に籠っている気分じゃないんだ。学校にはひとりで戻ってくれ。じゃあな」
「・・・って、ちょっとちょっと!学校に戻らないんですか!?サボる気ですか!?」
「サボる気も何も、もうサボったんだよ。それに午前中はちゃんと出たんだ。これは言わば早退だ」
アミルは不機嫌そうに眉をひそめる。
しかし顔を歪めてもアミルは美しい顔をしている。天使は翼が生えていること以外、見た目が普通の人間と全く変わらない。どころか翼を完全に収納していれば、天使だと気づくことも出来ない。
それ以外の特徴と言えば、全員際立って美人だ。アミルも、オールも他の二人もやけに美人なので人目をよく引く。
なんとなく。その顔をもう少し眺めていたくなった。
「・・・なあアミル、お前も早退して、俺とデートでもしないか」
俺は何となくそう言うと、アミルの顔が少し紅潮した。
「へ、で、でーと?・・・何言ってんですか!それは・・・」
「学校を早退するなら大義名分が必要だろ。こっそり早抜けしてデートってんならサボりよりも格好がつくだろう」
「別につきませんよ!もっともらしいこと言わないでください!」
「物は言いようなんだよ。アミル。多面的に物事を判断するのが大事だ」
我ながら何を偉そうに言ってるのだろう。まあいいか。所詮口からでまかせだ。
「そういうのは、ただの言い訳というんじゃないでしょうか・・・」
アミルは学校と俺を交互に見る。目線が行ったり来たり。それでしばらく悩んだ後、しょうがないですね、とどこかバツが悪そうに口先を尖らせて言った。
「・・・意志は固いというわけですね」
「ああ、今日はもう帰る。明日はちゃんと行くから遊びに行こうアミル」
そう言うとアミルは肩を落として、ため息をついた。
「・・・わかりました、で、デートしましょう。側についていないと、オールに怒られちゃいますし」
そのオールが実は近くにいるんだよ、と言おうとしたが、その言葉はぐっと呑み込んで、俺は無言で歩き始める。
「・・・ちょっと、先に行かないでください」
小声で言うと、アミルは腕を絡ませてきた。二の腕にとても柔らかい感触があたる。そこまで頼んではいないのに。なんだか変な気分だ。
「しかし、こんなに暑いのに一体どこに行こうと言うんですか」
「・・・そうだな、久々に雲溶けの川で遊ぶのなんてどうだ」
「おお!アラン君にしては好いアイデアですね。今日は極晴ですし、涼みに行くのは賛成です」
「にしては、は余計だ」
アミルは、ぱあっと明るい笑顔を見せる。
この切り替えの早さはアミルの良いところの一つかもしれない。
それにしても極晴か。つまり下を見ても、上を見ても雲がない晴れで、日差しが強い天気のことを言う。
道理で日射警報が出ているわけだ。
アミルはそんな暑さもさして気にならないのか、にこにこしながら、あの島がいいかな、いやあっちの島がいいかな、と楽しそうに思案している。
俺たちはひとまず『スカイシティ第五地区西』駅に向かうことにした。
その道すがら、石造りの陸橋に差し掛かったところで、ふとスカイシティの端が見えた。巨大な石造りの街の外は、それをすっぽりと飲み込むほど巨大な青色だった。
すなわち空。果てしない無限の空だ。
ここは空に浮遊する国『ブルーキャノピー』。
大きなメトロポリス『スカイシティ』を中心に、大小さまざまな島に分かれている。島の数は110個。スカイシティの浮力源を橋伝いに流し、付随するように浮いている。
この国で生まれ育った俺でも、島全てを訪れたことはないし、名前だって全部覚えているわけではない。そのくらい巨大で膨大な空中国家でもある。