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歩き出す

昼食のあと、天使たちは小屋で思い出話に花を咲かせ、俺は一人離れて向こうで列になっている参拝客を、草原に座ってぼーっと遠くから眺めた。

花の舞う光景だ。涙を流す人を、神妙な面持ちの人、花束を何もない空に投げる人。

色んな人たちの姿をただぼんやりと眺めた。


「・・・明日は学校行けるの?」


ふとオールがやってきて話しかけてきた。

濃い紫のワンピースが風で揺れていて綺麗だった。


「ああ、ちゃんと行くよ。天の神に誓って約束する」


「サボってたのは、今日が近くて落ち着かなかったから。そうでしょ?」


「あってるよ。否定しない」


「気持ちはわかる。けど肯定はしない。そろそろ一歩踏み出しなよ」


「おいおい、説教か」


「別に。アンタが説教が好きじゃないことくらい知ってる。長い付き合いだしね。けど、そのままだとアンタはオルガンス島に引きずられながら落ちていきそうな気がするよ」


「落ちる、か。どうせなら父さんと同じ場所に落ちていきたいな」


「そんなこと私が許さない」


オールは毅然とした顔で、手に一輪のホシミツツジを持って言った。


「私は天使。アンタが落ちていくなら、飛んで引き上げに行く。絶対に。もう大切な人が落ちていくのを見てるだけなんて嫌なの」


「・・・・・・」


「だからアンタは心配せずに生きなよ。アンタの空は私達が護るから」


「・・・オール」


オールは依然真っすぐな目で、散っていく花びらを眺めている。


「・・・お前、いい女になったな」


「・・・はあ!?」


オールは素っ頓狂な声を上げた。


「ああ、いや、間違えた。ええと、いい女というか、成長したというか・・・」


「どんな間違え方よ!」


ごめんごめん、と言いながら俺は腰を上げた。


「・・・昨日は悪かった。俺を励ましてくれようとしたんだろ。ありがとう」


「ん、なんかあらためて言われると照れるというか・・・なんというか・・・」


オールは少し顔を赤くし、ぶつぶつと言った。


「・・・この空に罪はないんだから、少しでも私たちが護るものを好きになってほしかったのよ。そしたらアンタもあの日に囚われなくてすむかと思ったのよ」


「・・・ロゼはあんな調子だからわからないけど、セラもアミルも俺のことを心配してくれてた。そうだよな、いつまでもあの日に囚われていたら前に進めないよな」


「ちょっと、何で私が心配してないと思ったのよ!馬鹿アラン!」


ロゼを先頭に、アミルもセラもやって来た。


「・・・なんだロゼも心配してくれてたのか?」


「そうよ!今日が近づくにつれ、うじうじし始めるアランに雨キノコでも生えないかと心配してやったのよ!ま、出来たら出来たで爆笑なんだけど」


「・・・そりゃどうも」


「とにかくアンタが島のことは気にしなくていいのよ!空を護るのは天使の役目よ。もうあんな事件は二度と起きないようにしてやるから安心しなさい!」


「はは、頼もしいな。じゃあ空は任せる。かわりに俺は・・・」


「・・・俺は、何よ」


「なんでもないよ」


家族を護る。アミル、セラブル、ロゼルル、オール。俺の大切な天使たちを護る。


こんな俺のことを気にしてくれて、10年前にいるままの俺を必死に引き上げようとしてくれてる。

心の底から優しい俺の家族。

そんな彼女たちがこの先もずっと幸せに生きてほしい。


そのために俺が天使たちを護るんだ。


何があっても。この命を差し出しても。


舞い散る花びらを眺めて俺はそう誓った。


ようやく未来へ少し歩けた気がした。





・・・・・・



それから1時間後、俺たちは駅のホームで別れた。


「・・・じゃあ、私たちはこれで。またねノア」


と、オールはひらひらと手を振った。


「たまには私のとこにも遊びに来なさいよアンタたち!私のワインセラーを拝みに来なさいよ!」


「はいはい、また今度な。じゃあな、二人とも」


絶対よ!と言って二人の姿は人混みの中へ消えて見えなくなった。


「・・・さて、私たちも行きましょうか。早くしないともっと混みあいますよ」


「そうだな」


そうして俺とアミルとセラが列車に向かっている時。

後ろからふと声が聞こえた。



「・・・あれ、アミルとノア君か?」



聞き覚えのある男の声だ。

振り向くと長身の男が立っていた。


「・・・グラド、偶然だな」


グラド・キューベル。18歳。長身が特徴的な茶髪の好青年だ。俺とはインタステラハイスクールの同級生だが、グラドは俺と違って首席で、学年一魔法を使うことに長けている。卒業後にはスカイ・シティの内部機関に就職が決まっているエリートの中のエリートだ。

そのくせ、人たらしでみんなから好かれているような奴だ。俺はそこまで仲いいわけじゃないが、アミルを介してよく話したりしている。アミルは勉強に関してよくグラドと話している。傍から見ればまるで恋人といるような話の盛り上がりようを見せるのは巷では有名だ。


「あ!グラド君、こんにちは!」


「やあ、アミル。君たちもこの時間に来てたんだね。僕も今から帰りなんだ」


「・・・グラドは一人で来たのか?」


「そうだよ。少し感傷的な気持ちになってね。一人で来たかったんだ」


「へえ、オルガンス島に知り合いがいたのか?出身はスカイシティだろ?」


「いいや、オルガンス島にはいないよ。でも、大切な仲間が亡くなった日だ。来ないわけにはいかないよ」


「・・・ああ、そうかい。じゃあ、邪魔しちゃ悪いから俺たちはこれで」


「ちょっと待ってくれ。君たちスカイ・シティ方面だろう。途中まで一緒に帰っても構わないか?一人も辛くなってきていたところだ」


「・・・」


そういうわけでグラドと帯同して俺たちはスカイ・シティ方面のスカイハイレールに乗り込む。


「アラン。なんだか機嫌悪い」


セラブルが耳打ちするかのようにこっそり言ってきた。


「・・・別に、機嫌は悪くないよ」


素直に言うとグラドのことは苦手だった。

片や学年主席のエリート様、片や落ちこぼれの一生徒。話が合うはずがない。自分の惨めさが際立つだけだ。

ちらとグラドの方を向く。

グラドは、アミルと一緒に何やら難しそうな話をしていた。

アミルはグラドと結構仲がいい。アミルもかなり成績優秀者だからどこか通じる部分があるのだろうか。学校でもよく仲良さそうに話している姿を見る。


スカイシティ駅で乗り換えをするまで、二人は話していた。


「それじゃまた明日、アミルちゃん。ノア君ともう一人の天使さんもね」


グラドは爽やかにそう言って、去っていった。



「一体、何について長々と話してたんだ?」


「一か月後の上級魔法試験ですよ!明日グラド君と呪文詠唱の練習をすることになりました!」


「そりゃよかったな」


俺にとって魔法は勉強以上に苦手なことだ。人並以下の魔法しか使えない。

しかし、ふとさっきの決意を思い出す。家族を護る。そのための力。俺は何を得ればいい。


「・・・・・・いや、待ったアミル。俺も付き合っていいか?」


「え!?どうしたんですか!魔法に興味を持つなんて!」


アミルが素っ頓狂な声を上げた。


「まだ事故のショックある?」


セラが驚いたように言った。


散々な言われようだ。

だけど辛いことに進もう。もう逃げるのはやめだ。

少しでも何かを得ることが出来るのなら飛び込んでいくんだ。






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