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白い小屋と過去

俺がオルガンス島に住んでいた頃だ。


家は島の端にあって、二階の窓から対岸のレバーレッジ島が良く見えた。

俺はオルガンス島から、レバーレッジ島へ渡るスカイハイレールを見るのが好きで、その日もいつも通り列車を眺めていた。

その時、俺はいつもと違う景色に違和感を覚えた。何だろうと思ってふと見渡すと、よく見れば対岸に小さい白い小屋が建っていることに気づいた。


「父さん!あっちの島に白いのが建ってる!」


俺は急いで階段を駆け下りて、一階にいる父さんの元へ向かった。

父さんはリビングでアミルに勉強を教えているところだった。


「どうした、アラン。そんな慌てて」


「いいから来てよ父さん!あっちに白い建物が建ってるんだ!」


「アランくん!今わたしが魔法学を教わっているとこなんです!邪魔しないでください!」


怒るアミルを無視して、俺は半ば強引に父さんを二階の窓際まで連れて行った。


「ああ、あそこの小屋か。どうやらおじいさんが色を塗り直したようだね」


「前からあったの?」


「あったよ。あそこはね、あの近くに住むおじいさんが夜星をみるための望遠鏡や、星図なんかを置いてる物置小屋だよ。父さんも昔はよく星を見に行ったり、小屋の中で話を聞いたりしてたよ」


「そうなんだ!僕も行きたい!」


「どこに行くんですか?」


アミルが追ってやって来た。


「アミル、あそこの小屋見て!一緒に行こうよ!」


「なにあれ、綺麗な小屋ですね!」


アミルも窓から身を乗り出して、小屋を凝視する。


「アミル、危ないよ。そしたら今から行ってみようか。父さんも久しぶりにおじいさんに挨拶するとしよう」


一度決まったら俺たちはオール、セラ、ロゼにも声をかけてすぐに向かった。

隣島にわたる方法は、鉄道の他に、橋の横についている歩行者専用道路がある。当時天使たちは島を渡っていけるほどの力はなかった。唯一、飛行に長けたロゼだけが島間を渡る力を持っていたが、乱気流が危険だからと父さんに島間飛行は禁止されていた。


俺たちはレバーレッジ橋を渡り、白い小屋のもとまでやってきた。

近くで見るとまるで小さな城だった。三角屋根が青空を背景に綺麗に映えていた。


「中を見てみようアラン!」


ロゼが赤い瞳を輝かせて言う。


「うん!」


「あ、アラン、ロゼ。ちょっと待ちなさい。おじいさんにちゃんと挨拶しないといけないから」


「えー!いいじゃあん!アルベルトのケチ!」


「ロゼ。わがまま」


「うっさい!」


「おじいさんの家は直ぐ近くだから。さあ、行くよ」


俺とロゼは互いに顔を見合わせ、渋々とおじいさんの家に向かった。




「これは久しぶりだな!アルベルト・ノアくん!」


「ご無沙汰しております。パロマさん。すいません、いきなりお邪魔して」


「構わんよ!こっちはアラン君か!久しぶりじゃないか!君を見た時はまだ赤ん坊だったがすっかり大きくなったな。そちらのお嬢さんがたは?」


「この子たちは守護天使です。ぼくの家族で、娘たちです」


「ほう。噂に聞いていたのは君たちか・・・・・・。みんな美人さんだな。まさに天使だ」


おじいさんはパロマ・ロパと名乗った。白いひげを生やした物腰の柔らかそうな人だった。杖をついていて、だいぶ高齢に見えた。


「おじいさん、あの小屋見せて!」


俺はおじいさんに言った。


「すいません、パロマさん。実はこの子たちがあの白い小屋に行きたいとごねるもので」


「ああ、あの小屋か。構わないよ。最近色を塗り替えたばかりでね。綺麗に仕上がったから是非とも見てほしいね」


「やった、行こう!」


おじいさんの話半分に天使と俺は文字通り飛んでいった。


「あ、こら!すいません、騒がしくて」


「ははは、いや子供は元気が一番だからね。私たちもついて行こうか」




俺たちは着くや否や、小屋の扉を開けて中に入った。


「すっげえ!なにこれ!」


中にはたくさんの天体観測用の機材が置いてあった。パロマさんは几帳面な性格らしくて、古いものが多いけど、すべて手入れが行き届いているみたいでピカピカと輝いていた。


「私これに決めた。これでアランが怒られてるところを遠くから覗くのよ」

オールは細筒の望遠鏡を持ってにやりと言った。


「これは星をみるためにあるんですよオール!・・・って、あ!すごいこれ!星座の本だ!知らない星座がいっぱい載ってます!」


「ロゼ。何それ」


「真っ赤な毛布!この私の趣味を押さえてるみたいね!」


俺たちは各々小屋の中で自分好みのものを探して楽しんだ。



「こら、君たち!勝手に小屋の中を漁っちゃだめだ!」


あとからやって来た父さんが怒った。その後ろからおじいさんが笑いながら言った。


「はっはっは、いいんだよノア君。君たち好きに使って構わないよ」


「けれど、パロマさん・・・」


「おじいさん!これの使い方教えて!」

「私も!これ何なの!」

「私も!」


それから俺たちは小屋の中から持ち出した機材の使い方を教えてもらったり、自分の思うように機材を使って遊んだ。




結局、その夜、なかなか帰ろうとしない俺たちのせいでおじいさんに晩御飯までごちそうしてもらうことになった。


「ノア君、わたしももう長くないんだ」


おじいさんがワインを飲みながら父さんにそう言った。


「・・・え?一体何の話ですか?」


「わたしの寿命の話だ。実は二年前から病気を患っていてな。その時に余命宣告をされたんだ」


「・・・そんな、信じられない。全然そんな風には見えませんでした」


「そうだろう。実はもって一年だと言われてな。その時は覚悟が決まってな。もう残り短い時間を好きなように生きようと、大好きな星ばかりを見ていた。するとそれから二年経ってしまった。人間は不思議なものだ。どうでもいいと人生を投げ出して思うがままに生きてみると案外生きてしまうものだ。けど、もういつ死んでもおかしくない。自分の身の回りの整理整頓はしておかねば、と思ってな」


「そんなまだこれからですよ」


「いや、いいんだ。実はあの小屋のペンキを塗りなおしたのは、誰かに渡そうと思って綺麗にしたんだ。もとの汚い小屋ならだれも貰ってくれないだろう。だから、綺麗にして誰かに譲りたかったんだ。それでも貰い手がいるかわからないが、当てを探しているそんな時に、偶然か君と元気のいい子供たちがやって来た」


「アランが見つけたんです。レバーレッジ島に綺麗な小屋が立っているって。今朝の話です」


「それなら私の本懐だな。彼らはいい子たちだ。どうだノア君、あの小屋を引き取ってくれんかね?」


「パロマさん、でもあの小屋は・・・」


「もちろん中の機材も全て貰ってくれると助かる。私が長年かけて集めた自慢のコレクションだ。あの道具たちを残して死ぬのも忍びなくてな。あの子たちになら喜んで譲るよ」


「本当によろしいんですか?」


「かまわんよ。もとよりそのつもりだ」


「・・・わかりました。ならお言葉に甘えさせていただきます。でもパロマさん、僕も一つだけお願いがあります」


「なんだね?」


「またあの子たちと遊びに来ます。その時は、また星の話を聞かせてください」


おじいさんは少しだけ、目を丸くして、朗らかに笑った。



それから俺たちは父さんが仕事でいない時も、おじいさんのもとに遊びに行って、小屋でいろんな星の話を聞いた。いろんな機材を使って星も見た。


おじいさんが亡くなったのは、それから間もなくしてだった。







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