白の天使と添い寝
「どういうことだ?セラ」
「言葉通りの意味。察し悪い、アラン」
セラブルはいつもと表情を変えずにそんなことを言った。そして残りの片づけを俺に任せて、寝ている天使たちを各々の部屋に連れていき、自室へ引き上げていった。
片付けが終わった俺もリビングの灯を落として、自室へ引き上げた。机上灯だけ点ける。ぼんやりとした光が灯った。クローゼットの前には、セラが準備してくれた礼服があった。黒色の服が薄暗い部屋の中でもやたら目立っている気がする。いつもはそんなことないのに、なぜかセラブルを意識してドキドキしてしまう。
俺は邪な気持ちも洗い流すようにさっさとシャワーを浴びて、ベッドに寝転んだ。
耳に晩餐会の楽し気な会話が、染み付いていた。そして先ほどのことなのに、その時の光景が既に恋しくなった。五人でいるのは楽しかった。ずっとあの時間が続けばいいのに、と自分でも驚くほどセンチメンタルだった。
ふと今朝のオールの言葉を思い出した。
『近いうちに5年前の悲劇が再び起こる』
オールがなぜそんなことを言ったのかわからない。
彼女がなぜそんなことを確信しているのか、そして何を知っているのか。全くわからないが、只ならぬ事態が起きる予感を感じさせた。どうにもオールは謎めいたことをたまに言うが今回は、少し気色が違った気もする。
「島が再び落ちるか・・・考えたくもないな」
「私も」
俺は思わず飛び起きた。ベッドの側にセラが枕を持って立っていた。
パジャマに着替えて、流れるような黒髪を手櫛で梳いている。
「び、びっくりした・・・!セラ!勝手に部屋に入ってくるなよ!」
「思春期?一緒に寝るって言った」
「一緒に寝るとは聞いてないぞ!・・・っておい、待て待て!」
セラは問答無用と言わんばかりに俺のベッドに入ってきた。
「アランうるさい。昔一緒に寝てた」
「昔の話だろ!今は違うよ!」
「違くない」
セラはこういう時は強引だ。
枕の位置を整えて、一緒に寝る気万端だ。
「アラン、今も5年前のことずっと考えてる。心をその時に置いてきてる。だから5年前と変わってない。そうでしょ?」
う、と思わず口をつぐんでしまった。
思いがけない指摘にひるんでしまったのだ。
「だから昔も今も一緒。一緒に寝る。そして一緒にいる。おかしいことはない」
セラは起き上がった俺を、半ば強引に布団に誘った。
どさっと枕に頭を預けると、セラの美しい相貌がそこにあった。
「それに私言った。一人じゃ寝られないって。十年前のことを思い出して恐くなってるの私も同じ」
セラが俺の顔に手をかけた。
「・・・おい、ちょっと、セラ・・・!」
吐息がかかるほど近くにセラブルがいる。心音がやたら高鳴っているが、同時に不思議と安心できた。
俺も何となく寝られるか不安だった。考えないようにしようと思っていたが、やはり明日のことを考えずに寝ることは無理そうだったからだ。
誰かと一緒にいることで少しでも安らぐことが出来る。ひょっとしてセラは気を使ってくれたのかもしれない。
「気にしないでアラン。私たち家族。絶対離れない」
「・・・気にしないでって、何を?」
「島がまた落ちるかもってこと。そんなはずないから。大丈夫。私たち家族はもう一人もいなくならない」
セラブルの黒曜石のように美しい黒い瞳が俺を真っ直ぐと見据える。
「・・・セラはどうしてそう思うんだ?」
「・・・確信はない。けど私がそうはさせない。空を護るのが天使の役目。アミルもオールもロゼも同じ気持ち」
「そうか。頼りになるな。俺にもこの国を、大事な人を護る力が欲しかった。いつもお前たちから護られてばかりだな」
「・・・そんなことない。自分の定義、間違わないで」
「自分の定義、か。オールもそんなこと言ってたな。俺が間違えてるって・・・」
「・・・そう。じゃあ、オールは言葉足らず。それだけじゃ、本当のことは伝わらない」
「本当のこと・・・?どういう意味だ」
「・・・何でもない。もう寝てアラン」
「・・・・・・」
そう言ってセラは目を閉じた。
俺もそれに倣うように目を閉じ、微睡んでいった。
その日夢は見なかった。自分でも驚くほど深い眠りに落ちていたみたいだった。