束の間の団欒
「ロゼ。お肉食べ過ぎ。野菜も食べる」
「はあ?うっさいわね。肉を食べなきゃ速く飛べないじゃない。肉をたくさん食べない方からアンタたちはトロトロ飛ぶことしかできないのよ」
「ロゼはせっかちなんだよ。無駄に体力使い過ぎ。バカ飛行しすぎ」
「オールも直ぐクルクル回るから無駄が多いですけどね」
「セラ、お代わり無いか?ロゼが俺の分まで食べちまった」
「氷箱にある。自分で取ってきて」
「アラン!私の分も追加よ!独り占めしようなんてそうはいかないから」
「独り占めしてるのは、俺じゃなくてお前だよ」
俺は騒がしい食卓を抜けて、外の氷箱にクメル鳥のオリーブ漬けを取りに行った。
天使が四人もそろうと静かな夜も一瞬でどこかに消え去る。仲がいいのか、悪いのか、四人はやいのやいの言いながら料理を楽しんでいるのが、庭先にいても聞こえる。
5年前、それこそあの事件の前は、皆一緒に住んでいた。
今はオールとロゼルルが別に暮らしているから、一年に一回のこの晩餐会ではあの頃を思い出す。
ブルーキャノピーに四人しかいない天使の種族。
そんな珍しい種族の彼女らが、一緒に住んでいるのは謎だが、物心ついた時には一緒にいたのであまり気にしなかった。彼女らは当たり前のように俺の横にいたし、当たり前のように一緒に食卓を囲んでいた。
彼女らは天使ではなく、俺にとってはただの家族だった。
窓から中を覗く。
笑いあっている四人を見て少し笑みがこぼれた。
「わ!オールが酔っぱらってる!アランくん早く見てください!あははは!もう顔真っ赤ですよ!」
「うるさいな、アミルぅ・・・」
俺が中に入っていくと、オールはワインを片手に、頬杖をついていた。
「ほんとだな。酒弱いんだからあまり無理するなよオール」
「・・・むう。わかってるよ。今日くらいいだろノア」
「お酒に負けるなんてなっさけないわね。私を見なさい。もう六本空けたわ!」
「ロゼ飲みすぎ。明日二日酔いは論外」
「うるさいわねセラ!年に一度の晩餐会よ!飲まないとアルベルトに失礼ってもんよ!」
「アルベルトさんも今のロゼを見たらがっかりしますよ~。お酒が入るとだらしないなって感じで」
「ハッ、心配無用よ。アルベルトのワインを勝手に飲んで怒られたことだってあるもの」
「なんで自慢げなんですか」
「ロゼこそ酔っぱらってるんだよ。いつもよりうるさいもん」
「確かにその点、オールの方がいい酔い方してるのかもな」
「うん、そうだよノア。わかってるじゃない」
オールは少しとろんとした目で俺を見る。
なんとなく今朝、向かい合って飛んでいたことを思い出す。
「・・・・・・」
目を逸らしあう俺とオール。
「・・・・・・ノーアくーん?」
氷のように冷たい声で言うのはアミルだ。今度は恐ろしく責めたてるような眼で、軽く恐怖を感じた。
それからしばらくして晩餐会は何となく終わりを迎えた。
オールは酔いつぶれ、ロゼルルとアミルは食い倒れ、セラブルと俺は後片付けをしている。
「料理ありがとな、セラ。全部美味しかったよ」
「そう」
セラブルはいつもクールだ。言葉数も少ないし、表情も少ない。
けど四人の中では一番しっかりしてるし、家事全般なんでもこなせる。正直一緒に住んでる俺とアミルはセラに頼りっきりだ。
「アラン、服出しておいたから。明日着て」
「ああ、さっき見たよ。ありがとな」
「朝十時の電車に乗るから。自分で起きてね」
「大丈夫だよ。ちゃんとわかってる」
「そう」
「今年もみんな集まれてよかったよ。セラももう上がってくれ。今日は朝から準備してくれてたんだろ?ありがとな」
「別に」
「ここ後は俺がやっとくよ。先に休んでてくれ」
「・・・そう」
セラは静かに手を拭いて、エプロンを脱いだ。
結んでいた黒髪をほどくと、さらさらと肩に流れた。
「・・・アラン、一人で寝れる?」
「寝れるよ。もうガキじゃないんだ。セラももう寝ててくれ。アイツらは俺が運ぶから」
「そう」
セラはそうすると少し何か考えるように黙って、また口を開いた。
「私は一人じゃ寝れないかも」
「・・・・・・え?」
セラは無表情でこんなことを言うから困ったものだった。