夕方の目覚め
「アラン君、起きてください。もう直ぐご飯ですよ」
俺は学校から帰ってきたアミルに起こされた。
「・・・ん、ああ、すぐいくよ」
気づけば外は夕暮れで、橙色の陽光が自室の窓から差していた。オールとのデートから帰ってきた俺は、すぐに自室のベッドで眠りに落ちた。なんとなく空を飛んだ感覚が残っているが、空を飛んだ出来事がどこか遠い夢の中みたいに思えた。
俺は寝ぼけまなこでぼんやりと階段を下りていくと、夕飯の香りが漂ってきた。シチューだ。濃厚なクリームの匂いが、お腹の虫を鳴らした。
台所に立っているのは、白の天使セラブルだ。長い黒髪を結んで、鍋をかき混ぜている。
「アラン、起きた」
鍋に目を落としたままセラブルは言った。
「ああ、悪い。手伝うよセラ」
「いい。もうすぐできる。座ってて」
テーブルのほうでは、一足先にアミルが座っていた。
ふわふわの白いセーターを着ている。テーブルに頬杖をついてこちらを見ている。なんとなく機嫌が悪そうだった。
「アラン君、今日の学校は楽しかったですよ。星見の天文学や、地上説の解釈・・・お昼にはナギドリが中庭で鳴いてましたし、屋台には月一のヘーゼルナッツチョコクロワッサン・・・あーあ、残念でしたね、来れずに。・・・・・・一体全体オールと何してたんですか?」
遠まわしなのか、直球なのか・・・。
俺はため息をついて嫌々アミルの対面に座る。テーブルには既に他の料理が準備されていた。
香ばしいクメル鳥の丸焼きや、色とりどりの空野菜のサラダなど、豪勢な料理に思わず目を奪われていると、返答を早くしろとアミルが睨んでいることに気づいた。
「別に普通のデートだよ。普通の」
「・・・その普通が何か知りたいんですよ!オールの普通のデートが、普通な気がしないんですけど!」
「なにって・・・」
俺はオールの言ったことを思い出した。
『アミル達には内緒だよ。キスしたことも、これからすることも・・・』
「・・・・・・・・・」
「なんっっで言わないんですかッ!言えない普通のデートがありますか!」
いや、言えないよ。わっと喚くアミルには申し訳ないけど、墓場まで持っていくつもりだ。
「セラブルー!アラン君学校サボるし、何してたかも内緒にするし、ほんとに不良になっちゃいました!普通のデートなんて嘘ですよ!紫天使と不純な異性交遊ですよ!昔はこんな子じゃなかったのにィ!」
「そう」
セラブルは特に関心無さそうだ。
「なんでアミルが気にする必要があるんだよ」
「え、や・・・だ、だって私はアラン君の生活全般を護る義務があって云々かんぬん・・・」
だんだん小声になっていくアミルをよそに、セラブルが鍋を運んできた。
「まだ食べちゃダメ。もう少しでオールとロゼルルもくる」
オールが来ると聞いてぴくッと反応したアミル。セラブルは相変わらずのクールな顔で窓の外に目を向けた。
その直後に庭から二つの大きな翼音が聞こえた。
どうやらオールとロゼルルがちょうど着いたようだ。
「タイミングいい」
セラブルは、エプロンを取って俺の隣に座る。
「やほ。ロゼルルと鉄道で偶然あったよ。・・・うわ、いい匂いだ」
入ってきたオールが告げた。
仕事が終わって着替えたらしい。薄紫のワンピースでいつもと違って少し清楚な恰好をしていた。
オールと目が合ったが、俺はなんとなく目を逸らす。オールは今朝のことが無かったかのように普段通りの目だった。
次になんとなくアミルと目が合った。こっちはなぜか責めるような眼だった。
あとからロゼルルが入ってきた。
髪と瞳が同じ赤色をしている赤の天使だ。同じく薄い赤色のワンピースを着て、腰に紅いリボンを巻いていた。
「まあまあ上出来じゃないセラブル。この私の好物を把握してる点は評価してあげるわ」
ロゼルルは天使の中で一番小柄だが、態度は一番大きい。
鋭い赤色の目で料理をしっかりと見定めている。その点は抜け目のない奴だ。
金の天使アミル。
紫の天使オール。
白の天使セラブル。
赤の天使ロゼルル。
そして、ただの人間の俺。
今日は年に一度の
晩餐会だった。