閑話 吸血鬼王女の安堵
私の名前はローザ=ブラッド
吸血鬼王族の生き残りで、今は精霊界へと亡命している。
私達吸血鬼一族はつい先日、人間界による吸血鬼征討軍によって壊滅されました。
父も母も「人類の平和に対する罪」とやらで殺された。
しかし、それに関しては怒りは沸きません。
何故ならば、小賢しい父も母も強い力を持つからといっても数の多い人間には手を出さなかったが、獣人やエルフといった亜人族に対しては非道の限りを尽くしたからです。
殺されて当然、むしろあんな一族はこの世から消えるべき。
それが私の考えであったので、その面に関してのみは勇者に感謝しております。
しかし、それとは別に彼らに対しては深い恨みがあります。
もちろん止められなかった私にも罪が無い訳ではありません。
ですがあの子、ーーーーアリス=ブラッドは関係ありませんでした。
生まれつき吸血鬼としては有り得ないほど、澄んだ魔力を持った彼女は父と母から存在を危険視されて、幽閉されていました。
もし彼女が人間に産まれていればきっと幸せになれていたでしょう。
勿論単なる同情だけではありません。
あの子は私の妹であり、唯一の『家族』と呼べる存在だからです。
私は生まれつきアリス並の膨大かつ、澱んだ魔力を持っていました。
吸血鬼としては素晴らしい魔力であり、誰もが私を後継者として見ていました。
誰もが、表面上では私を称えましたがその根底にある感情は怯え、
ただ一人を除いて………
記憶にあるのは幼き日、彼女が物心ついた頃。
私は吸血鬼一族の跡を継ぐ為の鍛練の日々だった。
血魔法が未熟だった私は生傷だらけだった。
「あなたが………ローザねえ……?」
私と初めて会った日、彼女は相反する魔力の性質により怯えていた。
でも震える手を怪我した私に寄せて
きっと無意識だったのだろう。でも、その時かけてくれた回復魔法の温かさを私は一生忘れない。
だから………彼女、アリスを守る為に私は強くなった。
でも…………
あの日、勇者を振りきってアリスが逃げた先にあったのは血痕と焼け焦げた森林のみ。
そして、焼け焦げた森林の中心地には人と思える遺体があるのみ。
私はこの現象を知っている。
【魔力暴走現象】
吸血鬼の自爆技である。
何故アリスが知っていたのか知らないがこの結果を見るにアリスの運命は推して量るべきであろう。
ーーー誰よりも守りたかった妹を守れなかった。
その後悔が私を締め付けるのと同時に、
ーーー妹を殺した勇者や人間が憎い。
そう思うようになり、ツテを使って精霊界へと亡命して復讐の為に人間界の中心へと乗り込もうとしていた。
つい先程までは。
コンコンコン
先程、私の部屋の窓が何者かにノックされた。
警戒しつつも窓を開けると、見覚えのある使い魔が一匹いたのである。
そしてその首には………
「この魔力………」
紅い紅い石をあしらった一つのブローチが糸で下げられており、脚には手紙が括られていた。
石からは、かなりの魔力を感じる。
そして手紙には
ローザ姉へ
私は大丈夫です。
今はまだあえませんが、必ずいつか会いにいきます。
そのときまで、このブローチを私だとおもって大切にしてください。
アリス=ブラッド
こう血文字で書かれていた。
「アリス………良かった………無事で……」
私は、血文字で書かれた手紙を抱える
それだけで、私の心の底にあった怒りや憎しみが消えてゆく
偽物ではない、この血文字はれっきとした魔法であり、送りたい主の魔力に反応してそれ以外には読むことができないのである。
もちろん魔法であるから、行使した主を知ることも可能だ。
ただ、欠点はあまり長文にできない点であるが
「大丈夫、アリス。私は何時までも待てるから……」
アリスが生きている。
それだけで今は十分。