第5話 3年後
「【重力制御翼】展開。」
私が一言呟くと、背から純白の色をした魔力が放出され始める。
そしてそれは一瞬で純白の2対の翼へと変貌する。
「ギャー!クェックェッ!」
地面を蹴って天空を駆け始めた私を脅威と感じたのか、ワイバーンが威嚇を始める。
そのような虚仮脅しは勿論私に通用せず………
私は空中で体勢を整えて、
「【集束魔力弾】」
翼の魔力を一点に集め、脳天を狙撃する。
ワイバーンは為す術もなく被弾、墜落する。
そして一撃の下、命を奪い取られたワイバーンを無限収納に収納して………
本日の食材調達は完了する。
「いやー、やっぱりお肉は新鮮なのが一番♪」
私はそう言いながら血液操作と愛剣でワイバーンを解体しながら無限収納へと肉を投げ込んでいく。
「ワイバーンの卵も手に入れたから今夜は親子丼かなー♪」
師匠は喜んでくれるだろうか?
私は期待に胸を弾ませながら家路についた。
「「いただきます」」
二人の声が食卓に響く。
この世界では食事の前に「いただきます」と言ったり、生命に感謝を捧げる行為を行うのは宗教関係者を除いて希らしい。
考えてみればそうだ。この世界では死が近い、森に入れば魔物という一般人からすると『死』という概念を具現化した存在が跳梁している。
食うか食われるか。極限の状況に常時置かれているのだから仕方がないのかも知れない。
と師匠はいっていた。
「“親子丼“って言うの?とても美味しいわ。このふわとろ感が好き」
「良かったです!たまたまワイバーンが居たので助かりました~」
「………そう(これはどう見てもワイバーンロードでは?)」
あれ?おかしい……なんか師匠の顔に一瞬影が差したような?
ワイバーンは一般的に見ればかなり強いけど、これくらいなら倒せるって師匠知ってるよね?
私は疑問を浮かべるが、師匠は何も言わないので気にしない事にする。
(まあ、大丈夫か)
「それで今日はこんな事があったんですよ~!」
「そうだったの?」
そして3年師事してわかったが師匠は基本的に無口・無表情だ。
でも、無関心ではない。
必要な事は話すし怒ってもくれる。
今だって口調はそっけないけど、目を見て話していれば師匠が僅かに微笑んでいるのが分かる。
こんな日常が毎日続けばいいなー
と、私が呑気に考えていると
「アリス。これ」
いきなり師匠が封筒を渡してきた
「師匠?なんですか?」
「良いから開けてみて」
師匠に促されるまま、封筒を開封すると……
『王立エーデルワイス精霊学園入学のご案内』
と記された書類と『特待生:アリス=ウィンターローズ』宛の書類であった。
これってつまり……
「師匠?これは……」
私は突然の事で理解が追い付かない。
私、師匠に捨てられる……?
「アリス、貴女は3年で学ぶべき基本を全て身につけた。だから今度は広い世界を知るべき」
涙目になっていた私に気づいてか、師匠がこう言う。
どうやら、私はこの3年で学ぶべき内容は全て終えていたみたいだ。
だけれど、学ぶ事と実践では違う。
もっと広い世界、いきなりは無理だから先ずは学校でしか学べない事を学業だけに限らずに学んで欲しい。
というのが師匠の願いだった。
それで、自分のツテとコネを使って精霊界1の学園で特待生枠をゲットしてくれたらしい。
余談だが、私の姓『ウィンターローズ』は師匠の精霊界における家名で、便宜上私は師匠の娘らしい(師匠の同族子孫だから一族である事に間違いはないが……)
マジ師匠優し過ぎる。
更に余談だが、世界は3つの界(大陸)によって成り立っている『人間界』『精霊界』『魔界』
私が産まれたのが『人間界』に勢力を持つ吸血鬼一族であり、今は師匠と『精霊界』の辺境で暮らしている。
「だからアリス、気負わずに学んで来て。貴女(の才能)なら(色々な意味で)大丈夫だから」
………んー。感動的な場面のはずなのに微妙な副音声が聞こえるんだよねー
と、私がチベットスナギツネの様な表情をしていると……
「でも……辛くなったら何時でも帰って来て」
そう言って私を抱き締めてくれる。
「ありがとう……ございます。師匠、」
「違う……書類上では私は母」
ちょっと拗ねた様にふくれる師匠が可愛かったので
「ありがとう……おかあさん」
といっておいた。