第2話 山賊の悪漢
幼女×山賊=犯罪
チート幼女×山賊=血祭り
「わあ……吸血鬼って金満屋だったんだ……」
勇者の襲撃と同時に『何故か』破壊された私の部屋の扉と、『何故か』解錠されていた宝物庫の扉という幸運に恵まれて私は今、宝物庫を漁っている。
「うーん。この金銀財宝が領民や罪の無い人々の血と涙と考えると………」
宝物庫には予想以上の財宝が積まれていた。
吸血鬼の領土は他の種族と違って狭い。
故にこれは決して真っ当な方法で手にいれたモノではない。
だから、どうせ略奪されるとはいえ自分が持ち逃げするのは躊躇われた。
「魔道具と武器以外は最低必要限にしておこ……」
姉と訓練した無限収納の魔法の容量は文字どおり無限だ。
故に命を守る為の魔道具や武器は沢山もって行ける。
(魔道具と武器は殆ど全てが吸血鬼王族祖先からの伝承が確定していて盗品じゃない事が分かってるからだけどね………)
あれだけ虐げられた親故に遠慮なんて不要。
ローザ姉だって暗に全部持っていけみたいな事書いてたし………
「それはそうとして……まずは逃げなきゃ。」
そう、宝物庫は城の奥深くにあるため音こそ聞こえないものの、今まさに姉様が玉座の間で戦っている。
本音を言えば私も姉と戦いたい。
でも、私が記憶を取り戻すまでの短い期間に姉から教わったのは収納魔法や逃走の為の魔法、護身の為の低威力魔法だけだ。
これでは足手まといにしかならない。
「それに姉様は物凄く強い……」
記憶を取り戻す前の私が知っている。城を守れなくても姉は自分の身なら一人で十分に守れる。
勇者クラスでは守りに徹していれば絶対に不覚を取らない。
だから、私のすべき事は一つ。
枷となっている私が少しでも早く消える事。
「【重力制御翼】」
魔法は瞬時に発動し、私の背中には一対の黒翼が生える。
魔力によって形成され、実体を持った漆黒の翼。
吸血鬼にも眷族である蝙蝠の翼を生やして飛行を可能にする【黒化】という血魔法があるが、それよりも素早く・飛行性能が良いのがこの魔法の利点だ。
イメージは前世のアニメで見た某万能戦艦が元ネタだ。
「本当は3対なんだけどな………」
私は思わず顔をしかめる。
1対では水平安定と垂直安定、推進に力を割いてしまうため滑空が限界。
飛行の姿勢制御に理想的な翼は3対6枚だ。
しかし、魔力不足の関係で1対しか翼は創れなかった。
「まあ、今回は滑空さえ出来ればいいからね」
吸血鬼の城は高所にあるので滑空さえ出来れば相当距離を稼げる。
あとは山賊にさえ見つからなければ大丈夫だろう。
そう思って私は窓から飛び出した。
◆◇◆◇◆◇
『山賊に見つからなければ大丈夫』
私は確かにそう言った。
私は今その発言を全力で後悔している。
フラグ(死亡)を全力で建てていたからだっ!
「へへへ……お嬢ちゃん。悪い事はしないからこっちにおいでよ……」
嘘だっ!こいつの目は欲望で満ち溢れているぞっ!
なんという事でしょう!
運悪く、着地した先にボロい装備の山賊が居たのである。
「【鑑定】」
私は迷わず戦力差を確認する。
5歳の脚で大人には敵わないし、飛行魔法も不完全だ。
名前 ヤマダ・タカシ
性別 男
レベル 23
職業 山賊の悪漢
HP 3000
MP 100
スキル 「剛力(小)」
称号 【異世界人】【堕ちた勇者】【無法者】【変態】
どうやら同郷だったらしい。
しかし、この状況で知ったところで意味はない。
「【漆黒の矢】」
私の黒翼に魔方陣が浮かぶと、その魔方陣から黒い羽根の矢が発射される。
「グッ……」
私は【重力制御翼】に残存していた全ての魔力を【漆黒の矢】に込めた。
直後に【重力制御翼】が解除され、翼は霧散し私の体を倦怠感が襲う。
ーーーしかし、
「こいつっ!!」
【漆黒の矢】は山田某の片腕を無惨に潰しただけに終わる。
戦闘不能に追い込むには手数が足りなかった。
「【剛力】!!」
山田某は激昂したのか、恐らく転生ギフトなのであろうスキルを発動し、上段からボロボロの斧を振り下ろす。
「……った……っ!!!」
【重力制御翼】に多くの魔力を割かれ、回復が完了していなかった私は倦怠感から回避が遅れ、右腕を切断される。
切り飛ばされた右腕は宙を舞って、山田某の足下に落ちる。
その腕を山田某は掴んで……
「やったぁ……やったぞ!これさえあればあいつらを見返せる!」
そう言った事で、姉が以前に教えてくれた事を思い出した。
ーー人間は私たち吸血鬼の肉を食べる事で強大な力を得られると勘違いしている。ーー
「これで……俺もあいつみたいに……ハーレムでチートな異世界生活が送れる!」
そう言う山田某の表情は頭の中に渦巻く欲望で歪んでおり、キモい。
「おい、お前」
完全なる栄光を手にする未来を想像して気分が良くなったのか
「みてくれは良いな。俺様のハーレムメンバーの記念すべき1番目に加えてやる。」
世迷い言を言う。
いや………生理的に無理です。
君、異世界来てから鏡を見た?
ボロボロの服に泥だらけ垢だらけの全身、さらに悪臭のオプション付き。
顔面偏差値や性格以前の問題です。
「おい、何とか言えよ!」
残った左腕を掴んで私を持ち上げる。
私はこのチャンスを待っていた!
まだ、魔力制御が上手く出来ないのでそのまま使えば自爆しかねない最後の手段。
右腕を切断され、本体から離された為に右腕に残った魔力を安全に暴走させる事が出来る。
「血魔法【魔力化】……制御放棄……【魔力解放】」
その瞬間、私は光と熱線に包まれた。
次に目を覚ました時………
「痛ったぁ…………」
左腕と両足に一瞬だけ激痛が走る。
確認してみると
「うわぁ……」
酷い大火傷だった。
このまま放置すれば敗血症まっしぐらというレベルの
回復魔法を行使しようとするものの……
「意識が……」
思考が纏まらず、意識が朦朧としてくる。
いけないと思うが5歳の体は自分の欲求に忠実だ。
再び意識が落ちる寸前。
「……もう……大丈夫……だ……安……ね」
私は何か温かいものに包まれる感覚がした。