第9話 反撃、そして……試験終了?
気づいた時には、どこからともなく現れた吸血鬼古代王族の腕が私の胸を貫いていた。
「どうだ?いきなり心臓を潰される気分は?」
奴が醜く表情を歪めて私に問う。
「実はね、ここは現実ではないんだよ。」
奴は更に嗜虐的な笑みを浮かべ……
「喜ばしいことに生き物は脳の錯覚で簡単に死ぬ、実際の君は怪我一つしていないが、脳は心臓が潰されて血が大量に出ていると錯覚しているのだ」
「ううっ……」
「ほら、呼吸が浅くなって来たぞ?」
「きゃ……」
「良いぞ、美しいものが壊れる時にこそ美が存在する!ハハハ」
「ハハハ、死ね!【死人蝋傀儡】」
という経緯で奴は私をマジで剥製というか蝋人形にしようとしてきたので……
「気持ち悪い。」
「ブッ……!」
顔面を一発ぶん殴った。
勿論魔力で強化した上で、
反撃を予想していなかったのか、ジャイアンパンチ並に顔面にクリーンヒットした私の右ストレートによって奴は吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「ぬ……ぉぉ」
さすが吸血鬼古代王族。
苦悶しながらも、何とか立ち上がる。
だがしかしお陰で奴の高い鼻は折れ、鼻血が大量に出ている。
ざまあみなさい、鼻血ブー野郎
つーか、普通心臓壊されたら声も出せないよ。気づこう?
「何故……この世界では……」
奴がうわ言ように呟くのでそろそろネタばらしをしようと思う。
「理由は単純、貴方より私が強かった。だから貴方の幻覚の外に幻覚で世界を重ねておいた。」
血糊でべっとりした服を魔法で綺麗にして笑顔で告げる。
「ばかな……反応速度から見ても限界があるはずだ」
確かに
並の魔法使いなら反応できない
「だから、貴方が弱いだけ」
私の師匠は異名として『光と空間の魔術師』というどこぞの劇的な匠みたいな異名がつくほど光魔法と空間魔法が得意だ。異名は魔術師なのに
そんな師を持つ私がチャチな催眠幻覚魔法に負ける筈もなく……
「嘘だ……嘘だ…我は古代吸血鬼王族だぞ?」
「そう?ならその空っぽの頭蓋に現実を叩き込んであげる」
パチン、と私は指を鳴らす。
すると……
荒野の世界がガラガラと音を立てて崩壊してゆき……
「なっ……」
一面花が咲き乱れる世界に置き換わった。
「ふざけるな!【繊月夜弓】」
また面倒そうな固有魔法を使おうとしていたので
「何度やっても同じよ」
もう一度私が指を鳴らせば、生まれかけた願望の世界は泡沫の様に消え去る。
「嘘だ……古代王族である余が……こんな小娘に……」
このままだとそれこそ『負けて死ね』でも使いそうな勢いだったのでトドメを差す事にした。
「相手が悪かったね♪【獄炎禍災】」
「ああああああ!」
蒼き地獄の炎が不埒な吸血鬼を包む。
始祖や古代種が強いとは限らない。
後に出現した種の方が合理的な進化をしたものが多い。
勿論自然選択に対する"有利さ"に普遍性は無い故にその逆も然りだが
吸血鬼が動かなくなった事を確認してから、
私は魔法を解除した。
「ふう……面倒だった」
現実世界?の古城に戻ると、既に息絶えた吸血鬼古代王族は朝日に照らされて、灰になりつつあった。
「これでクリアだと思うけど、どうやって現実に戻るのかなぁ」
ボスは倒した、しかし何故か現実に戻れない、
もしかして裏ボス登場?
みたいな事を考えていると
「アリス=ウインターローズ殿でございますか?」
いきなり、白の貫頭衣を着た男性が広間の入り口から現れる。
「はい、」
「私は精霊王様に使える精霊ノイ・ルシファール。
先程の貴女の戦いを見て我が主が是非会いたいと申しております。是非主の神殿にお越しいただければと……」
おや?ボーナスステージフラグかなぁ?
精霊王謁見イベント?
ゲームみたいな世界観だね!
「承知しました。」
現実なら疑うところだけれど、どうせシミュレーションシステム内の出来事だからという事で乗ることにする。
現実だったらこんなにホイホイ着いていかないよ?
◆◇◆◇◆◇
転移魔法を使った先は、塵一つない白で統一された神殿であった。
そしてその奥、玉座には一人の男が座っている。
瞳は明けの明星の如く金色に輝き、髪は夜空を舞う三日月の様に蒼銀。
七色の翼に内包された圧倒的魔力は彼が只者でない事を証明している。
「お主が次代のウインターローズか」
その魔声には力が宿る。
精霊界に伝わるおとぎ話の存在。
それが精霊王オヴェロンである。
「はい。」
「試すような真似をして申し訳ない」
そのおとぎ話の存在がいきなり私に頭を下げる。
どんなイベントだよ。
「……それは一体どういった意味での謝罪でしょうか?」
心の中でツッコミながらも私は努めて平静であろうとする。
これは『アリス』として生きた経験だ。
前世の私なら、ここで腹を抱えて笑ってる。
「それは順を追って話そう。ルシファー」
「はっ!」
ここで私をここまで連れて来た人が出てきた。
「単刀直入に申しますと、アリス殿には精霊王女様の治療を行って頂きたいのです。」
「へ?」
予想外の展開に私はつい素が出た。
つまり、理由を話せばこうだ。
精霊界に出現した魔物との戦いにより、精霊王の娘である精霊王女エルフィーが大怪我を負ってしまった。
何とか治療しようとしたものの、最上級精霊を遥かに凌ぐ力を持つ僧正級精霊や、精霊王の妻である精霊王妃の力でも治療出来なかった。
故に最後の賭けとして精霊国建国の英雄である四家の中でも治療魔法を得意としたウインターローズ家の当主を探していたのだが、
ご存知の通り我が師匠は隠遁していたため見つけられない。
そんな中、ひょんな事から門跡を継いだ私を見つけたので呼んだという事である。
まさに王道ストーリー
理事長も実力を試す試験とはいえ、よくこんなシナリオを即興で練れたね!
というか私の得意分野知ってたんだ!
「で、王女様はどちらに?」
まあ、シミュレーションシステムの中であるとしても救えるかも知れない命を見捨てるのは私の信条に反する。
あと、これも試験の一つだろうし。
「それについてはルシファーが案内する。」
「アリス殿、こちらに」
あ、やっぱり転移魔法なのね?
さっき転移して思ったんだけど転移魔法は自分で使わないと酔って気分が悪くなるんだよね………
私がちょっと青い顔になっていると
「一人の父親として頼みたい、……どうか娘を頼む」
立場上頭を下げられない筈の精霊王が頭を下げたのである。
「任せてください……とは言えませんが最善は尽くします。」
高位の精霊が治療を試みてダメだったのだ。
私の能力がどこまで通用するか
◆◇◆◇◆◇
「これは酷い………」
精霊王女が眠る部屋に入る。
すると天蓋付きのベッドに寝かされている一人の幼女がいた。
左半身は異常がない。
透き通るような美しい金色の髪に、愛らしい容姿。
まさに絵にかいた『お姫様』だ。
十数年すればきっと傾国の美女になれる。
しかし右半身は……
「なにこれ?独眼黒雷龍の毒に千年死霊の呪詛?」
「!……まさかご存知で?」
ノイ某が王女蝕む原因を一発で言い当てた私に驚くが、今は構ってられない。
「よくこれで生きていられたと思う」
それほど迄に酷いのだ。
これで死ななかったのは流石精霊とでも言うべきだろうか?
表面的な二つだけでも十分に酷いのに、精霊としての霊体の奥深くにまで浸透している呪いがあり、外傷も相当だ。
皮膚が焦げたり、骨まで見えていたり相当酷い。
「これはだれでも匙をなげるわ………」
外傷を癒すためには霊体の奥深くまで浸透した最上級の呪いと毒を中和しながら回復魔法をかける必要がある。
「一体何したらこんなことになるのかしら?」
暗殺?
まあ、今は余計な事だ。
「とりあえずは目の前の命を助ける。【魔法神の抱擁】」
魔法は世界を書き変える力、
物理法則に支配されない存在、
故に運命という強大な敵に抗う為の手段。
この娘が向かう先が死という運命ならば、私が必ずねじ曲げる。
そう思いながら私は魔法を行使した。
しかし……
「足りない……」
この娘を蝕む毒と呪いの方が強い。
ならば
「血魔法、」
私はナイフを取り出して、自分の腕を傷つけた。
血液が白い腕から迸る。
「【霊薬精製】」
血清部分を分離・精製して霊薬を作成する。
そして、
「展開【魔法神の微笑み】」
今度は
「よし!いける。」
効果は覿面だった。
右半身を覆っていた禍々しい気配が消えてゆき、治療魔法が傷を癒してゆく
しかし……
(!?思ったより魔力の消費が!)
呪いと毒の中和が上手くいきそうなので、今度は傷付いた霊体の修復を行おうとしたが、凄まじい勢いで魔力が吸われてゆく。
(精霊王女は伊達じゃない、ってことかな?)
「あと少し………」
残った魔力を全て振り絞り
「おわ……った……」
治療が完了したところで
私の意識は途切れた。




