プロローグ
現実恋愛二作目ですね。
一応、恋愛物です。
どうぞ。
俺のクラスには、誰よりも秀でたといっても不遜ではない美少女がいる。美においては和洋折衷、和風美人的かと問われても別観点でも、如何なる視点であっても美しいと称される。
その歳でありながら、既に完成された美貌を持つ少女。
はっきり言って、奴の放つ雰囲気の所為で俺のクラスは異界と化している。
特に、男は殺気立つ。
理由は簡単だ――迂闊に彼女に近付く男子がいるならば、即刻裏庭に呼び出して手厚い歓迎をしてやると、普段ならば気弱な生徒でさえも獰猛になる。
そして、女子生徒はそんな彼女を疎ましく思う。
当然だろう、俺だって横に絶世の美男子がいたら少しは妬ましく思ってしまう。
クラスメイトがそんな感じなので、異常が常態化してしまうという謎の現象が発生している。何だか時々、俺が非常識なのかとさえ錯覚するほど。
……錯覚であってほしい。
そう――すべての元凶はヤツなのだ。
ヤツに惑わされたみんなが悪い訳じゃない。
そんな異界の主――綾辻真子は、今日は顔色が優れない。
四方八方から案じる声。
このクラスで唯一女子でも気の知れた――これもまた美少女――同級生が問うと、気丈に大丈夫だと言う。
はてさて、何がそんなにも彼女を苦しめるのか。
その日、ずっと彼女は苦しそうだった。
教員すら、その何かに懊悩する姿を目端に捉えては、保健室への誘導をクラスに促す。だが、そんな畏れ多いことに実行へと踏み込む勇者はいない。
柔らかく断った彼女によって、幾度も平和が保たれた。
そして放課後。
中途半端だった本を読破せんと意気込む俺しかいない教室。
そこへ、綾辻真子は入って来た。
窓際にある、俺の前の席へと腰掛ける。
そして自然体で、こちらの机に体を向けて頬杖を突くのだ。
「聞いてくれるかな、磯谷くん」
「嫌だ」
断固として拒否する。
だが、そんな言葉すら彼女の耳には届かない。
「実はね、朝からずっと悩んでいたんだ」
「やめろ」
やめろ、やめてくれ。
あの悩ましげな表情から、大体のことが察せられる。
年頃の少女が、あんなに苦しむ悩みなんて予想が付く。
だから――。
「隣の子とパンツの色が同じだったんだ」
「やめろォォォオッ!!!!」
そんな下らない話を、聞かせないで。
次回に続きます。