7.ランチタイム
今日の昼食は魚料理を選んだ。
入学してからは特にあっさりした物を食べたくなるのだけど、その理由には心当たりがある。
今日の原因は、目の前の…
「おい、ピンク!席取っといてやったぞ!」
学食の机を叩いてアピールする不良生徒に懐かれた事による心労だ。
周りの視線が痛い。こんな気持ちでジューシーな肉汁など受け入れられない。
無視して隅っこの目立たない席に行こうとする私のトレーを取り上げ、自分の席の前に置く不良生徒…名前はグレンというらしい。数日前からこうして絡んでくる様になってしまった。
「ピンク、こっち座れよ」
「……ピンクって、呼ばないでください」
「お前が名前を言わねぇからだろ」
「………」
王子には泣く泣く名乗る羽目になったけれど、今度こそ名前を死守したい。
不良生徒と仲が良いなどという噂が流れてしまっているので、あくまで名前も知らない他人なのだと強調したいのだ。
教えろよ、と見てくる赤茶色の目を無視して椅子に座る。
「お前いつもクッキー持ち歩いてんの?」
「……偶然です」
「初めて食ったけど美味いなアレ」
「…まぁ…そうですね…」
お気に入りのクッキーが褒められ思わず頬がピクリと緩む。それに気づいたのか、グレンが少しだけ身を乗り出してきた。
「家で料理人が作るクッキーとはまた違うよな」
「…町で買える物ですから…」
「少し硬めでザックリした食感で、あれはあれで好きだな」
グレンの感想に私も同感だと、お皿に向けていた顔を上げる。
クッキーの形を表す様にグレンが指をくるくると回していた。
「ちょっと甘いんだけど、なんか懐かしくて…」
「そ、…そうですね」
なかなか話が分かるじゃないか。
不良生徒と仲良くしている様に見えて欲しくないのに、好物のクッキーの話題につい口元が緩くなる。
誤魔化す様に魚を口に運ぶとグレンは面白そうに笑っていた。
「お前、無愛想だけどわかりやすいな」
「……何の事やら…」
わかりません、と言おうとしてグレンの後ろに立っている人物を目にして固まる。
その様子にグレンも振り返り、不思議そうな声を出した。
「…あんた確か副会長か。何か用か?」
「…私が用事があるのは彼女の方だ」
グレンの方をチラと彼を一瞥した後、副会長は私の横に立った。
とてもじゃないが顔が上げられない。
「食事中に失礼。これから少し時間を貰えるか?」
前にすっぽかした事を怒っているのか、冷ややかな声には有無を言わさない迫力が有る。
正直行きたくない。しかしここで行く行かないと押し問答するより、さっさと動いた方が目立たないだろう。
そう考えてフォークを置くと、意外な所から助け船が出された。
「嫌がってるじゃねぇか。止めてやれよ」
「グレン…」
先程よりも低い声のグレンに、副会長がピクリと眉をひそめる。
「少し話をするだけだ」
「嫌がる人間を無理やり連れてかなきゃ出来ねぇ話なのかよ」
まさかグレンから庇われるとは思わなかった。
少し注目が集まってきているので、このまま副会長が納得して帰ってくれるのが一番有り難いのだけど…。
「今連れ出されたら飯食えねぇだろ!そんな事もわかんねーのかよ」
何の心配をしているんだ。グレンが変な事を叫ぶので、より目立ってしまっている。
対する副会長も少し瞠目して…
「…そうか。…焦ったあまり思慮の浅い行動だった。すまない」
それで納得するのか。昼食が取れなくなるから嫌がっていた訳ではないのだけれど。
彼は謝罪をして私の隣の席に腰を下ろした。
「………なぜ、隣に…???」
「ここならば良いだろう」
全く良くない。
「それなら良いぜ」
第三者が返事をするな。
「食べながらで良い…話を聞いてくれ」
「おう!」
「……………」
私が嫌がっていた原因が解決したかの様に進めるのは止めて欲しい。