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19.変わった子

ノートに書いた『クリステラ』という文字の下に線を引く。


先週、お茶会の最後にウィル様が呼んだ名前は、ステラ。


確かにクリスよりはステラと呼ばれたいと思っていたけれど、それを彼の前で口にしただろうか。


ペンを唇に当てて考えてみるけれど覚えが無い。


あぁ、でもルカがステラと呼んでいるのを何処かで聞いたのかもしれない。

第2王子と相談役、2人に接点がある様には思えないけれど、お互い学園内にいるのだからすれ違う事くらい有るか。


そう納得してノートを閉じ、その表紙に映る木漏れ日に顔を上げた。窓の外では木々が風に揺らいでいる。入学式を彩っていた花の季節は終わり、今では青々した葉っぱが輝いていた。


そろそろ学力テストの時期だ。それが終われば長期休暇に入るのだけれど、ウィル様との約束があるので手放しでは喜べない。


ウィル様とデート…いや、お出掛けか。冗談であればどれだけ良かっただろうか。


あれ以来、彼が露骨に私に話し掛けてくる事は無くなり、会えば意味有りげに笑顔を向けてくるようになった。

エリーゼ様の何か言いたそうな表情は気になるものの、前より目立たなくなったのは有り難い。


とは言えお出掛けは憂鬱だ…


「……あなたがクリステラ様?」

「えっ…!?」


窓から視線を移すと机の前に女子生徒が居た。

随分と考え込んでいた様だ。声を掛けられるまで近くに人がいる事に気付かなかった。


「え、えぇ。…そうです」

「やっぱり!私はユーナです。よろしくお願いします」


そう言って挨拶するユーナ様。

そばかすが実に可愛らしいが、顔の左右で揺れる橙色の髪の三つ編みと、眉上の長さでカットされた前髪が相まって令嬢とは表現し難い雰囲気を醸し出していた。


「えっと…」

「ルカ先生の紹介で来ました」


ルカの紹介。そうだ、今日はルカに言われた待ち合わせ場所で待っていたのだった。


例の『変わった子』との初対面。手伝ってもらうのだからしっかりしなくては。


背筋を伸ばして挨拶をすると、度の強そうな眼鏡の奥で緑色の目がニンマリと笑った。


「何か面白い話を聞かせてくれるみたいですね!」


…確かに変わった方だ。




待ち合わせに指定された場所は学食だった。と言っても放課後に食事の利用者はほぼいないので、勉強に使ったり軽くお喋りするような多目的な場として利用されている。


話す内容が内容だけに人の多いカフェではなくて良かった。


「えっと…ユーナ様に…」

「様だなんて、ユーナで良いですよ」

「…ユーナ、さん?」

「はい!…あの、私、敬語苦手なんで変な言葉遣いになるかもしれないんですが、どうか気にしないで下さいね」

「…あの…敬語じゃなくても、慣れてる口調で構わないので」

「そうですか?良かった!」


凄い勢いだ。その勢いに押され、握った拳から力を抜く事が出来ない私は人見知りを発揮していた。


しかし固まっている場合では無い。折角ルカがくれたチャンスだ。


「あの…ユーナさんに協力して頂きたいのは…、その…本を…本を探してて……その…」

「本を探してるんだよね?ざっくりとルカ先生に聞いたよ」


自分で説明しなさいと言っていたが、先に話をしておいてくれたようだ。その事に少しだけホッとする。


「でも情報が少なくて特定出来ないから、もっと詳しく教えて欲しいの」

「は、はい」


私が頷くとユーナさんが鞄からノートとペンを取り出す。開いたページには既に『クリステラ』『学園』という文字と共に本のタイトルがいくつか記入されていた。


「覚えてる範囲で具体的に教えてね」

「ええと……」



私の記憶の中で彼女(クリス)は花の様に微笑む。

紅茶に映る無愛想な表情の自分の顔を横目で見ながら、私は話し始めた。

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