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17.勘違いと告白

重ねられた手から王子の体温が伝わる。

これを振りほどいてはいけないという事はさすがの私にも分かった。


「君の事をもっとよく教えてほしい」

「あの…王…ウィリアム様……」

「ウィルと呼んで。スイートストロベリー」


ならば私もまともに(クリステラと)呼んで欲しい。真剣なのか笑わせようとしているのか、どっちなんだこの王子は。


「…これからも今日の様に僕の誘いを受けてくれるかい?」


誘惑でもするような甘い笑顔は思わず見とれてしまいそうになる。しかしその場の勢いで軽く頷いていい質問ではない。

なんとか穏便に断ることは出来ないだろうか、ときめきとは違う意味で心拍数が上昇してしまっている。


「……あの……私、は…」

「……スイートストロベリー?」

「…っ」


吹き出してしまいそうになり思わず顔を背ける。

その姿を見て何か勘違いしたのか、重ねられた手に力がこめられた。


「……誰かに、何か言われたのかい?」

「…え?」


パッと顔を上げると神妙な面持ちの王子。

言われたには言われたが王子が心配する様な事ではない。違うと言おうとしたけれど、その前に王子が口を開いた。


「僕と仲良くするなと言われたのかな?」

「ち、違います…!」

「庇わなくて良いんだよ」


クリステラは優しいね、と少しだけ低い声で王子は言う。


「…婚約者を探す王子なんて、令嬢にとって絶好の獲物だろう。

他者を蹴落とそうとする人間が出てくるのも覚悟はしていた」


確かにそんな狩人のような令嬢はどこかにいるのかもしれない。しかし幸か不幸か私の前にそんな人間は現れていないのだ。

否定しなくてはいけないのに、僅かに不穏な空気をまとう王子に圧倒されて上手く言葉が出てこなかった。


「い、いえ…私は…っ」

「…君が僕を避けていたのもそのせい?」

「それは…っ」


王子の海のような深い青の目がこちらを捕らえる。圧倒されて思わず見つめ返す事しか出来ない。


―――彼の目はこんなに冷たい印象をしていただろうか。


そんな私の姿を見て王子がフッと笑い、固まる私の髪からリボンをほどいた。

サラリと流れる髪を王子が優しい手つきで撫でる。


「誰が君を縛り付けてるんだい?」

「そ、そんな人…いません…」


笑顔なのに目が笑っていない。何この人、恐い。

否定はしたけれど思わず視線を下に向けてしまった。しまった、これでは勘違いされかねない。


「……まさか、エリーゼかい?」

「…え…?」


思ってもみなかった名前が出て、頭の中が一瞬固まる。その様子を見て王子は「やはりか」と言わんばかりに小さく溜息をついた。

いけない。このままではエリーゼ様が誤解されてしまう。


「ち…ッ!…違いますッ!!」

「!」


焦ったあまり想像以上に大きな声になってしまった。張り詰めていた空気が一瞬で緩み、目をパチクリさせる王子を前に少しだけ恥ずかしさがこみ上げる。


いや、恥ずかしがっている場合か。

王子を避けていたのは私の意思だ。他の方のせいにしてはいけない。


私の勢いに完全に王子が退いているけれどこのまま言ってしまえ。


「クリステ…」

「ぶ、無礼を承知で申し上げます!」

「……う、うん…」


入学してからの自分の行動は酷い物だと思う。どう見ても王族への態度ではないと重々承知している。

しかしそれを第三者のせいにする気はない。


ましてやエリーゼ様のせいだなんて、勘違い甚だしい。


「ウィリアム様を避けていたのは、全て私の意思です」

「……どうして…」


驚いた様な声に、王子の瞳を真っ直ぐ見つめ返す。


「私が、貴方と関わりたく無いからです…!!」



普段なら(ども)ったり詰まったりするのに、何故こんな時ばかりスラスラと言葉が出てくるのだろう。

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