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13.ライバル令嬢とおはなし

放課後のカフェで美人な令嬢とお茶をする。

一見すると、とても優雅なワンシーンだ。…呼び出されたという状況で無ければ、だけど。


「ウィル様の事で、お話があります」


王子に極力関わらない様に過ごしていた筈なのに何を言われるのだろう。

先程のクリスの映像が頭の中でグルグルと回っていた。


「……先日、貴女がウィル様のお誘いを断るところを見ました」

「……っ」


どれを見られたのだろうか。適当な口実で去った時か、走って逃げた時か、まさか窓から飛び出した時の事か。


淑女としてありえない行動ばかりで、何か言われるかと身構えたが特に言及はされなかった。


ティーカップから昇る湯気を見つめながら、エリーゼ様は暗い表情をしている。


「ウィル様は…貴女がお気に入りの様ね…」


聞かせたい訳では無かったのだろう、独り言を呟く様な言葉。本人が思ったよりも大きな声で出てしまったのか、エリーゼ様は慌てた様に手で口を押えた。

失礼、と言って姿勢を正し話を続ける。


「……私はウィル様と幼少より親しくさせて頂いておりました」


牽制とは違う静かな声色に、ゆっくりと視線を合わせた。


「一時は私を婚約者にとの話もありましたが、…現在ウィル様に婚約者はおりません」


少し伏せられたまつ毛が寂しそうに影を落とす。部外者が気にすべきでは無いのだろうけど、何か有ったのだろうか。あぁ、でも王子の事なのでさほど興味が湧かない…。


少しして再び空色の瞳がこちらに向けられた時には、先ほどまでの寂しさは影を潜めていた。


「ウィル様がご在学中に婚約者をお探しになる事はご存知かしら?」

「…はい」

「…私はウィル様の近くに居る事も多く、幼馴染という立場から誤解されているかも知れませんが婚約者でも候補でもございません」


クリスへと告げられた言葉が音となりエリーゼ様の言葉と重なる。


「なので…」


『ウィル様に馴れ馴れしく接するのは無礼ですわ』

「私や周りの方に気を使って、ウィル様を避けて頂かなくて結構ですわ」


『ウィル様は貴女の物では御座いません』

「ウィル様はどなたの物でも御座いませんので」


「…………」


全く正反対の事を言われ、一瞬理解が出来なかった。口を半開きで呆ける私にエリーゼ様が続ける。


「まだ候補もお決めになっていない今、女子生徒全員が平等ですわ。アピールするもお誘いを受けるも、常識の範囲内でしたらお好きになさってくださいませ」


そう言い切るエリーゼ様は凛としていた。

言うべき事を言ってすっきりしたのか、先程の憂いも無く輝いている様にも見えた。


「は………はい…」


対する私は抜けた様に返事をする事しか出来ない。


「今日はそれが言いたかっただけですの」


そう言ってから恥ずかしくなったのかエリーゼ様はコホンと咳をしながら立ち上がった。


「どうぞ、今後はご自身の気持ちに素直に行動して下さい」

「……そう、…ですね…」


エリーゼ様は私が遠慮して身を退いているのだと心配してくれたのだろうか。恋敵になりえる人間を励ますなんて、随分と真っ直ぐな方のようだ。


…もっとも私はエリーゼ様や周りの令嬢に気後れしていた訳ではなく、ただ王子と関わりたく無い一心で避けていただけなのだけど。

熱く語って頂いて何だかとても申し訳ない。


そんな気持ちをモヤモヤと抱えたまま2人でカフェを出る。と、


「……おや?珍しい組み合わせだね」


驚いた表情の王子と遭遇してしまった。このタイミングの悪さよ。


「ご機嫌よう、ウィル様。クリステラ様と少しお話をしておりましたの」

「…ご機嫌よう…」


エリーゼ様がチラリとこちらに視線を向ける。

その気持ちを知ってか知らずか、王子はいつもの様に声を掛けてきた。


「それは楽しそうだね。そうだ、これから3人でサロンでお茶をしないかい?」

「折角ですが…私は今日は遠慮しておきます。どうぞお2人で」


エリーゼ様、綺麗な笑顔で語尾を強めないでください。圧がすごいです。


「そうかい?それじゃクリステラと2人で…」

「…申し訳ありませんが、私も遠慮させていただきます」

「…!?」


視界の端に映るエリーゼ様の笑顔が引きつった気がした。


しかし仕方ないのだ。


「…既にお腹がいっぱいで、これ以上は飲めそうにないので」

「「……」」


私は王子に関わる気が毛頭無い。

これが私の素直な気持ちなのだから。

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