11.図書室で探し物
私を取り巻く環境に非常に良く似ているクリスの物語。しかし断片的な内容しか思い出せずどうにもむず痒い。
本か、歌劇か、何の媒体だったのか。本であるならここの図書室にあるだろうか。
幸い王立学園の図書室には膨大な量の本が所蔵されている。探してみる価値はあるだろう。
…そう思い意気揚々と図書室へとやってきたのだけど、現在私は本棚を前に立ち尽くすしかなかった。
ここへ来て早々に感じた事だけど、本の量が想像以上に多い…!多すぎる…!
「……これも違う…」
分厚い本をパタンと閉じて元の場所に戻す。先程からこれの繰り返しだ。
"クリステラ"という名前の主人公を手がかりに何冊か選び出したのだが、これがなかなか多い。
短編集の物語なのだとしたら、より探すのが困難になってしまう。
何冊目かの本を手に取り小さく溜息を吐く。ここへ来て30分程だが既に後悔し始めていた。
持ちあわせている情報が少なく、本から探すのは難しい…。
かといって人に聞くとなると説明が必須になってくる。私にそんな説明が出来るだろうか。
となると何処から情報を集めれば良いのだろうか。
もういっそ諦めてしまおうか…。
そんな事を考えながら、しかめ面で持っていた本をパラパラめくっていると、不意に本棚の陰から人が飛び出して来た。
「えっ…!?」
「え、君は!」
―――
キィと扉が開き、先程まで静かだった図書室に数人の女性の囁き声が聞こえる。
「あら、いらっしゃらないわ…」
「ここではないのかしら」
「どちらに行かれたのかしら…」
ぐるっと室内を見回してお目当ての人を発見出来なかった様子の令嬢方。
「まぁ…私こちらには初めて来ましたけど、広いのですわね」
「意外と利用者がいらっしゃるのね…あら、あの方…」
1人の令嬢が見つめる先にはスイートストロベリーの異名を持つ生徒――つまり私が、広い机に数冊の本を置き、その内の1冊を広げて読んでいた。
「あの方やはり…」
「えぇ…」
やっぱり何ですか。その辺りはハッキリと教えて貰いたいけれど、私の願い虚しく令嬢方はそのまま静かに出て行ってしまった。
それを横目で見届け、完全に足音が聞こえなくなってから独り言の様に告げた。
「……行きましたよ」
私の言葉を聞き、机の下からそっと出てくる人物…王子だ。
仮にも淑女が使っている机の下に潜り込むのは如何なものかと思うが、面倒なので触れない事にした。
「ありがとう、助かったよ」
そう小声で言って私の前の席に座る王子。
本棚の陰から飛び出してきて、匿ってくれと頼まれた時は何事かと思ったけれど、先程の令嬢方から逃げていたようだ。
納得はしたが、何故その席に座るのか。
じっと見られて気まずいので、持っていた本に視線を落とし、顔を見ないようにする。
「……」
「……」
「……何も聞かないの?」
聞いても良いのだろうか。何故あなたは目の前で寛いでるのか、と。
「…ほら、いきなり匿ってくれなんて言ったから」
あぁ、そっちですか。
逃げていた理由を聞きたいかと言われたら別に…。
『何も聞かないの?』
「……?」
またしても不思議な感覚に包まれる。
靄が晴れるように、一気に頭の中に広がる景色、これは図書室だ。
今居る場所を別の角度から見ていた。
『聞かないわ。だって、困ってたんでしょう?』
学食の時と違い、今度はクリスと王子が向かい合って話をしている。
『私は目の前に困ってる人が居たから手を貸しただけよ。理由なんて気にしないわ』
『………』
『それに、ウィルは聞かれたく無いって顔してるし』
そう冗談っぽく言うクリスは、やはり私には出来ない可愛らしい笑顔で…。
「…クリステラ?」
王子に声を掛けられて意識を戻す。
集中し過ぎていた様だ。
王子の質問に無言を貫いているのも不味いので急いで返事を返した。
「興味ありませんので」
しまった、本音が出た。