1-2 ライバル登場!?
本日もナタクはサボるために寝場所を探していた。
「今日はどこにすっかなぁ。校舎内にすると、またネッケの野郎に捕まりそうだしなぁ」
両手をポケットに入れながら、校舎周りに生えている木々を見渡しながらうろつく。
「見つけましたわ!」
「げっ!」
後ろから声が聞こえて振り返ると、フェオラがナタクを指差して仁王立ちしていた。
それに顔を顰めて逃げ出そうとするナタク。
すると突如、目の前に氷の柱が現れて進路を塞いだ。
「うぉ!?さむ!」
「逃がしませんわよ!」
ナタクが驚いている隙にフェオラが走って来て、ナタクの腕を抱え込む。流石にこうなるとナタクも振り解くことはしない。
「さぁ!教室に向かいますわよ!」
「なぁ、この先にさぁ、花や景色が綺麗な所あるんだけど行かねぇか?」
「え♪」
どう考えても逃げるための言い訳だったが、フェオラはそれに嬉しそうな声を上げる。
「この時間がな、一番風も気持ちよくてすげぇぞ?誰もいねぇし」
「し、仕方ありませんわね!あ、あ、案内してくださいまし!」
「……ちょろ~い。ナタク君心配しちゃう」
ナタクのさらなる言葉に、顔を赤くしながらも目を輝かせて腕を引っ張り始めるフェオラにナタクがボソッと呟く。
まさかここまで簡単に乗ってくるとは思わなかったナタクである。
そして腕を抱えたまま歩くフェオラだが、流石に途中で騙されたのではないかと考え始めた。
ナタクはお構いなしにと林の中を歩い続ける。
林を進むと先が少し明るくなり、そして林を抜けると、
「わぁ……うわぁ……!」
フェオラはその景色を見て、感嘆の声を上げる。
そこはナタクが言ったとおりの場所だった。
林の中にぽっかりと現れる色鮮やかな花畑。その先は下り坂になっており、山や川に空が吹き抜けて見えている。
「な?いいとこだろ?」
「はい!はい!!素晴らしいですわ!」
「ここでな、寝転がるといい匂いがして、風が気持ちいいんだよ。今の所、ここで人に会ったこともねぇ。まぁ、道なんてないしな」
ナタクは言いながら花畑の近くで横になる。フェオラもナタクの横に座り、景色を眺める。目を瞑って風と花の香りを感じる。
「ここは素晴らしいですわね」
「だろ?こんな景色がこの学園にあるなんてなぁ」
2人はしばらく話さずにのんびりする。
しばらくすると揃って寝息を立て始める2人。
ゴーン!ゴーン!
「……ふぇ?あっ!ああ!?」
「んあ?」
「ナタク起きてくださいまし!」
「ん~……」
「鐘が鳴りましたわ!午前の講義が終わったのですわ!」
「おぉ?ってことは昼飯かぁ」
「あぁ……サボってしまいましたわぁ」
「じゃあ、ここに来たのは悪い事だったか?」
落ち込むフェオラだったが、ナタクの言葉に再度景色を見る。
「……いえ。悪くはないですわ」
「だろ?ルールを守るだけが絶対じゃねぇよ。こういう風情だって大事だろ」
「ですわね」
2人は笑って歩き始める。
林を抜けて、校舎に向かう。
「見つけたぞ!ナタク!」
現れたのは金髪ショートストレートの男。制服を着ているので学生であることが分かる。
「なんだよ?レオンヴァルト」
アレン・レオンヴァルト。同じ1組で正義感が強い人気者である。
ナタクとは真逆の男である。もちろん、仲が良いわけがない。
アレンの後ろには2人の男女がいる。その2人もナタクを睨む。
「いつも授業をサボってばかり!いい加減にしないか!それにフェオラさんまで巻き込んで!」
「レオンヴァルトさん。私はあなたに名前呼びを許した覚えはありませんわ」
アレンはナタクに怒鳴るが、フェオラは名前で呼ばれたことに苦言を言う。
それにアレンは出鼻を挫かれた。
「い、今はそんなことを!」
「私にとっては『そんなこと』で済ませられる問題ではありませんわ。訂正を願います」
「ぐっ!……申し訳ない。ローレンハイムさん」
アレンは顔を顰めて、謝罪を口にする。しかし頭は下げなかった。
「……はぁ。まぁ、いいでしょう」
フェオラはため息を吐き、謝罪を受け入れることにした。
それをナタクはあくびをして待っていた。
アレンはナタクを再び睨む。
「ナタク!お前の身勝手な行動に皆迷惑してるんだぞ!」
「は?具体的に誰が?どんな風に?」
「だから皆だ!お前が授業に出ないから教師達がピリピリして授業に集中できないんだぞ!」
「俺、関係なくね?ただお前達の集中力無いだけじゃん。っていうか本当か?フェオラ」
「ほぼ関係ありませんわね。教師達がピリピリしているのは本当ですが、それはナタクがサボっているからではなく、サボっているナタクに筆記試験で負けている者達に対してですわ」
フェオラがアレンの言葉を否定する。ちなみにフェオラは筆記試験は2位。
「フェオ……ローレンハイムさんだって!今日は授業をサボったんだぞ!」
「迷惑だったか?」
「う~ん。今日の授業は全部頭に入っていましたから、問題はありませんわね」
「だ、そうだ」
「ぬ……ぐ……!」
アレンは歯軋りをして睨みつける。ちなみにアレンは前回の筆記試験は10位だった。
「お前の行動はこの学園にふさわしくないんだ!!お前のせいで皆の努力が馬鹿にされているのに等しいんだ!」
アレンの言葉に流石にフェオラも顔を怒りに染めて怒鳴ろうとするが、ナタクに肩を掴まれて止められる。
「ナタク?」
「変なことを言うなぁ?俺がいつ校則違反したんだ?」
「は?」
「知らねぇのか?ここの校則には『受講の有無は生徒の判断に委ねられる』ってなってんだよ」
ナタクの言葉にアレンはもちろんフェオラも目を見開く。
「この学校の謳い文句は『自分で未来をつかみ取る』だぜ?結果に自分で責任が持てるなら、犯罪でない限り自由を認められてるんだよ」
ナタクは胸ポケットから生徒手帳を取り出して、ピラピラと振る。
それにフェオラは自分の生徒手帳を取り出して確認する。そして見つけたようで、目を見開いてる。
「それを教師も忘れてやがる。なんで出席率が留年に関係ないか考えたことねぇのか?俺達は騎士団にも冒険者にもなる。自己判断と自己研鑽が出来るようにって考えられてるんだよ」
もはやナタクの言葉にアレンは何の言えない。
「それに俺のせいで努力が馬鹿にされている?笑う気にもならねぇ。単にてめぇらの努力が、俺の才能と努力に届いてねぇだけだろうが。自分達の怠慢を人のせいにすんじゃねぇよ」
「「「な!?」」」
ナタクの言葉にアレンと後ろにいた2人が声を上げる。フェオラはナタクの言葉に頷いている。
「全員が同じ努力しても差が出来ることは当たり前だろうが。試験でよく分かってんだろ?負けたことを人のせいにしてんじゃねぇよ。負けたならそれは『自分の努力が足りなくて、相手の努力の方が多かった』ってことだろうが」
ナタクは気だるげに話し続ける。
その言葉をアレン達やフェオラだけでなく、近くにいた生徒達も聞いていた。
「何より、お前は命を掛ける【英雄科】に行く気なんだろ?分かってんのか?【英雄科】で勝ちあがるってことは『周りの努力を踏みにじりながら、敵の努力と命を殺して、英雄になる』ことを目指すって言ってんだぞ?」
『!!!』
ナタクの言葉に場が凍り付く。
「まぁ、これは俺の考えだ。だから絶対ってわけじゃねぇ。でも、そう考える俺がいる以上他にもそう考える奴は絶対にいる」
頭の後ろをボリボリと掻きながら、ナタクは断言する。
「さて、もう一度聞くぞ?俺は、誰に、迷惑を掛けた?」
ナタクは両手をポケットに入れて、気だるげに猫背になり、されど鋭い目つきでアレンを睨む。
それにアレンは気圧されてしまった。
「……ぐ……あ……」
「……もういいですわね。行きましょう。ナタク。お昼が終わりますわ」
「あ?げぇ……後20分じゃねぇか。全く……迷惑なことだぜ」
「もう!やめときなさい!」
時計を確認して顔を顰めながら愚痴るナタク。それをフェオラは注意して歩き出す。
2人の歩き去る背中を見送り、アレンは歯軋りをして両手を強く握り締めた。
「もう!あんまり敵を作るのは感心しませんわよ?」
「あの程度で敵になるかよ。ふあ~……ねむ」
「……はぁ~。相手が悪かったですわねぇ。レオンヴァルトさん」
フェオラの言葉を流してあくびするナタク。
それを見てフェオラはため息を吐き、少しだけアレンを憐れんだ。
食事を始めた時にはフェオラももう忘れていたが。
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〇アレン・レオンヴァルト
身長175cmのイケメン。
サラサラの金髪ショートストレートで、普段は優しい顔で王子様と言われて女性に大人気。
正義感が強く、人から助けを求められるとほっとけない。
服装はナタクと同じ。くたびれてはいないが。
信条は『困ってる人を見捨てない』