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英雄ってそんなに憧れるものかねぇ?  作者: 岡の夢
2章 英雄を嫌う理由
13/14

2-3 乱闘

 あれから3日後。

 決闘に日時と場所が連絡された。


「明後日10時。闘技場ですわね。ナタクの言葉通り、観客は無し」

「あたりめぇだろ?じゃなかったら断る」

「だろうな」


 特に緊張することなく、また屋上で過ごす3人。

 あれだけ退学やらなんやらを口にすれば、ナタクの要望通りにするだろう。


「失礼致す」


 そこに声を掛ける者が現れる。

 ナタク達は気配に気づいていたので、特に驚くことはなかった。またかよ、とは思っていたが。

 

 現れたのは黒髪をサムライヘア風に纏めた切れ長の目をした男。

 先日学園長室にいた男だ。


「突然の訪問を謝罪致す」

「そう思うなら来るなよ」

「先日の学園長室では名乗りも出来ず仕舞い。決闘当日に名乗るのも礼に失すると思い、参上させてもらった」

「律儀な方ではありますわね」

「手短に済ます。我の名はマサツネ・ベルフォルド・カミキ。【ワノ島国】出身で現在は【トライデア海国】に籍を置いている。3年1組だ」


 【ワノ諸島】は海を渡った極東にあるとされる島国だ。

 【トライデア海国】はクエベラ王国の東にある海に接した大国で、海洋産業が盛んである。大陸一の港街を抱える国である。


「あんたもスカウト?」

「否。我は純粋に修業としてこの学園に来た。確かにトライデアにいる親族からは、貴殿のことは言われているが我には関係ないことだ。我はただ英雄を殺した貴殿と手合わせがしたい。それだけだ」


 ナタクから一切視線を逸らさずに話すマサツネ。眼や口ぶりからは嘘ではないと理解するナタク達。

 

「わざわざこんな学園に修業とは物好きだな」

「うむ。正直なところ失望している。結局は実習先が多く、就職先が多いだけだった。純粋な強者はいない。少し前まではな」

「英雄を殺したナタクを見つけたと」

「その通りだ。実習は適当にサボっていてな。英雄と貴殿の戦いを見ることが出来なかった」

「なんで今までナタクに声を掛けなかったのだ?」

「決闘に興味はないと聞いている。我は無理矢理戦わせる趣味はない。しかし、今回他の者達が学園長に訴えると耳にしたのでな。せっかくだからと参加させて頂いた」


 他の連中と比べると物凄くまともに感じてしまうナタク達。それでも戦うことには変わらないのだが。

 マサツネは苦笑する。


「今回の決闘では貴殿とも戦いたいが、もちろん他の者にも挑むつもりだ。誰かに拘るつもりはない」

「さよで」

「では、失礼致す」


 マサツネは小さく会釈をして、去っていく。

 その姿を見送ったフェオラ達はパチクリと瞬きをする。


「あのような方があの中にいたのですねぇ」

「本当にな」

「結局戦うからどうでもいいけどな」


 ナタクは再び横になる。

 それにフェオラ達は苦笑して、談笑を始める。

 3人の空気は決闘が近づいているとは思わせないほど緩やかだった。




 3日後。

 ナタク達は闘技場に向かっていた。

 

「相変わらず制服ですのね」

「いちいち着替える方がめんどくせぇよ」

「まぁ、それも確かにだな」


 フェオラは実習時と同じ服装。

 クエンタは長袖の青いチャイナドレスに薄水色のパラッツォパンツに黒のカンフーシューズを履いている。

 もちろんナタクは制服だ。


 闘技場内に入ると、他の面々は全員すでに到着していた。

 ブレア、アレン、スカーミャは実習時と同じ服装。アレンは剣を、スカーミャはナイフを用意している。

 バラムは素肌の上にベストを羽織り、茶色のズボンを履いている。両手には手甲のようなものを身に着けている。

 エルトリンデは黄色の騎士服を思わせる服装で腰にはレイピアを携えている。

 マサツネは紺色の和服に黒の袴姿だった。腰には刀を差している。


「揃ったかのぅ」


 学園長が観客席に現れる。


「さて、決闘のルールは大まかには知っとるかの。ただ、今回は少し特殊なものを用意した」

「特殊?」

「特殊な魔法をかけておるでな。致命傷でなければ、戦闘不能後に即座に回復するのじゃ。なので、真剣の使用も許可する」

「なるほど」

「戦闘不能の判断は儂がするのでな」


 学園長の言葉に全員が頷く。


「さて、始める前に……この決闘勝った際に何を望むかを聞いておこうかの」

「はぁ?」

「まずはフォーマルハウル君からじゃ」

「……私が勝ったらナタク・ユーバッハ、貴様には生徒会に入ってもらう」

「……生徒会って決闘の勝敗でメンバー決めれるのか?」

「あまり好ましくはないがの」


 ブレアの言葉にナタクが学園長に突っ込むが、学園長は仕方がない事と認めるようだった。

 次にアレンが声を上げる。


「僕が勝ったら【クエベラ王国】に来てもらう!」

「……勧誘かよ」

「違う!お前にはマリアル様に会ってもらう!」


 アレンは先日【クエベラ王国】を訪問した際にマリアルに会った。息子と思われるナタクが来ないと聞いた時に見せた悲しい表情をアレンは忘れられなかったのだ。

 マリアルからも息子とは10年以上会っていない、行方が分からなかったと聞き、もしナタクが本当に息子なら会わせなければいけないと思っている。


「私が勝ったら、もう一度1対1で戦ってもらう」

「こだわりやがるなぁ」

「当然」


 スカーミャは鋭く目つきでナタクを睨んでいる。


「俺は前に話した。祖国に来てもらう」

「同じくです」


 バラムとエルトリンデだ。

 マサツネは少し考える様子を見せる。


「うむ……我は……特にないな」


 マサツネはこの状況が一番理想だったので、すでに満足している。

 フェオラとクエンタも特に何も言わなかった。


「俺は……そうだなぁ。俺が勝ったら二度と勧誘するな……はつまらんなぁ。……そうだな。先に負けた5人は留年してもらう」

『はぁ……?』

「出来ねぇとは言わさねぇぞ?学園長。俺の将来を決めようとしている奴らを相手にしてるんだ。これ位は通るだろ。全員でもないしな」

「……ふむ。まぁ、一理はあるの。いいじゃろう」

「「「「え!?」」」」


 ナタクの要望に全員が目を見開く。学園長も顔を顰めたが、ナタクの言葉に少し考えた後に頷いた。

 それにアレン達が驚く。


「彼の言い分ももっともじゃしの。嫌ならばユーバッハ君に勝てばよいだけじゃ」


 学園長の言葉に数名は顔を顰めるが、確かにナタクを倒せばいいだけなので納得することにした。

 そして武器を構える一同。

 緊張感が高まってきた。


「それでは……始めぃ!!」


 開始の合図とともにブレア、アレン、スカーミャ、バラム、エルトリンデはナタクに向かって駆け出す。

 ナタクは両手をポケットに突っ込んだまま立っている。

 

 ブレアが魔法を使おうとすると、ブレアに向かって風が巻き上がり刃を成して迫って来た。


「っ!」


 ブレアはギリギリでそれを躱す。しかし、それに続いて炎が襲い掛かる。ブレアは魔法を使って炎を相殺する。


「くっ!……ローエンハイムか」

「お相手願いますわ。ブレア生徒会長様」


 ブレアの前に立ったのはフェオラだった。不敵に微笑みブレアを見据えるフェオラに、ブレアは歯軋りをして睨み返す。

 フェオラは腰から赤、青、茶、緑の紙を右手に挟んでいる。それを見たブレアは油断なく構える。


「……【色彩魔法】……だったか」

「そうですわ。さぁ……この色から何が生まれるでしょうかねぇ?」

「くっ……!」


 

 

 スカーミャの前にも立ちふさがる者がいた。


「……どいて。弱い奴に用はない」

「ほう?手合わせもしていないのに随分と自惚れているな」

「……事実を言っているだけ」

「事実?ナタクやフェオラにも劣っていることに気づかず、お情けの1位にいるだけの者が?」

「……」


 クエンタはスカーミャがナタク達に及ばないとはっきりと口にする。それにスカーミャは普段以上に表情を消して、クエンタを睨む。

 クエンタもスカーミャを見下して、鼻で笑って挑発する。

 それにスカーミャは風を巻き起こして威嚇を始める。


「もう一度言う。どいて」

「断る」

「じゃあ、消えて」

「そなたからな」

「っ!!ぐぅ!?」


 風を飛ばそうとした瞬間、クエンタの姿が消えて、後ろから声がする。スカーミャはすぐさま後ろを振り返るが、さらにその背後から衝撃を受けて吹き飛ばされる。

 スカーミャは受け身を取り、すぐさま起き上がる。視線の先にはクエンタが立っていた。


「どうした?随分と悠長に立っているな?」

「……瞬間移動?……そんなことが……」

「もちろん違う。ところで……」


 フッとクエンタの姿が消える。


「!!」

「そなたが見ているのは本当に私かな?」

「ごぉ!?」


 また後ろから声が聞こえた。今度は振り向く暇もなく、蹴り飛ばされるスカーミャ。地面を数回転がる。今度は風で体を浮かせながら体勢を整え、空中でクエンタに風を飛ばす。

 しかし、風が当たる直前にクエンタの姿が消えて、少し離れた場所にクエンタが現れる。さらに風を飛ばすも、また姿が消えて別の場所に現れる。


「どういう……!?」

「なんだ?筆記1位なのだろう?何故分からん?」

「!!」

「遅い」

「ごっ!!」


 また後ろからクエンタの声が聞こえたスカーミャ。それに振り向こうとした瞬間、腹部に衝撃を感じて吹き飛ぶ。

 今度は地面に背中から叩きつけられて、一瞬呼吸が止まる。


「ごほっ!ごほっ!つぅうあ!!」

「おっと!!」


 スカーミャは咳き込みながら、無理矢理自分の周囲に竜巻を生み出す。それにクエンタは流石に離れざるを得なかった。

 その間に立ち上がり、息を整えるスカーミャ。


(……このままじゃ……ナタクと戦う前に魔力が……!!)


 ギリッ!と歯軋りをするスカーミャ。クエンタの魔法を正体を見破らないと、このままでは体力的にも厳しくなる。必死で頭を回転させるスカーミャ。

 瞬間移動出ないのならば、あの現象を起こせるのは何か。


『そなたが見ているのは本当に私かな?』


 その言葉が頭を過ぎった時、スカーミャはその正体に気づいた。


「いつまで呆けている?」


 クエンタがスカーミャの後ろから殴りかかろうとしたが、スカーミャは振り返らなかった。それどころかそのまま正面に向けて風の刃を飛ばした。

 風の刃の先には、クエンタがいた。クエンタは目を見開く。


「!!」

「【幻影魔法】。それがあなたの魔法。それが分かれば、もう引っかからない」


 風の刃がクエンタに直撃し、クエンタの体を斬り裂いた。クエンタは目を見開いたまま、上半身から血を噴き出して体を後ろに傾ける。


「……やり過ぎた」

「何がだ?」

「っ!?ぶぅお!!?」


 クエンタの倒れていく姿を見て、致命傷に近いことに気づいて顔を顰めるスカーミャ。その時、すぐ横でクエンタの声が響き、目を見開いた瞬間左頬に拳が突き刺さり、受け身も取れずに倒れるスカーミャ。油断していたため全く備えていなかったため、クリーンヒットして意識が朦朧とする。


「ぐぁ…あ……な…んで……?」

「幻であることには気づいたようだがな。気づいたから私の魔法が解けたと思っていたのか?」


 仰向けに倒れて、何が起こったのか分からず混乱しているスカーミャの横にクエンタが近寄る。クエンタを見上げるスカーミャは、クエンタの冷たい視線とぶつかる。


「そなたが私の魔法に気づくなど()()()()()()()()()()()()()だろう。そなたが1位であることは滑稽に思ってはいるが、そなたの知識や観察力が低いなどと侮ったつもりはない」

「……!」

「私がいつ魔法を使ったか気づいたか?本物の私がいつそなたの前に姿を見せたか分かったか?……分からなかっただろう?」

「……っ!」

「確かにそなたは才能もあり魔法も強力だが、奢り過ぎだ。魔法を少し使い辛くするだけで、簡単に手が届くようになる」


 スカーミャの魔法の使い方は単調だった。大きな竜巻を起こすか、風の刃で攻撃するかの2つしかない。それさえ気を付ければ、スカーミャを倒すのにはそう苦労はしないとクエンタはナタクとフェオラの話から判断していた。


「そなたはどうせナタクの事ばかりでフェオラや私のことは調べてなかっただろう?だから私の魔法に惑わされる。私が幻を操ることを知っている者は多いぞ?これだけでも知っておけば、私には負けなかっただろうな」

「……っ!……!?なぁ……」

「……ふむ。そろそろ回ってきたか」


 スカーミャはクエンタに攻撃を仕掛けようとしたが、体が痺れて動かず、魔力も回せず魔法も発動出来なかった。それに目を見開いているとクエンタが顎に手を当てて、声を上げる。

 それにスカーミャは目で問いかける。


「私の魔法はそなた達と違って攻撃性はない。なので、搦手を使わせてもらった。神経毒の一種でな、体と魔力の自由を奪う」

「……ひ……ひょ……!」

「卑怯か?おかしなことを言う。この程度、学園の外では日常茶飯事だぞ?我々は命の奪い合いをするためにここで学んでいるというのに。毒程度で騒いでいたら何も出来んぞ?」


 クエンタの言葉にスカーミャは悔しげに顔を歪める。クエンタは右腕を上げて、拳を握る。


「済まないが終わりだ。学年1位殿」

 

 ズドン!とスカーミャの胸に拳を叩きつける。スカーミャは抵抗出来ずに気絶し、学園長に回収される。クエンタはそれを見届けると、ナタクの方に視線を向ける。


「……ふむ。やはりナタクは問題ないか。ならば生徒会長の方に向かうとしよう」


 クエンタはフェオラの助太刀をするために移動を開始した。

 



 アレンは顔を顰めて目の前の相手を睨んでいた。


「何故僕の前に?あなたの狙いはナタクのはずだ」

「少し違う。我の狙いはナタク・ユーバッハ殿を含める全員だ」

「……っ!」

「我は別に国がどうこうなどどうでもいい。強者と戦い、強くなる。それだけのこと」


 マサツネはアレンに対して腕を組んで立っている。刀も抜かず、隙だらけのように見える。しかし、アレンは斬りかかることが出来なかった。


(嫌な予感がする……!これ以上近づくのはマズイ!)


「ふむ。間合いに気づいてはいるか」


 アレンの様子にマサツネは愉快そうに呟く。

 

「それだけで防げるものではないがな」

「!!」


 攻めてこないアレンに対して、不敵に笑いながら距離を詰めるマサツネ。アレンは剣を構えながら下がろうとするが、その前に刀の柄を握るマサツネ。その次の瞬間、刀を掴む腕がブレる。

 アレンは一瞬剣に衝撃が走ったが、離れることに集中して【光魔法】を発動して、光線が3本放たれる。


「むっ!」


 マサツネは大きく飛び下がり、光線を躱す。アレンは連続で魔法を放とうとするが、アレンの周囲に氷の槍が出現したため、中断して慌てて離れる。

 氷の槍は直前までアレンが立っていた場所に突き刺さる。


「【氷魔法】!」

「如何にも。我の魔法は氷。あまり好みではないが、これもれっきとした我の力。使いこなす努力は怠りはせんし、使うことに戸惑いもせん。魔法と刀の両方を兼ね備えてこそ意味がある」

「だからって負ける気はない!」

「ほう?その折れた剣でまだやるのか?」

「!!」


 マサツネの言葉に握っている剣を見るアレン。アレンの剣は半ばから真っ二つに折れていた。

 

「っ!さっきのは居合か!」

「如何にも」


 マサツネはポンと右手で刀の柄に軽く叩く。

 先ほど腕がブレて、剣に衝撃が走ったのが居合だったのだ。アレンは全く見えなかったことに戦慄する。


「な、なんて速さだ……!」

「我が一番鍛錬を積んだのが居合なのでな。そう簡単に破られては困る」


 ギリ!とアレンは歯軋りをする。

 

「それだけの実力があるのに、なんでナタクではなく僕に……!」

「言っただろう?我の狙いはナタク・ユーバッハだけではない。すでに1人は倒れ、会長に2人、そしてナタク・ユーバッハに2人だ。そうなるとお主しかおるまい?我はあくまで1対1でナタク・ユーバッハと戦いたいのでな。だからその前に体を温めておきたい」

「……僕は……あいつの前座だと……?」

「そう聞こえたのならスマヌ。別にお主に手加減をしているつもりは……ない!」

「!!」


 話ながら、一瞬でアレンの懐に現れるマサツネ。それにアレンは目を見開いて、後ろに下がりながら魔法を使おうとするが、アレンの周囲に氷の壁が出現して逃げ道を塞がれる。

 

「!?しまっ……!」

「しぃ!」

「がああああ!?」


 マサツネの腕がブレて、気づいたらアレンの手足が一瞬で斬られる。


「靭帯を斬った。もはや動けんだろう」


 氷が砕け、仰向けに倒れるアレンにマサツネは腕を組んで見下ろしながら告げる。アレンは顔を顰めて痛みに耐えながら、体を動かそうとするが全く手足が動かなかった。

 それでも動こうとするが、突如視界が変わって気づいたら観客席にアレンはいた。 

 

「……え?」

「残念じゃが、リタイアじゃの」


 アレンはポカンとしているが、学園長に声を掛けられることでハッとする。そして悔し気に顔を顰めて、俯く。


 マサツネはアレンが消えたのを確認すると、他の戦場に目を向ける。


「ふむ。どちらもまだ戦闘中か。まぁ……ナタク・ユーバッハの方は戦闘と言えるのかどうかは怪しいが。しばらくは待つとしよう」


 マサツネが目を向けた先では、ナタクが上級生2人と戦っていた。しかし、どう見ても2人は適当にあしらわれており、結果は目に見えていた。

 それを見たマサツネは終わるのを待つことにして、腕を組んでナタクの戦い方を見つめるのだった。




 バラムとエルトリンデは焦りを隠せなくなっていた。


「お…のれぇ!」

「はぁ!!」


 バラムはナタクに拳を振り下ろし、エルトリンデはレイピアで突く。ナタクはそれをポケットに両手に突っ込んだまま躱す。


「ふわぁ~。もう諦めてくれねぇか?」

「断る!」

「ええ!」

「めんどくせぇ」


 ナタクは気だるげに2人を見る。英雄ゼオフを倒したナタクからすれば、バラム達の攻撃は遅く見極めやすいものだった。

 バラムとエルトリンデはもはやお互いを気にしている場合ではなかった。


「ここまで差があるか!出し惜しみは出来んか!!」


 バラムはナタクから距離を取り、魔力を練る。エルトリンデもそれを悟って下がる。

 しかし、その瞬間にナタクの姿がブレて消える。それに目を見開く2人だが、直後バラムの後方に気配がする。


「っ!!ごぉ!?」

「な!?」


 バラムは振り返ろうとするが、その前に後頭部に衝撃が叩き込まれて前に倒れる。エルトリンデが目を向けると、そこには右膝を突き出したナタクが空中にいた。


「は、速い!?」

「魔力はある程度身体強化も出来るのは常識だろうが。あんな堂々と使いますオーラ出されたら、潰すに決まってんだろ」


 エルトリンデの驚きの声に、ナタクは呆れた目を向けながら話し、呻きながら起き上がろうとしたバラムの後頭部を踏みつける。バラムは声を上げることも出来ずに気絶して退場させられる。

 ナタクはエルトリンデに向く。エルトリンデは顔を青くしながらも、レイピアを地面に突き刺す。


「木々よ!縛り付けなさい!!」

 

 その言葉と同時に地面から木の根が出現し、ナタクに這い寄る。


「【木魔法】ねぇ。レイピアを刺した所からじゃないと発動出来ねぇのか?」

「っ!?」


 ナタクの推測にエルトリンデは目を見開いて固まる。

 パチン!とナタクが指を鳴らすと、エルトリンデの真下から樹が生えてきてエルトリンデの体を飲み込んだ。

 その衝撃でレイピアも地面から抜かれ、ナタクに迫る根が動きを止める。


「ぐぅ!?な、なに!?うぅ!?」


 エルトリンデは驚きの声を上げるも、体が締め付けられて呻き声に変わる。

 ゆっくりとナタクはエルトリンデに近づく。


「どうする?このまま手足をどれか締め折ろうか?」

「ひぃ!?こ、降参ですわ!」


 ナタクの言葉に顔を真っ青にして慌てて降参するエルトリンデ。その声と同時にエルトリンデが消えて、観客席に転移させられる。

 ナタクは樹を燃やし消しながら、周囲を見渡す。


「さて、これで後何人だ?」

「お主を入れて後5人だな」


 マサツネがゆっくりとナタクの前に出る。マサツネを見たナタクはフェオラ達を見た後、観客席に目を向ける。

 そこにアレンやスカーミャも悔し気な顔をして座っていた。


「ふ~ん。どうする?今からやるか?それともフェオラ達の戦いが終わるまで待つか?生徒会長が負ければ、俺が勝ち残っても退学しなくて済むぜ?」

「別に我は退学しても構わん。それにしても生徒会長が負けると決めつけるとは、随分とあの2人を信頼しているようだな」

「信頼っつうか事実だからな。クエンタの実力は知らねぇが、フェオラはあの生徒会長より強えぇ。それだけの事だ」

「……ほう」


 ナタクの言葉にマサツネは僅かに目を見開く。ブレアは間違いなく3年では1,2を争う実力者。マサツネも一度負けている。マサツネの魔法はブレアと相性が悪いし、その時は木刀だったので燃やされてしまった事も敗因に上がるが。しかし、真剣でも勝てるかどうかは五分五分だと考えている。

 そのブレアより強いということはマサツネよりも強いということだ。


「それはそれは……見誤ったようだ」

「あいつも大分魔力操作が上手くなってんからな。気づきにくくはなってるだろうぜ」


 何だかんだでフェオラはずっとナタクと一緒にいる。ナタクの魔力操作の方法を学び、自分独自に改良して修行している。本人はナタクの傍にいるし、あまり戦いたがるタイプではないので、あまり自覚はしていないがフェオラも学園では異常の類に入ってきている。


「ふむ。そこまで言われると気になる。少しあちらを観戦させてもらおう」

「さよで」


 マサツネは笑みを浮かべて、フェオラ達に視線を向ける。ナタクはそれに肩を竦めて、同じくフェオラ達に顔を向ける。

 

 戦いはさらに激しくなっていく。フェオラ達のところだけだが。



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