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1-1 サボります

新作です!

よろしくお願いします!

 ある大きな建物の屋上。

 

 そこに1人の女性が扉を開けて、屋上に出てきた。

 その女性は少しの間周囲を見渡して、出てきた建物の裏側に回っていく。


 そして覗き込むと、


「見つけましたわ!もう!どれだけ隠れ場所があるんですの!?」


 女性は括れた腰に両手を当てて、声を上げる。

 そこには男が寝転んでいた。


「くか~……くか~……くか~」


 男は女性の声にも起きずに爆睡している。


「むぅ~!」


 女性は頬を膨らませて、男に近づく。

 すると、男が不意に目を開ける。


「んあ?……フェオラ?」

「……むぅ~……んもう!……なんでいつも起こす前に起きるんですの?」


 フェオラと呼ばれた男が起きたことに頬をさらに膨らませて声を荒げる。そして、小さい声でボヤく。

 男はそんな事お構いなしとばかりに起き上がり、大あくびをする。そして黒いボサボサ頭をボリボリと掻きながら、未だに寝ぼけていそうな黒い瞳の垂れ目をしている。


「ふぅあ~~。はぁ……もう昼飯?」

「違いますわ!もう放課後ですのよ!」

「へ?」


 男はフェオラの言葉にポカンとして、空を見る。

 空はもう完璧な夕焼けだった。

 

「……マジか。1食逃した!今日の学食ランチは月1のステーキだったのに!」


 男は頭を抱えて悶える。今日の昼飯は凄く楽しみだったのだ。

 それをフェオラはため息を吐いて、ジト目で見る。


「はぁ。だったらちゃんと授業に出たらよろしかったのですわ」

「嫌だよ」

「即答しないでくださいまし。それにしても、わざわざカーテンを日除け代わりにしてまで、ここで寝なくてもよろしいでしょうに」


 屋上入り口の裏側はフェンスと壁の間が1人寝転がれるギリギリのスペースしかない。男はそこにシートを敷き、カーテンを天幕のように壁とフェンスに固定していた。

 完全にここでサボる気でなければあり得ない準備具合だ。


「風が気持ちいいんだよ。人も滅多に来ねぇし、完成したら快適だぜ?」

「朝から放課後まで寝てたのですから、そうでしょうね。全く……探す身にもなってくださいまし」

「別に探さなくていいぞ?って言うかなんか用?」


 完全に呆れるフェオラ。

 男はそれを片付けながら、フェオラに悪びれもせずに用事があったのかと聞く。

 それにフェオラは拗ねたように唇を尖らせながら、


「顔を見たかったら探してはいけませんの?」

「んあ?なんだって?」

「何でもありませんわ!ナタクのサボり魔!オタンコナス!ですわ!」


 フェオラはメロンのような胸を持ち上げるように腕を組んでフイっと顔を背ける。金に輝く縦ロールの髪が振られて靡く。

 それにナタクは肩を竦めて、片づけを終える。するとカーテンなどを仕舞ったバックがフッと消える。そしてグイ~っと背伸びをする。

 

「んあ~!寝すぎたなぁ。夜寝れっかな~?」

「こんなことするから、また寝坊したり、ここまで寝過ごすのですわ」


 コキコキっと首を鳴らしながら、ナタクは夜寝れるかどうか不安を口にする。

 それにフェオラはジト目で突っ込むが、ナタクはいつも左耳から右耳である。


「じゃ、帰るか」

「はぁ……あ、そうですわ」

「ん?」


 ズボンのポケットに両手を突っ込んで歩き出すナタク。それにため息を吐いて付いていくフェオラは、ふと連絡事項を思い出す。

 

「2週間後の【合同実習】ですわ。1組は全員参加。サボれば即留年、だそうですわ」

「……うぇ~」


 フェオラの言葉にナタクは吐きそうな声を上げて、嫌そうな顔をする。


「しかたないですわよ。2年生6月の合同実習はこの学園の一大イベントなのですから」


 ブレスベッド学園。 

 大陸一有名な学園であり、多くの国から入学者がやってくる超名門校である。

 5年制で、4年生からは基本校外実習がメインになる。その実習で卒業後の就職先を決めていく。そのため学園には基本3年生までが多く在籍しており、合同実習は3学年が参加し、2年生は先輩と後輩両方と関わるため、ここで好成績を残すと実習先の選択肢が増える可能性があるので講師陣も含めて気合を入れている。3年生はすでに実習先を決めている者が多いので、ここでは実習前の調整の場と捉えられている。

 クラスは1組~5組までで、数字が小さいほど総合成績が良い者が集まる。


「大変だねぇ。【英雄科】を目指す皆様は」

「ナタクも目指せるでしょう?」

「嫌だよ。俺は【傑物科】で十分」


 この世界には【魔法】があり、魔物という異形の獣が世界中にあふれている。

 魔法は1人に1つ。しかし魔法は必ずしも全員に発現するわけではない。その魔法や武器を使って魔物を倒していく。もちろん悪人とも戦う。


 このブレスベッド学園は戦い方や活用法を学び、研鑽する場所なのだ。

 そのため学園があるこの街は『絶対中立』を掲げた自治都市である。ここでは全ての王族貴族などの身分・肩書は意味を成さず、犯罪を犯せばこの都市の法律で裁かれる。

 

 学園には【英雄科】【傑物科】【支援科】【研究科】の4つがある。これは3年生になる際に学園によって決められる。【支援科】【研究科】の2つは希望すれば必ず入れる。

 しかし【英雄科】【傑物科】は成績と講師達の判断で決められる。そのため合同実習はその評価対象であるため気合が入っているのだ。


 ちなみに【英雄科】は勇者や騎士団など国に属する者が希望する花形である。【傑物科】は傭兵や冒険者になる者が多く、【英雄科】と違って国に拘らずに活動したい者が目指す。しかし【傑物科】は荒くれ者や落ちこぼれが集まる所と言われており、実質【英雄科】2軍と思われている。


「俺が騎士団やお国仕事に向いてると思うぅ?」

「そんなことありませんわ!…多分!……きっと………夢を持てば」

「おい」


 ナタクの言葉にフェオラは力強く答えていくが、最後の方は自信無さげに声が小さくなり、ナタクに突っ込まれる。

 ナタクは1組ではあるが、学園一のサボり魔である。出席率は1桁。しかし、この学園は基本筆記試験で留年を判断するため、ナタクはテストの時だけは本気を出す。そして筆記試験で毎回3位をキープしている。実技試験はなく、この合同実習や配属科希望時の試験で実技を見る。これは人によって魔法が異なるためだ。


「俺は楽ぅ~に過ごせればそれでいいの。冒険者くらいでいいわ」

「もう。ちょっとは夢を持っては如何ですの?」

「持ってるじゃん。『楽に生きたい』って」

「それは夢というか……」


 階段を下りながら会話する2人。そして出口に辿り着く直前に、2人を遮る人影が現れる。


「ナタク・ユーバッハ!!」

「げぇ……」


 立ち塞がったのはスーツを着た巨漢の男。スーツが今にも弾き飛びそうなほど筋肉隆々な体に、赤い角刈りの頭。

 2年1組担任のネッケ・ツダダンである。


「貴様ぁ!今日もサボっていたようだなぁ!いい加減にせんかぁ!」

「うっせぇなぁ。ちゃんと結果は出してんじゃねぇか。あんな暇な授業聞いてられっかよ」


 ネッケは唾を飛ばす勢いで怒鳴るが、ナタクは小指で耳をほじりながらめんどくさげに答える。

 

「なぁにを言うかぁ!授業は知識を得るだけでなく、授業を聞き教わる姿勢と心得も大事なのだぁ!」


 ネッケは熱血指導をモットーにしているため、ナタクを見つけては大声で説教するのが日課になりつつある。

 

「……めんどくせぇ」

「あなたのせいですわよ」

「聞いとるのかぁ!」

「全然」

「なぁ!?」

「……はぁ~」


 全く反省しないナタクの言葉にネッケは目を見開き、フェオラは片手で額を押さえてため息を吐く。

 毎回このやり取りをしているのに、何故2人とも学習しないのだろうかとフェオラは思う。

 そこに新しい声が届く。


「ツダダン先生」

「ぬぅ!おぉ!ミニーダ先生!どうされましたか!?」


 茶髪ロングストレートを後ろで結んでいるスーツを着た女性。目つきは鋭く、クールなイメージを与える。

 3年1組担任のミニーダ・アキュトロンである。


「声が些か大きい。会議室まで届いています」

「そ、それは申し訳ない!」

「そろそろ会議です。他の先生方も集まっています」

「そ、それはいかん!直ぐに参ります!いいか!ナタク・ユーバッハ!明日は授業を受けるのだぞ!」

「やぁだぁ」


 ミニーダの言葉に駆け出しながら、ナタクに注意するネッケ。それにナタクは間延びしたセリフで返すがネッケには届いていない。

 そして歩き出そうとすると、


「ユーバッハ」

「はい?」


 今度はミニーダが声を掛けてくる。


「貴様は何故この学園に来た。この学園は志高き有志が集う場所だ。貴様のような者がいていい場所ではないぞ」

「そ、それは……!」

「フェオラ」


 ミニーダの言葉にフェオラが言い返そうとするが、それをナタクが止める。

 フェオラはナタクを見るが、ナタクはミニーダにも顔を向けずに正面を見ていた。


「志の高さはあんたが決められるのか?」

「……なに?」

「言動程度で人の志が高いかどうか分かんのかって聞いてんだよ」

「な!?」


 ナタクの言葉にミニーダは目を見開く。ナタクは未だに目を合わせない。


「分かるわけねぇだろ?そんなんだからここの授業はつまらねぇんだよ」

「貴様!」

「志の高さを決めるのは自分自身。俺はそう教わったぜ?英雄様からな」


 そう言って歩き出すナタク。それに慌てて付いていくフェオラ。

 ミニーダはナタクがいた場所を睨みつけて、歯軋りをする。


「ナタク・ユーバッハァ……!」


 恨めしげに名前を呟き、会議室に戻るミニーダ。

 それを少し離れた所から見ている者がいたのをミニーダは気づかなかった。




「もう!なんなんですの!アキュトロン講師は!ナタクと話したことなどないでしょうに!」


 ぷんすか!とフェオラは頬を膨らませて歩く。

 それをナタクが眠たげな眼で見る。


「なんでお前の方が怒ってんだよ」

「あ、あなたのためではなく!碌に知りもしないで決めつけるのが許せないだけですわ!」

「あっそ」


 ナタクは肩を竦める。それにフェオラはナタクの斜め後ろを歩きながら、拗ねたように唇を尖らせる。

 

「……あなたが凄いことは私が良く知ってますわ」


 フェオラは小さな声で呟く。


「あん?」

「何でもないですわ」


 少しだけ顔をこっちに向けるナタクにフェオラは笑顔で応じる。

 ナタクはまた前を向いて歩き続ける。


 夕陽に照らされながら2人で歩く。


 フェオラはこの時間が少し、好きだった。



______________________________________________

〇ナタク・ユーバッハ


 身長は169cmでやや細み。

 黒のミディアムパーマ。前髪は長く両目はギリギリ見える。垂れ目ぎみで雰囲気も合わせて気だるげ、眠たげに見える。

 制服は茶色のブレザーで、白のシャツに赤のネクタイ。ズボンは黒。

 寝転がりまくってるせいか、服はくたびれぎみ。

 信条は『楽に生きる』


〇フェオラ・ローエンハイム


 身長は165cmでボンキュボンのグラマラス美女。

 金髪縦ロールで前髪はセンター分け。

 制服は茶色のブレザーの下に赤のベストを身に着けている。ネクタイは無し。スカートは黒で、黒のタイツを履いて、太ももが少し露出している。

 貴族令嬢風の話し方をする。ツンデレ気質。

 信条は『優雅な心』


〇ネッケ・ツダダン


 身長は192cmの巨漢の男。

 赤の角刈りで太眉。

 ピッチピチの青いスーツを着ているが何故か破れない。

 信条は『熱血指導』


〇ミニーダ・アキュトロン


 身長は168cmでクール美女。

 茶髪ロングストレートを後ろで結んでいる。胸はそこそこある。

 黒のスーツに黒の手袋を身に着けている。

 信条は『志高く』









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