03.望まぬ再会と共闘?
「さあ、案内頼むぞ」
俺の言葉に了解と示すように体を一周し森の中に進んで行った。
「リチャード・ガルシア合格。残り九十九名」
放送で一人目の合格者が出たことが告げられる。
「……マジかよ、早すぎんだろ」
焦りと不安をどうにか抑えて目的地に向かってひた走る。
「リン・フィースト合格。残り九十八名」
リンの合格を聞き更に焦燥感に駆られる。
あいつは武器取りに行かなかったようだから早くてもおかしくない。
そう自分に言い聞かせ続ける。
見つけた。
蝶が案内した先には赤い髪の十歳くらいの少女が大木に体を預けて眠りについていた。
少女の周りを蝶が舞う。この子で間違いない。
周囲を見渡し、魔物のいないことを確認した俺は少女のもとに向かい、抱き上げて来た道を引き返す。
側から見たら只の誘拐犯だが、この際そんなこと気にしてはいられない。
でも、こんな小さな子を置き去りにするなんて学校も酷いことをする。
裏門まで後十分程で着くところまで来た。
途中キラーラビットやオーク等が襲いかかって来たが、全て無視して走り抜けて来た。
しかし腕に抱きかかえた少女は周りでどんな大きな音が起きようと一切眼を覚ます気配がない。
生きてるのか不安になるが、頸動脈に手を当てると心臓の鼓動をしっかり感じることができた。
合格者は既に半数を超えていた。
しかもさっきから放送のペースが上がって来ている。
まずい、急がないと。
足に魔力を集め更にスピードを上げようとした時、視界が赤い光に包まれ全身に悪寒が走る。
ーー【死の宣告】か!?
後ろを振り向くと全速力で俺を追いかけるグラントサーペントの姿があった。
「またお前かよ!」
進行方向を九十度にグイッと曲げ、二日ぶりの大蛇の突進を躱す。
大蛇の目的はどうやら俺の抱えている少女だ。
今まで星の数ほど難しくは感じられないと思っていたが、なるほどこういうことか。
さて、どうする。
選択肢は二つだけだ。
戦うか、逃げるか。
本音を言うなら戦いたい。
しかし、あの時勝てたのは師匠に貰った刀と黄金リンゴがあった上で、最後に大蛇の油断を誘うことができたからだ。
装備の問題もあるが、少女を抱えたままでは間違いなく負ける。
俺がここで取るべき行動は決まっている。
「いいか、このクソ蛇! これは負けを認めたんじゃねぇ。そう、戦略的撤退だ! 」
よくわからない言い訳をして、大蛇に背を向け走り出す。
大蛇は止まることなく追いかけてくる。
「これでも食らってろ!」
左手に装備していた盾を外し、右腕に魔力を集め、蛇の頭向かって放り投げる。
速度の上がった盾は運良く蛇の急所に直撃し、大きく仰け反らせることに成功する。
しかし、俺は忘れていた。
中途半端な攻撃は大蛇をより獰猛にさせるということを。
俺を追いかける大蛇の速度が徐々に増していく。
後ろを気にしながら走っていると中々足元にあるものに気づかない。
「うわっ!?」
何かに躓いた俺は地面を転がる。
咄嗟に怪我しないように少女をギュッと抱きしめる。
「キラーラビットの死体……?」
恐らく他の受験生が倒したものだろう。
もう門はそこに見えている。
振り返ると動きを止めた大蛇の顔が近づいてくる。
もう三度目の光景だ。
流石にもう驚いたりしない。
落ち着いて拳に魔力を集め始める。
大丈夫。一発当てれば倒しきれなくても門まで逃げ切れる。
蛇の頭が俺の射程圏内に入ったタイミングで右手を一気に突き出す。
「当たると痛いぞ! …………ってあれ?」
俺の拳が当たる前に大蛇が真横に吹っ飛ぶ。
「もう逃がさないぜ、俺の獲物さんよぉ!」
大蛇を攻撃したと思われる赤髪の少年が姿を現わす。
「……グレン!!」
「ああ? ……お前今朝の馬鹿か。なんで俺の名前知ってんだ。ストーカーか?」
「そんな訳ねえだろ、リンが言ってたんだ。ちょっと考えたら誰でも分かるだろ」
瀕死の大蛇を前にして煽り合いが始まる。
「あのゴリラ女か。……ってお前その女ってまさか」
グレンが俺が抱きしめている少女を指差してそう口にする。
「俺の依頼の救出対象だ。可愛いからってお前にはやらんぞ」
「いらねえよ……。まあいい邪魔だからそいつ連れてさっさと行けや」
これは本当に邪魔だと思って言ってるのか、俺に気を遣っているのかどっちなんだ。
こいつの本心はよくわからん。
でも、ここに俺がいるのが嫌なのは間違いなさそうだ。
「いや、こいつは俺が倒す」
少女の体を側にあった岩に預け、グレンの隣に並びそう言った。
「は? 何言ってんだお前。お前の依頼はそいつを連れて行くことだろ? こいつは俺の討伐対象だ。手を出すんじゃねえ」
「お前の気持ちはよく分かる。だがしかし、このまま立ち去ってはお前に助けられた気がする」
正直なことを言えば、もし俺だけが先に合格してこいつが落ちたら胸糞悪いからだ。
しかも、グレンは俺と同じで武器を持っていない。
グラントサーペントを素手で倒しきるには時間がかかる。
それをグレンも分かっていたようで渋々という様子で提案する。
「お前があいつの動きを抑えろ。そしたら俺がトドメを刺す。それでいいな?」
「いいわけねえだろ、お前が止めて俺が倒すんだ」
共闘するかと思いきや、そんなことはなく、また言い争いが始まる。
「シャァアアアアア!!」
どっちが倒すかで揉めている間に意識を取り戻した大蛇が襲いかかってくる。
「「うるっせぇ!!」」
魔力を集めていた俺の右拳と炎を纏ったグレンの左拳が大蛇の顔面に直撃する。
大蛇はなんでやねんと言いたげな表情を浮かべてドスンと崩れ落ちた。
「よし、俺がトドメを刺したな」
急所をしっかり捉えた手応えがあった。
間違いなく大蛇を倒したのは俺だろう。
「あ? お前のへなちょこパンチで倒せてた訳ねえだろ。俺の【炎拳】でこいつは倒れたんだ」
「ーーなんだと?」
「やんのかコラ?」
「ーー合格。残り二名」
今にも殴り合いの喧嘩が始まるかといったところで放送が流れる。
「……一時休戦だ、早く討伐報告ための牙もってこい」
「俺に命令すんな。先行ってろ」
お前も命令すんなと言い返したくなったが、内心かなり焦っていたので、少女を抱えて走り始める。
遅れてグレンも付いてくるが、少女を抱えている俺にどんどん追いついてくる。
これなら二人とも間に合いそうだと思ったが、門の直前まで来たところで、受付のところに一人の男が立っているのが見えた。
さっき残り二人って言ってたよな。
ーー不味い!
いち早くそのことに気づいていたグレンが、更に加速し俺を抜き去った。
ここまで来て不合格とかありえないぞ。
俺も残っている魔力を全て足に集めグレンに並ぶ。
全く同じタイミングで門を抜ける。
「「依頼達成しました!」」
受付で急ブレーキをかけ、俺の方が早かったとできるだけアピールするために大声で言い放った。
ほぼ同時に言い終える。
ここまで来たらどちらが合格するかは受付の少女の匙加減だ。
未だに眠り続ける少女をギュッと抱きしめながら祈る。
「はい、二人とも合格おめでとう」
受付の少女は笑顔でそう言った。
「……どっちも合格なんですか?」
グレンと一瞬目を合わせてからそう切り出す。
「はい、そうです」
少女は淡々と答える。
「でも、さっき残り二名って言ってたじゃねえか」
グレンが困惑した顔をしながら尋ねる。
「その残り二名が貴方達なんですよ?」
何かおかしいことがありますかというように、小首を傾げる。
「でもさっき受付のところに男性が……」
間違いなく金髪の男がここに立っていた。
「それ、俺のことちゃうん?」
背後から声をかけられバッと振り向くと、そこには今朝看板を持っていた青年がいた。
「ああ、彼はこの学校の生徒ですよ?」
受付の人と、金髪の青年を交互に見る。
遠目だったからよく見えなかったが確かに制服っぽいものを着ていた気がする。
「紛らわしいことしないでくださいよ…………」
緊張感から解放された俺とグレンは同時に安堵の溜息を漏らしたのだった。
あらすじ少し弄ってみました
リンちゃんはゴリラじゃないよ!