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02.実技試験の開幕

 筆記試験に合格した三百人の受験生は城壁の外に繋がる裏門に集められていた。


「ねぇ、何でそんな不機嫌なのー?」


 リンが俺の頰を突っつきながら問いかけてくる。


「理由を一つ上げるならお前のせ、い、だ!」


 無駄に力の入った指を両手で無理やり押しのけ、逆にリンの額に指を突きつける。


「人のせいにするのは関心しないなー」


 今度は俺の全力で固定した指を軽々しく払いのけられる。

 こんなやり取りをもう二十分は続けている。

 最初は怪訝な表情を浮かべていた他の受験生も、今では暖かく見守っていた。

 どうやら、反抗期真っ只中の子どもとそれに構いたくて仕方のない母親に見えるらしい。

 遠目で俺を見るグレンもその様子を見て嗤っていた。

 それを見てさらに憤りを感じる。そしてそれをリンに弄られる。

 一生この繰り返しだ。


 門の前で齷齪と何かの準備をしていた人たちが、漸く動きを止める。


「さて、準備が整ったようなので実技試験の説明を始めさしてもらう。私は生徒会副会長のサクラ・ツバキだ。覚えておくといい」


 ハキハキと話し始めたポニーテールの女性は凛々しい雰囲気を体に纏い、如何にも『出来る女』と言う感じだった。

 腰にさしているのは刀のようだ。


 いいなあ。

 大蛇と戦った時に折れて以来、刀には触っていない。他の武器なら家にいくつかあるが、地獄のような一ヶ月を共に乗り越えた刀に愛着が湧いてしまい、とても使おうとは思えなかった。


「まずはこれを見てくれ」


 そう言って指を指した方向にあったのは十枚程の大きな木の板だった。

 よく見るとその板には何かが沢山貼ってある。


「これはクエストボードだ。君たちにはここに書いてある擬似的な依頼を受けてもらう。全ての依頼がこの裏門の奥にある如月学院私有の森で達成できるようになっている。依頼を終えた先着百名を合格とする」


 それを聞いた瞬間、数人がクエストボードに向かって走る。


「まあ、焦りゅっ」


 あせりゅっ?


 まさかあの出来る女が噛むわけないだろう。

 そう思いながらツバキさんの方を見ると、耳を真っ赤にして顔を手で覆った女性がその場に蹲っていた。


 皆がその様子を見て騒めき出す。

 思ったよりも行動が早くて焦っちゃったのだろう。


 それを茶化すように「頑張れツバキちゃーん」と一つの声が響く。

 するとそれに皆が便乗して「ツバキちゃん頑張れ」コールが始まり、手を叩き始めるものも現れた。


「静粛に。今は試験中だぞ。私語は慎め」


 いつのまにか復活していたツバキちゃんは最初の凛々しい表情で平然とそう言った。

 しかし、さっきの姿を見た後では全く威厳が感じられない。

 口では誰も何も言わないが、皆表情がニヤニヤしている。


「説明を再開する。依頼を受けるためには選んだ紙を引き剥がし門の前にいる受付に持っていけ」


 持ち直したように見えるが、何処と無く顔が赤いような……まあ気の所為ということにしておこう。


「使用する武器は受付の向かい側にある。好きなものを自由に持っていくといい」


 武器か。

 やっぱり刀がいいけど、なければ剣で妥協するしかないか。


「ところでリンは何の武器が得意なんだ?」


 リンが剣を握っているとこは想像できないし、遠距離武器や魔法を使っているのも何か違う気がする。

 もしかしたら素手とか言い出すんじゃないだろうか。


「私? ナックルダスターだよ」


 予想通りすぎる回答に思わず吹き出しそうになる。

 なんだこいつ、自分の腕力大好きかよ。

 この細い腕のどこからあんな馬鹿力が出るのか。人間の体というのは不思議だな。


「因みに簡単な依頼だとその分競争率が高くなり、獲物の奪い合いが起こる。しっかりと考えて依頼は選んだほうがいいぞ」


 ツバキちゃんが説明を続ける。

 簡単な代わりに倍率の高いものと、難しい代わりに倍率の低いものか。

 どちらもかかる時間はあまり変わらない筈だ。


「最後にひとつだけ。この森で怪我しようが死のうが我々は一切の責任を取らない。それでは、実技試験スタートだ」


 ゴーンと試験開始を告げる鐘がなる。

 それを聞いた受験生たちが一斉に走り出す。

 クエストボードに向かうグループと、武器のある場所に向かうグループで別れる。

 俺は近かった前者のグループに混じっていた。


 俺がそこに着く頃にはもう森の中に入っている人が見えた。

 焦りを感じるがクエストボードに目を通す。

 俺の近くにあった依頼は、キラーラビット十体の討伐、キラービー五体の討伐、オーク一体の討伐、そして少女の救出だった。


 最初の二つの依頼書には星が二つ記されていた。これが難易度を表しているのだろう。

 キラーラビットもキラービーも基礎的な攻撃魔術さえ使えれば簡単に倒せる。

 残念なことに俺には使えないがな。

 そんなわけでこの二つは無しだ。


 オーク討伐の依頼書には星が五つ記されてる。

 オークは攻撃力は高く一発貰うだけで死に至る可能性もある魔物だ。

 しかし、魔眼のある俺なら一撃ももらわず倒すことができる。


 よし、これに決めた。

 ベリベリと引き剥がして武器を探しに走り出す。

 ちらっと見えた少女の救出の依頼書には、星が八つも記されていた。


「やっぱり刀はないか」


 様々な種類の武器が入れられている箱の中を漁るが、目当てのものは見つからなかった。

 まあ、これは正直想定内だ。


「……って剣もねえ!」


 全て最初に武器に向かった人たちが持っていったようだ。

 自分が欲しいものがいつでも手に入るわけではないと言いたいのか。

 しかし剣がないとオークに勝てるかどうか分からなくなってきた。


 残っている武器は……トンファーにチャクラムにヌンチャクそして盾だけだった。

 マイナー過ぎてまともに扱うことのできないものだけが残っている。


「…………無いよりましか」


 一応片手に装備できる小柄な盾を拾い、クエストボードへ引き返す。

 オークに打撃は殆ど効果がないようなものなので、別の依頼を探す必要があった。


 戻ってきたときには俺以外の全員が依頼を見つけ森の中に入っていた。

 武器も魔術もなしでクリアできる依頼なんて、そんな都合の良いものをすぐに探すことができるのか?

 しかし、その心配は杞憂に終わった。


 何故ならもう既に依頼はただ一つ、『少女の救出』だけだったからだ。


 突出した難易度、何も書かれていない説明欄。

 こんなもの受けようなんて思う人はいないだろう。


 だが俺には他に選択肢がない。

 覚悟を決めて依頼書を引き剥がす。


 すると、依頼書から魔法陣が浮かび上がり、そこから白い光を放つ一匹の蝶が現れた。

 その蝶は俺の周りでひらひらと舞っていた。

 時間がないので気にせず受付に向かって走る。

 身体強化術を使い、結構飛ばしたにもかかわらず、遅れることなく蝶は俺を追走していた。


「これ、やります!」


 受付についた俺は机にバシンと依頼書を叩きつけた。

 受付をしていた栗色の髪色をした人形のような少女は、それを確認すると俺の顔をじっと見つめる。


「救出対象はその子についていくと見つかるから」


 光る蝶を指差し、冷たい口調でそう告げる。


「わかりました、ありがとうございます」

「はい。…………無理しないでね」


 そう口にする彼女の表情は悲しげに見えた。 

どんどんキャラが増えてきました。

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