表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

05.決着

 体に激痛が走る。

 でもこれぐらいの痛みなら毎日何度も味わってきた。


 まだ戦える。

 諦めるわけにはいかない。


 腰巾着に手を突っ込み黄金リンゴに手をかけるが、さっき木にぶつかった時に押し潰されていたようだ。

 しかし、少しでも魔力を回復させるために鷲掴みにして取り出し貪る。

 体の疲れが少し取れ魔力が湧いてくるのを感じる。


「……さて、どうしたものか」


 大蛇(あいつ)を倒すにはやはり急所しかないが折れた剣ではあの硬い鱗は到底貫けない。

 そんなこと考えている間にも、勝ちを確信している大蛇がのそりのそりと近づいてくる。


 一つだけ、薄い、本当に薄い勝利への一筋の光を見出す。


 それを俺が本当にできるかどうかわからない。

 魔力が足りるかどうかもわからない。

 そもそも、それが成功したとして倒せるかどうかもわからない。


 逃げて魔力が完全に回復した状態で戦うという選択肢も一度は思いついた。


 だが、俺は大蛇(こいつ)からもう二度と逃げないと心に決めた。


 だから俺は、今、ここで、必ずお前を倒す。


 一ヶ月前と同じように目を閉じ、木に凭れ項垂れる。


 しかし、一ヶ月前とは違い俺は未だ何も諦めちゃいない。


 生きることも、お前を倒すことも、『ノアの方舟(ノアズ・アーク)』に入ることもッ!!


 左腕に魔力を集める。もう魔眼は使わない。

 最後は俺の力だけで終わらせる。


 目を閉じて、時を待つ。絶対にタイミングを間違えるな。

 頭の中で【死の宣告】による警鐘が鳴り響く。


 …………まだだ、もうちょっと、限界まで引き付けろ。


 汗が滴り落ちる。

 警鐘が一層酷くなる。


「シャァァァァア」


 大蛇が俺を頭から丸呑みしようと口を開く。


 ーーーー今だっ!!


 目を見開いた俺は、眼前にあった大蛇の口に左手を伸ばす。

 それに気づいた大蛇が咄嗟に距離を取ろうとするが、俺は逃さない。

 口をガシッと掴んだ俺は魔力を集めた左腕を振り上げ全力で地面に叩きつける。


「ギュゥウッ!?」


 大蛇が悲鳴を上げ、叩きつけた場所から亀裂が伸びる。

 未だこれでは大蛇を倒せていない。

 そんなの分かっている。

 言うなればこれは、『必殺技』を撃つ為に必要な予備動作だ。


 左腕に集めていたものを含め、俺の全ての魔力を右手に集中させ、限界まで圧縮する。

 限界を超えた魔力の急激な移動に割れんばかりの頭痛と、激しい吐き気に襲われ意識が飛びそうになる。

 それでも俺は死ぬ気で踏ん張り、拳を振り上げる。


「ーーーー今度こそ、これで終わりっっだぁあああああああああ!!」


 俺が今出し切れる精一杯の力を込めた全力の一撃は、大蛇の急所を鱗を砕きながら貫いた。


 大蛇は尻尾を地面に叩きつけその後は二度と動くことはなかった。


「…………勝った、勝ったんだ」


 そう思った瞬間に体から全ての力が抜け、木に背中を預けて倒れこむ

 気力を使い果たした俺に立ち上がることは出来なかった。


 額の汗を拭い、自分をここまで苦しめた敵の姿を見ようと顔を上げるとそこに絶望的な光景が映る。


「……ありかよ、そんなの」


 俺が倒した大蛇の背後に、()()()グラントサーペントの姿が見え、その瞳は、真っ直ぐに俺を捉えていた。


「シャァァァアアアアアアア!!」


 咆哮を上げた大蛇が口を大きく開け俺に迫る。

 どうにか体に力を入れ、立ち上がろうとするも、全く動く気配がない。


 視界の全てが赤い光に覆われる。

 どうあがいても『致死範囲(デスエリア)』からは出られない。

 不可避の死という現実を魔眼によって突きつけられる。


「…………こんな、こんな終わり方納得できるかよ」


 そう零しても、大蛇は止まらない。

 大蛇の口の中が見え、その大きな牙で俺の体を噛み砕こうとする。


 もうダメだと、顔を逸らそうとした時、天から降ってきた白い一筋の光が大蛇の急所を射抜き、軈て大蛇は灰となり風に舞って消えてしまった。


 何があったのかわからないまま、空を見上げるも誰の姿もない。


「誰かが助けてくれたのか?」


 そう呟くと、森の中から師匠が姿を現した。


「無事に倒せたみたいだな」

「何処をどう見たら無事に見えるんですかね。後、さっきの光は師匠が?」

「いや、俺じゃない。でも、誰がやったかは大体わかる」

「誰なんですか? もし会えたらお礼を言いたいんですが」

「確か名前はアーー」


 師匠が名前を告げようとした瞬間に、何かを察知したのか後ろに跳ぶ。

 それと同時に先ほど一撃で大蛇を葬った白い光が師匠の前に落ちる。


「……どうやら、知られたくないみたいだぜ?」


 じゃあ仕方ないですねと言い、立ち上がろうとするも魔力が尽きているのを忘れていた。

 そのまま前に倒れこんだが地面とキスする寸前で、師匠に拾い上げられ肩に担がれる。


「あ、ありがとうございます」

「取り敢えず何時もの場所に向かうからそれまで寝てろ」


 それを聞いた俺は、はいと答える前に気を失った。


 ◇


「あれ、俺どれくらい寝てました?」


 眠る前は丁度昼時だった筈なのに、空は赤く染まっていた。


「まあ三時間くらいじゃないか?」


 三時間だと? 俺は師匠を三時間も待たしてしまったのか。

 それは不味い。


「申し訳ありませんでした!! でも起こさなかった師匠が悪いと思います!」


 そういうと、頭をゴツンとグーで殴られた。


「起こしても起きなかったんじゃねぇか。まあ、いつもなら帰っていたが今日は最後だしな」


 最後、そう師匠との修行は今日で終わったんだ。

 涙が出そうになる、勿論地獄のような毎日から解放される嬉しさじゃなくて、師匠と別れるのが悲しいからだよ?


「おい、お前なんで嬉しそうな表情してんだよ」

「き、気のせいじゃないっすか?」


 危ない危ない、顔に出てしまったようだ。気をつけないと。


「まあ何にせよ、グラントサーペントを一人で倒したし今日で修行は終わりだ。これから更に強くなれるかどうかはお前の頑張り次第だ。暇があれば魔眼に魔力流しとけ」


 俺は首を縦に降る。


「この一ヶ月は割と楽しめたぜ。ここまでやったんだ入学試験落ちたら殺すぞ」


 この目は間違いなく本気で言っている。

 俺はさっきよりも大きく首を縦に降る。


「じゃあこれでお別れだ。強くなれよ」

「はいっ、一ヶ月間本当にありがとうございました!」


 初めて出会った時と同じような固い握手をして夫々の帰途についた。


 ◇


「ただいまー」

「お帰り……ってあんた今までにないくらい傷だらけで服もボッロボロじゃない」


 流石に俺でも引くくらい今の格好は酷い。

 帰り道で何度も後ろ指を指された。


「ちょっと張り切りすぎた」

「私のちょっととは随分と尺度が違うみたいね。沁みるだろうけど早くお風呂入ってきなさい。治療はその後ね」

「えっ、アリスはいないのか?」


 アリスは高位の治癒魔法を使えるため傷口を塞ぐことが出来る。

 エレナも痛みや疲れをとることはできるものの、傷を治すことまではできない。


「今日は用事があるって言ってたし来ないわよ?」


 そんなバカな。


「…………風呂に入らないって選択肢は?」

「臭いから却下」


 結局、悲鳴をあげながらも風呂に入った。


「大丈夫?」


 風呂から上がった俺の顔を見て尋ねる。

 そんなの聞かなくてもわかるだろ、さっさと回復しろと目で訴える。


「はいはい、じゃあそこ座って」


 治癒が始まる。傷跡は消えないが徐々に痛みが引いてきた。


「……一ヶ月よく頑張ったね、お疲れ様」


 包帯を巻きながらエレナが労いの言葉をかける。


「まだ早いよ、大事なのはこっからだ」


 そう、まだ何も終わっていないし、始まってすらいないのだ。

 この一ヶ月は俺の人生の序章に過ぎない。

 必ず明後日の入学試験で合格し、『ノアの方舟(ノアズ・アーク)』に入り、何れはギルドマスターへ。


「ずっと応援してるから。頑張んなさいよー!」


 そう言って俺の背中をバシッと叩く。


「痛っってぇぇえええええええええええええ!!」


 一ヶ月ぶりに俺の絶叫が谺した。







次から一章、『如月学院編』が始まります。


一気に登場人物が増え、ヒロイン候補が続々と現れるかも?


面白い、面白くなりそうだと思ったらブクマ、感想お願いします!

モチベがぐーっと上がります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ