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02.魔眼って何ですか?

 家に入って俺はエレナに今日あった事全てを包み隠さず話した。ジュールに聞いた黄金リンゴを探しに『禁忌の森』に入ったこと。途中で大蛇に襲われ死にそうになったこと。そこに現れた謎の大男に助けられ、明日からその人に弟子として修行してもらえることになったこと。エレナは最後まで何も言わずに俺の話を真剣に聞いていた。


「……情報量が多すぎて頭が痛くなるわ」


 エレナが頭を抱えて嘆息する。


「ねっ? 私の言う通り心配するほどのことでもなかったでしょ?」


 そう口にした銀髪の少女は俺の幼馴染であるアリスだった。アリスは両親と共に『ノアの方舟』のメンバーであり、父親に至っては『人類最強』の称号を持つ九代目『ノアの方舟』ギルドマスターのレオナルド・ノインである。


 その『人類最強』の子供であるアリスも類稀なる才能を持っており、まだまだ進化の可能性を残しているにもかかわらず今の彼女に一対一で勝てる者は世界中探しても五十もいないだろう。

『胸が痺れるような美しさ』と評される容貌もあり、ギルドメンバーを始め、貴族や王族を含む様々な人に求婚されているがその全てを「ごめん、無理」の一言で悉く粉砕しているそうだ。

 そんな彼女は今日一日ずっと不安に苛まれていたエレナに寄り添い宥め続けてくれたらしい。


「いや、助けなかったら死んでたんだから心配する程のことでしょ……。まあ、生きて帰ってきたから良しとしますか。……で、その修行だっけ? 私はリュカの夢もそれなりに理解してるつもりだから止めはしないわ。その助けてくれたよく分からない人もリュカが信頼してるなら私も信じる。でも、今度私を心配させたらその時は本気で殺すから覚悟してね」


「わ、わかった」


 そう答えるとエレナは満足げに微笑み「じゃあご飯にしよっか」と席を立った。


 ◇


 翌日、朝早くに起きた俺は昨日師匠と別れた場所で一人立っていた。

 本当に師匠は来るのだろうか、昨日弟子にすると言ってくれたのは俺から逃げる為の方便だったんじゃないかと取り留めのない不安が募る。


「よぉ、早ぇじゃん」

「し、師匠! いつからそこに?」

「いつからって今だけど、なんでお前そんな辛気臭い顔してんの?」

「えっと、師匠が本当に来るかどうか不安で……」


 そう口にすると、師匠は小さく溜息を吐き俺の頭を小突く。


「俺は嘘は絶対につかん。わかったら早く行くぞ」

「は、はい!」


 そう答えると昨日と同じように肩に担がれ何処かに向かい走り始めた。


「よし、着いたぞ」


 師匠に連れられてきた場所は、昨日よりも更に深い『禁忌の森』の中だった。

 そこには禁忌と呼ばれ、皆が入ることを許されない森とは思えない程生活感に溢れたログハウスがあった。


「まさかここに住んでるとか言わないですよね」

「ああ、そのまさかだ。ここはいろんな素材が採れて金稼ぎしやすいからな」

「あ、そうですか」


 どこの世界の人間が金稼ぎのために『禁忌の森』に家を建てて住み込もうとするのか。それを当然のように言う師匠を前にして顔が引き攣る。

 昨日も意味不明なこと言ってたし、強いからと言って弟子になったのは間違いだったのかもしれない。

 そんな憂いを頭を振って搔き消す。


「じゃあ始めるか。リュカ、お前は魔眼について何も知らないんだよな?」


 俺は無言でブンブンと首を縦に降る。


「まあ魔眼って言うのは簡単に言えば、魔力を通すことによって強力な能力を発揮する眼のことだ。魔眼を持ってる奴は両手で数えられる程しかいない上、能力もそれぞれ違う。まあ、何もかもが違うわけじゃなくて共通の能力もある。それが『共鳴(リンク)』だ」

「『共鳴(リンク)』?」

「俺たちが最初に眼を合わせた時に眼が光っただろ? あれも『共鳴(リンク)』の効果の一つ、魔眼持ちの識別だ。他にも効果はあるが今はそれだけ覚えてりゃ十分だ」


共鳴(リンク)』というくらいだから残りの効果というものも、恐らく一人では使えないものなのだろうか。


「なるほどなるほど。じゃあ俺の魔眼の能力って何なんですか?」

「お前の能力は魔眼の中でも最強クラスの『未来視(ビジョン)』だ。名前の通り未来を視る能力だ。この時点でも反則じみているのに、使いこなすことができれば自分の好きな未来を選択することも出来るようになるらしい」


 最後の言葉と同時に師匠の口角がグイッと上がり、それを見て背筋がゾクゾクと震え上がる。

 未来を自分の好きなように出来る力なんて流石にありえないと思うが、師匠が言うからもしかしたらと思ってしまう俺がいる。


「昨日言った通り、俺が一ヶ月でお前に魔眼の基礎を叩き込んでやる。その代わり一ヶ月後に、昨日は逃げ回ることしかできなかったグランドサーペントを一人で倒せ。出来なかったら俺の手でお前を殺す」

「あの大蛇を一ヶ月で!? しかも出来なきゃ俺死ぬんすか!?」


 幾ら魔眼が凄くても使い手が俺じゃあんな化け物に敵うはずがない。そう思った俺は全力で条件の変更を嘆願する。


「そりゃあ俺の一ヶ月を無駄にしたとなったら、相応の対価を払ってもらわなきゃダメだろ。条件の変更は一切認めない。なぁに、心配すんな。お前は雑魚でもお前の魔眼は滅茶苦茶強い。その上俺が教えるんだ。たかが蛇の一匹や二匹余裕で狩れるようになるさ」


 そう言いながら俺の体をバシバシと叩く。

 ああ、姉ちゃん。あんたの信じてくれた人を俺はやっぱり信頼できないかもしれません。

 そんな事を考えながら、天を仰いで嘆息した。


「じゃあ、始めるぞ。まずは感覚を掴むために全力で左眼に魔力を集中させてみろ」

「魔力を集中させるってどうやるんすか?」


 俺がそう尋ねると、師匠は何言ってんだコイツみたいな目で俺を見ながら口をぽかんと開けている。


「どうやるも何も身体強化術で身体の一箇所に魔力を集めるのを左眼でやるだけだろ」

「そんなこと出来るんですか!?」

「……あぁ、今ので大体わかった。こういうのは学校で教えてもらうってことか」


 師匠がチッと、舌打ちをして背中に負った大剣の柄に手をかける。

 やめて怒らないで、殺さないで! 何も知らない無能な弟子でごめんなさい!


「……しゃあねぇ。身体強化術の応用について今から教えるから一日で覚えろ。出来なきゃ殺す!」

「はいぃ!!」


  ◇


「さあ、そろそろ時間だしテストすっか」


 師匠がそう言って一瞬で消えたと思うと、俺の二倍ほどある大きさの岩がドスンと目の前に落ちる。

 それと同時に黄色い何かが俺の方に投げつけられ、俺はそれを慌ててキャッチする。


「お前も魔力かなり使ってるしそれ食ってからこの岩砕け」


 師匠が岩の背後から現れて淡々とそう言う。


「これを砕けないようじゃアイツには勝てないよな。…………って、ええええええええ!? これあの食べるだけで強くなれると言う黄金リンゴじゃないっすか!!」

「は? 其奴にそんな力無えよ。それは魔力をある程度回復してくれるだけのただのリンゴだ」


 まあそりゃそうだよなと思いながら黄金リンゴを口にする。体の奥底から魔力が湧いてくる感じがする。魔力が枯渇しかけぼやけ始めた視界も元に戻り、体も幾分軽くなった。


 実際は食べるだけで強くなるわけじゃなくて、魔力回復に掛かる時間を短縮出来るから人より長い時間特訓できると言ったところか。まあそれでも十分すぎる程凄いんだけどね。


「よし、じゃあ行きます!」


 俺は右手に魔力を集中させ始める。

 身体強化術を使い体全体を流れる魔力を右手のところで塞きとめ圧縮していくイメージ。

 魔力の流れが完全に止まりそうになるギリギリのタイミングで岩をぶん殴る。


「おっっらぁぁぁぁぁぁああああ!!」


 右手が触れた瞬間、岩に大きなヒビが入る。

 砕けなかった。

 そう思った瞬間、魔力を一気に使った反動もあり膝から崩れ落ちる。


「そんなこの世の終わりみたいな表情(かお)すんなって。大丈夫、お前の拳はしっかり届いてる」


 師匠がそう言いながら岩をコンコンと叩く。

 すると俺より大きかった岩は張り詰めていた糸が切れたかのように崩れ落ち、最終的に一番大きいものでも俺の頭ほどの大きさまで小さくなった。


「まっ、ギリギリ及第点ってとこだな」

「よ、よかったぁぁぁぁぁ…………」


 師匠の言葉に安堵し気が緩んだ俺はそのまま意識を失った。


 ◇


 目が覚めるとそこは昨日師匠と別れた場所だった。

 空では満天の星がギラギラと光っている。


 あ、やべぇ。


 ()()に気づいた俺は全速力で街を駆け抜ける。

 家の前まで来ると二つの人影、苦笑いを浮かべるアリスと、表面上は満面の笑みなのに背後に鬼が見えるエリナが立っていた。


「ただいま〜」


 二人の間を抜けしれっと家に入ろうとするも、二秒で首根っこを掴まれる。


「他に言うことは?」

「…………ごめんなさい」


 首から手が離れこれで終わりかと思った直後、「じゃあ一発」と股間を蹴りあげられる。


「ぎゃぁああああああああああ!!」


 絶叫する俺の声が寝静まった街で谺した。




師匠が俺tueee系主人公みたいになっている件。

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