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11.一時停止

「……はぁ、やっぱり勿体無いことしたかなぁ」


 頭を撫でられながらフレアさんからの報酬に悩みに悩んだ俺は、結局「報酬はこれでいいです」と言ってしまった。

 正直なところ出会って十日程しか経ってない人にして欲しいことなんて俺には何もなかった。


 下衆なお願いが思いつかなかったと言うと嘘になるが、そんなことを言ってフレアさんに侮蔑の目で見られでもしたら間違いなく死ねる。


 俺が報酬はいらないと間接的に伝えるとフレアさんは少し残念そうな表情を浮かべていたけど、また俺のことをからかおうとでも思っていたのだろうか。


 そんなことを考えていると向かいから歩いてくる一人の男子生徒の姿が目に入った。


「よお、グレン」

「なんだよ」


 声を掛けて漸く俺の存在に気づいたグレンが明らかに嫌そうな顔をする。


「うーん、いや別に用はないんだけど」

「だったら話しかけんなカスが」


 グレンはそう吐き捨てて大きな舌打ちをする。


 ついさっき負けた相手と会話するのは誰だって嫌だろう。

 それでも無視することなく立ち止まるのが『真面目ヤンキー』の異名を持つグレンという男だ。


「まあまあそんなこと言いなさんなって」

「…………今日、俺はお前に負けた。でも次は俺が絶対に勝つ」

「俺自身はグレンに勝ったとは思ってねえよ。あれが実戦なら負けてたのは俺だ」


 俺がそう言ったのは謙虚だからではなく、それが紛れない事実だからだ。

 もしグレンが使っていた武器が実戦用で、それもグレン専用の熱に強いものだったなら、俺の蹴りを受け止めた時に折れることはなく、逆に俺の皮膚は抉られ骨も折れて戦闘を続けることができない状態になっていたかもしれない。


 そのことをグレンも理解していたようで、フッと鼻を鳴らしてニヤリと笑う。


「それがわかってるなら別にいいけどよ」


 どうしてこいつはこんなに上から目線なんだ?

 少し自分の立場というものを理解してもらわないといけないな。


 俺は満足気な表情を浮かべるグレンの肩に手を置いて一言ーー


「そうだな…………でも負けは負けだからねええええええええ!!」


 あっかんべーと舌を出して挑発してから全力でその場から逃げだした。


「次会ったら殺す」という物騒な声が聞こえたが、今の俺は頗る機嫌がいいので気にしないでおこう。


 ◇


 決勝戦は選手の体力と魔力を考慮して翌日に行われることになった。


 つまり今日だ。


 靴紐をギュッと結んで部屋の扉をガチャっと勢いよく開ける。


「……あっ、やっと出てきたーー」

「すいません! 今急いでるんでまた後でお願いします!!」


 そう、俺は急いでるのだ。

 何故かって?

 寝坊してしまったからに決まってるだろう。


 扉の前で待っていたどこかで見たことのあるような女の子に、そこでいるならもっと早く起こせよと思いながら軽く一礼してから闘技場に向かって走りだす。


 観客席に出ると生徒たちが昨日と同じようにぎっしりと詰まっていた。

 クラスメイトの姿をその中に見つけて駆け寄る。


「ふぃ〜。なんとか間に合った」

「間に合ってねえよ、大遅刻だバカ野郎」


 汗を拭ってホッと一息ついていると、呆れた表情のサルーが闘技場の中央で座って瞑想しているリチャードを指差す。


「マジかよ!? それじゃ、行ってくるわ!」

「おう、頑張れよ」


 一々中から下に降りるのが面倒だったので観客席から飛び降りる。


「待たせたな」

「うん、すごく待たされたよ」


 リチャードは男でもドキッとするような笑顔を浮かべているが、残念ながら目が全く笑っていない。


 観客席では、男子生徒が来るのが遅すぎるとヤジを飛ばし、女子生徒はリチャードの瞑想をもう少し見たかったのに来るのが早すぎると俺を非難している。


 遅れた俺が悪いというのはわかっているがどうしろっていうんだ。


「実は君と戦うのが凄く楽しみだったんだ」

「えっ、なんで?」


 審判に受け取ったバッジをつけながら尋ねると、リチャードはニコッと微笑む。


()()()()()フレアさんに選ばれた男の実力がどんなものなのか気になって、ね?」


 まるで瞬間移動でもしたのかと思うほど一瞬で距離を詰められ、俺にしか聞こえないような声でそう囁いた。


「……お前、フレアさんのことが好きなのか?」

「さあ、どうだろうね」


 それだけ言うと満足したようにさっきいた場所に歩いていく。

 女子生徒の黄色い声援が聞こえる。勿論リチャードに向けられたものだ。


 俺も魔眼を使わなくとも反射神経にはそれなりの自信はあるが全く反応することができなかった。

 そもそも近づかれたことすら気づかなかった。


 天才的な身体能力なのか、あるいは何か魔法を使ったのかどうかは俺にはわからない。

 でも戦闘前にあれこれ悩むのは良くないと師匠も言っていたし考えるのはやめだ。


 コイツに勝って対抗戦に出る、それだけで十分だ。


「よし、もう始めようぜ」

「……随分と準備が早いようだね。僕が二回戦どうやって勝ったのか知っているのかい?」


 リチャードが一瞬表情を曇らせてから話を始める。


「知らないけど、戦ってたらわかるだろ」

「そっか。……うーん、じゃあ始めようか。頑張って避けてね」


 何だろうこの違和感は。

 ただ、俺がリンのように負けないように忠告してくれただけなのだろうか。

 それよりはすぐに試合を始めることを嫌がったようにも見えたが。


「それでは決勝戦、始め!」


 結論は出なかったが、いつも通り審判の合図と同時に魔眼を起動する。


 動く気配がないリチャードに詰め寄ろうとすると、突如【軌道予測】の光が浮かぶ。

 しかし、いつもと違うのはリチャードから放たれているはずの光が既に消え始めていたということだ。


 本来、【軌道予測】が示す光は魔法や武器などの攻撃がなぞると消えていく。つまり、最初は必ず攻撃をした者から光が出る筈なのだ。しかし今回は光は空中から現れていた。


 理由を考える前に飛んできた攻撃を左手で受け止める。

 別に避けようと思えば避けることはできたが、致命傷にはならないという自信があったから敢えて受けたのだ。


 光が消えると同時に掌に鈍い痛みが走る。


「……思ったより痛いな」

「それはとりあえずバッジに手をかざしたのか、それとも敢えて受けたのかな?」

「さあ、どうだろうな」


 リチャードが放った魔法は恐らく風属性初級魔法の【風弾(エアバレット)】だろう。

 威力は普通の人ならデコピンを数倍痛くしたレベルだが、魔力量や技術に応じてその強さは比例していく。

 リチャードの威力ならバッジを砕くことは容易だろう。


 無詠唱魔法を習い始めた人が最初に練習する魔法と言われ、詠唱しても発動しない人は魔法を諦めたほうがいいと言われる程簡単な魔法である。


 勿論俺は使えない。


「そろそろ行くぞ」


 さっきより距離を詰めると、今度は更に俺に近い位置から光が浮かび上がった。

 二度も受ける義理はないので体を逸らして避ける。


「今度は偶々ではないようだね」

「ああ、だいたいわかってきた」


 俺は足に魔力を集め、一気にリチャードに近づき斬りかかる。

 リチャードも片手剣を抜いて応戦するが、軌道が視える俺に対して防戦一方になる。


 一撃、二撃と攻撃が入り始めたところで、不意に後ろに吹っ飛ばされる。

 見上げると足を俺に向かって突き出しているリチャードの姿があった。

 すぐに立ち上がり体勢を立て直すために後ろに飛び退く。


 腹は痛いがその代わりに理解できた。


「お前、時間を止めてるだろ」

「……その通りだよ。流石はフレアさんが選んだ男だね」


 予想通りだったみたいだな。

 リチャードは時間を止める固有能力を持っている。


 止められる時間は一秒程度で、インターバルは恐らく三十秒ぴったりだ。

 止めた時間で魔法を放ったり、攻撃を避けたりしているのだろう。


 三十秒に一度無敵になれると考えると、攻撃に能力を使わせてから一気に攻めるというのが良さげだな。


「色々と考えてるとこ悪いけど僕は君に勝つ方法を思いついたよ」

「へぇ、やってみろよ」

「じゃあ行くよ。君の敗因は僕に距離を取りすぎたことだね」


 そう言って左手を突き出したリチャードが詠唱を始めると、足元に現れた魔法陣がどんどん大きくなって行く。


「マズい!!」


 リチャードが使おうとしているのは長い詠唱を必要とする広範囲魔法だ。

 一般的には一対一では詠唱中に無防備になることから使用されることはないが、俺には近接攻撃以外に詠唱を中断させることができない。


「ーー落ちろ流星、我が敵を滅せよ!【星降る夜に(シューティングスター)】」


 リチャードの足元から天空に浮かび上がった魔法陣から数多の光の玉が俺目掛けて飛んでくる。


「……これくらいなら、避けれないこともない!」


 俺は針に糸を通すように流れ落ちる光の玉を傷を負いながらもどうにか躱す。


「君は僕の能力を忘れていないかい?」


 最後の一つを避けようとした時に告げられた言葉は俺の動きを止めた。


 目が覚めるとそこは昨日と同じ保健室のベッドの上だった。

一章はあと一話で完結です。


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