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08.眼鏡君はかませ犬

「た、退学ですか?」


 フレアさんの口から突如発せられた衝撃の言葉を思わず聞き返してしまう。


「そう、言うなればこれは一種の依頼(クエスト)なのよ。成功したら報酬が出るし、失敗したら勿論罰則(ペナルティ)が与えられるわ」


 今回の件で言えば、報酬はフレアさんがなんでも一つ言うことを聞いてくれるということ、罰則は退学ということなのだろう。


 どう考えてもハイリスクローリターンすぎやしないか。

 勝っても倫理的に問題な頼み事はとてもじゃないができないのに、負けたら即退学なんて酷すぎる。


 普通ではありえないことだが、個人の独断で生徒を退学にできるのがこの学院の生徒会長の権力というものだ。


 もう既に俺はこの依頼を了承してしまっている。

 今更断ればその時点で退学ということだ。


 逃げ道はもうない。ここまできたら腹を括ろう。


「私だってリュカ君がいなくなるのはやだよ。でも、私は絶対にあなたが勝つと信じてるから」


 どこに根拠があるかわからない自信だが俺の不安を取り除くには十分だった。


「……そこまでいうならもし俺が負けたら一緒に退学してくれますか?」

「うん、いいよ」

「……マジっすか」


 冗談半分で言った言葉だったのに即座に了承されて少し戸惑ってしまう。


 でも、ここまで信頼されているなら負けるわけにはいかないよなーー。


 ◇


 如月学院での生活はとても充実したものだった。


 魔法学をはじめ史学や生物学など、どの教科も興味深い内容で、先生の言うことは一言一句も聞きもらさなかった。


 魔法学では詠唱の省略や固有魔法の強化などの為になる授業が行われていたが、その殆どは身体強化術以外使えない俺には無用の長物だった。

 無駄な知識を頭に詰め込むのも好きだから別にいいんだけどさ。

 因みに俺が身体強化術以外使えないことがバレると、次の日には既に学院中で話題になっていた。


 友達もたくさんできた。

 初日なんかは変なやつと敬遠されていたが、リンやサルーと話しているうちに他の人たちからも話しかけられるようになり、今ではクラスメイト全員が友達と言っても過言ではないだろう。


 生徒会は入学式のとき以来顔を出していない。

 決して行くのが面倒とかそう言うわけではなく、フレアさんから来なくていいと言われていたからだ。


 別に嫌われたわけじゃないよ?

 ただ、この一週間は忙しくなると思うからとフレアさんが気を利かせてくれただけだ。

 断じて愛想をつかされたわけではない。


 一日六コマある授業を受け、放課後に軽く特訓してから寮に帰る。


 そんな生活をしているとあっという間に一週間が経った。

 

「せっかく譲ってやったんだから簡単に負けんなよー」


  観客席からサルーの野次が聞こえる。

 

 そう、今日は代表決定戦の日。


 既にグレン、リン、リチャードの三人が準決勝へと駒を進めている。

 残る一回戦の組み合わせは俺対C組の眼鏡君だ。


「それでは両者バッジを胸につけて下さい」


 審判が俺と眼鏡君に一つずつ、校章の描かれたバッジを渡した。

 試合の方式は最も一般的な決闘だ。

 戦闘不能、もしくは心臓の代替となるバッジの破壊で勝負が決まる。

 殺し合いではないので、刃引きされた武器又は弓のみ使うことが可能である。

 魔法は基本的に使用可能だが、致死性があるものは使用禁止で、もし使った場合は先生方が打ち消した後使用者を失格とそうだ。


「君が噂のワンダーボーイか、俺は実技試験六位のトレバー・ボーゲンだ。皆の前で無様な姿を晒さないように気をつけろよ」


 トレバーが眼鏡をクイっと上げる。

 初対面の人に対して口悪すぎだろこいつ。親に礼儀というものを習わなかったのか?


「……ちっ。コネで生徒会に入れたからって調子に乗りやがって」


 無視し続けたのが癇に障ったようで、そう吐き捨てて俺から間合いを取り弓を構える。


「それでは一回戦第四試合、始め!」


 審判の合図と同時にトレバーが弓に矢をつがえる。

 俺は動かずに黙ってそれを見ていた。


「俺の矢はお前如きには避けることはできない。早めに諦めた方が身のためだぞ」

「そうですか、忠告ありがとう」


 俺が淡々とそういうとトレバーは大きな舌打ちをしてから詠唱を始めた。

 弓を引く右手に緑色の魔法陣が浮かび上がる。


 恐らく風の魔法によって矢の速度と貫通力を上げる魔弓使いの常套手段だろう。

 攻撃速度は最速と言われ、無詠唱魔法が使えないものは超人的な耐久力か回避力でもない限り、高確率で手も足も出ずに負けるらしい。

 だからこそ、最優先で無詠唱魔法を授業で教えるとボルド先生が言っていた。


 勿論俺はそんなもの使うことはできないし、超人的な耐久力なんてものもない。


 でも俺にはーー。


「敵を穿て、【風の矢(ウィンドアロー )】!!」


 詠唱が終わり放たれた矢は、魔法の力によりどんどん加速して地面に勢いよく突き刺さった。


 確かにこの速さならどれだけ足に魔力を集めても回避は間に合わないだろうーーーー()()()()()()()()では。


「なんだと!?」


 トレバーが驚きの声を上げる。

 無詠唱魔法によって弾かれるならまだしも、まさか避けられるとは思っていなかったのだろう。


 刀を抜いた俺は狼狽えるトレバーに徐々に詰め寄る。

 六位は伊達じゃないようで、すぐに平静を取り戻し第二、第三の矢を放つ。


 しかし、俺の体にはかすりもしない。

 刀が届く距離まで近づくとトレバーの顔は蒼白になった。

 俺の背後には十数本の矢が突き刺さっていた。


「……ど、どうして当たらない!」

「別にお前が弱いわけでも俺が特別強いわけでもない。ただ、とことん相性が悪かっただけだ」


 最後にそう告げて、トレバーの胸のバッジを刀で突いた。

 バッジが砕けてボロボロと地面に落ちるのを確認して、右手を天に向かって掲げた。


「……勝者、リュカ・エフェル!!」

「おおーっ!!」


 審判がそう宣言すると闘技場が盛大な歓声が上がった。


 ◇


「一回戦突破おめでとう!」


 試合を終えて観客席に戻ると、B組の皆による拍手によって迎え入れられた。


「勝つわけないと思ってたけどお前強いんだな」

「リュカ君がボロボロになるとこ見たくなくてずっと目瞑ってたの。ごめんね?」

「せっかく負けに賭けてたのに勝ちやがったな。金返せ」


 クラスメイト達が各々の感想を述べる。

 ……お前らは友達を応援するってことを知らないのか。

 薄々気づいてはいたが、自分の期待度の低さを改めて実感して悲しい気持ちになった。


「いやぁ、凄かったねぇー。リュカがそんな強いなんて知らなかったよー」


 リンが胸の前で手を叩きながら近寄ってくる。

 リンはいつもどことなく俺を子供扱いしている気がするが、本人にそのことについて尋ねてみると、そんなことはなくただ純粋に俺を構いたいだけらしい。

 それを子供扱いしているのではないかというツッコミはリンには通じないので、もうそういうものなのだと諦めることにした。


「でも、本当に相性悪かったのによく勝ったな。次のグレンにも案外あっさり勝てるんじゃねえか?」


 後ろからひょっこり現れたサルーが俺の肩に手をかけてそう言った。


「勿論勝つ気でいるけど、そんなに甘くはないさ」


 これは謙遜でもなんでもない、俺の本心からの言葉だった。


 サルーは相性が悪いと言ったが、実際はその真逆、物凄く相性が良かったのだ。


『未来視』の魔眼を持つ俺にとって、弓ほど戦いやすい相手はいない。

 いくら攻撃が速くても、広範囲攻撃や体が間に合わないほどの連射をされない限り、俺に矢が当たることは絶対にない。


 だから一回戦の相手が弓使いだと聞いた時点で俺は勝ちを確信していたんだ。

 正直、トレバーには申し訳ないことをした気分だ。自身を失ってなければいいんだが。


「じゃあ、私試合行ってくるね」

「おう、決勝で会おうぜ」

「うん!」


 リンの準決勝の相手はあのイケメン王子様か。

 一回戦はトイレに行っている間に終わっていて見ることができなかったから、どんな戦いをするのか楽しみだ。


 ◇


「……しょ、勝者、リチャード・ガルシア」


 何が起こったのかわからなかった。


 観客の大半がその光景をただ呆然と見つめていた。

 この反応を見るに一回戦とは違う勝ち方をしたのだろう。

 リチャードが勝った理由がわかった人はこの場に何人いるのだろうか。


 勝負は一瞬で決まった。

 決闘が始まった直後、リンのバッジがひとりでに砕け散ったのだった。



テンポ速すぎる気もしなくもないけどまあいっか。


ここ四話で何度リュカ君に拍手と歓声が送られたのでしょうか。


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