06.入学式とワンダーボーイ
街の人たちとの別れを終え、二日ぶりの如月学院に戻ってきた。
これから三年間世話になるであろう学生寮に荷物を置き、そこにあった制服に着替えて入学式が行われる講堂に向かった。
道中、同じ新入生らしき人たちから様々な感情のこもった視線を感じたが、気にするほどのことでもないか。
講堂に入るとそこは既に生徒で埋め尽くされていた。
どうにか空いている席を探して腰を下ろす。
式が始まるまで待っていると、一人の無愛想な少女が俺の元へ近づいてきた。
「……そこ……私の席」
少女は俺の座っている場所を指差し独り言のような声でそう呟いた。
「え、あ、すいません! 席決まっているなんて知りませんでした」
「……いいよ。……君のその肩の校章、生徒会でしょ。……ほら、あそこ、生徒会は前で集まる」
少女が指差す先をじっと見つめるとツバキちゃんやタイガさんの姿があった。
俺は少女に軽く一礼をしてそこに向かった。
「時間ギリギリか。随分と余裕やな?」
いち早く俺を見つけたタイガさんが俺に手を振りながらそう口にする。
「どこに座ればいいかわからなくて……」
「生徒会はいつも座る場所が決まっているから伝えるの忘れられてたのかもね」
ツバキちゃんに手招きされて隣に座る。
後ろからでは椅子に隠れて気づかなかったがツバキちゃんとタイガさんの間にはエリゼさんが座っていた。
ツバキちゃんの横に男が座るのが気にくわないようで俺を無言で睨みつけている。
どうやら如月学院は学年によって制服のブレザーの色が違うらしい。
一年は白、二年は緑、三年は赤だ。
よってタイガさんとエリゼさんが三年、ツバキちゃんが生徒会唯一の二年生ということになる。
この場にいる俺を含んだ四人の左肩には一様にこの学校の校章が刻まれている。
それが生徒会の証ということらしい。
俺がここに来る途中に視線を感じたのもそのせいだろう。
暫く待っていると生徒会の最後の一人、会長のフレアさんが壇上に登った。
一昨日に見たお茶目な様子は見る影もなく、絶対の自信や威厳をその身に纏っていた。
「新入生一同、私が如月学院生徒会長のフレア・ウルハだ。今回は野暮用で不在の学長に代わり入学式の挨拶をさせてもらう」
フレアさんには人を惹きつけるカリスマがある。
長い挨拶にもかかわらず最後までフレアさんから視線を外す者はいなかった。
「私からの挨拶はこれで終わりだ。続いて、新入生代表による挨拶を行う」
フレアさんがそう言うと一人の男がすっと立ち上がった。
金髪碧眼のその男はまるで御伽噺に出てくる王子様のようで横を通り過ぎるだけで女生徒の顔を真っ赤に染め上げていた。
「新入生代表のリチャード・ガルシアです。この度ーー」
リチャードによる挨拶もフレアさんに引けを取らないほどに素晴らしいものだった。
あいつが実技試験を最速でクリアしたこの学年の首席。
挨拶を終え、盛大な拍手に包まれてもその表情は緩むことなく、平然として自分の席に戻って行った。
「これで入学式を終わり……ああ、忘れてた。新入生の中に生徒会の新メンバーがいます。起立して壇上まできてください」
リチャードと入れ替わり、再び壇上に登ったフレアさんがそう口にする。
生徒会の新メンバーって誰なんだろうと、ぼーっと待っているが一向に誰かが壇上に向かう気配がない。
他の生徒たちもざわつき始める。
「なに自分は無関係みたいな顔してるの? 早く行きなさいよ」
ツバキちゃんが肘で俺を小突く。
「……えっ、俺っすか!?」
「当たり前でしょ。あなた以外に誰がいるのよ」
自分が生徒会に入っているという実感がなさすぎて、ツバキちゃんにそう言われるまで本気で忘れていた。
おずおずと立ち上がり壇上に向かう。
当然視線は俺の元に集まる。
一度ざわつくと入学式の最中とはいえ、声を出すことに抵抗がなくなる。
皆が思い思いに驚きの声を上げる。
一番驚きたいのは俺なんだから、リチャード様の方が相応しいとかいうのやめてくれないか?
さて、壇上に来てしまったのだが、何を言えばいいのか。
舞台の端に控えているフレアさんが苦悶の顔を浮かべる俺を見て必死に笑いをこらえている。
フレアさんやリチャードの後ではどんな挨拶をしてもつまらないの一言で終わってしまう。
それならいっそのこと何も考えず出てきた言葉をそのまま言った方がいいか。
「……えーっと、この度生徒会庶務に就任したリュカ・エフェルです。皆さんが考えていることは大体想像がつきます。なぜお前なんだ、ですよね?」
新入生だけでなく上級生もそうだそうだとヤジを飛ばす。
ふーっと一息ついてから声を張り上げる。
「そんなもん俺が一番聞きたいっつーの! 俺も自分は相応しくないと思って最初は断ろうとしたんだ。ただ! そこの生徒会長がどうしてーも俺に入って欲しいと泣いて懇願したんだ。見目麗しい女性の心からの頼みを無下に断ることができるだろうか、いや俺にはできない」
わざとらしく胸に手を当て熱弁をふるう。
騒いでいた生徒たちも俺の話に聞き入り始めた。
フレアさんを一瞥すると目を丸くして顔を紅潮させている。
誇張しすぎたことを後で怒られないかな……。
「だから俺を欲した君達の尊敬する会長の目を信じて欲しい。俺はいつか必ず生徒会に相応しい人間になってみせる。それじゃあこれから宜しく!」
そう言って一礼すると拍手が沸き起こり少し前までは考えられなかったような暖かい声が投げかけられた。
どうやら上手くハマったらしい。それほどまでにフレアさんは愛されているようだ。
足早に自分の席に戻ると、タイガさんがグッと親指を立てていた。
「……それでは、入学式はこれで終わりとする。各自、自分のクラスに行くように。以上」
フレアさんがそう告げた後、俺の方にゆっくりと近づいてくる。
ここにいてはいけないと感じた俺は他の新入生に紛れて講堂から出ようとするも、右肩に細い指がかかり、後ろにグイッと引き寄せられる。
「……後で生徒会室で話そうね」
「ひぃっ!?」
振り返らなくてもわかる、フレアさんだ。
耳元で囁かれる甘い声は普通は喜ぶべきものなのだろうが、今の俺にとっては恐怖以外の何物でもなかった。
◇
如月学院には一学年にA〜Dクラスまであり、クラス分けは実技試験の順位によって決まる。
一位から順番にAクラスとなるわけではなく、クラス間の力を出来るだけ均等にするために一位と最下位をAクラス、二位と九十九位をBクラスといった風に、上と下から一人ずつ同じクラスになるそうだ。
どうやら、俺はグレンより先に合格した扱いになったようでBクラスだった。
グレンは最下位なのでAクラスだ。また会ったら思い切りバカにしてやろう。
「あっ、リュカ久しぶり! 同じクラスだったんだねー」
「ん? ……ああリンか」
教室に入ろうと扉に手をかけると、後ろからリンに声をかけられる。
そういえばこいつちゃっかり実技試験も二位だったな。
「おー、覚えててくれたんだね。よかったー、知ってる人が同じクラスにいて」
確かに知り合いがいないというのは不安になるものだけど、人懐っこいリンはそんなのとは無縁だと思っていた。
「リンちゃん同じクラスだー!」
「やったー!」
「ほら、やっぱりリンちゃんはBクラスだって言っただろ?」
「マジだったのかよ……これは俺にも春がきたな」
リンが教室に入るとそこにいた全員がリンを歓迎する声を上げる。
「やー! みんな知っててよかったよー!」
リンが歓声に応えると、教室がワッと盛り上がる。
知り合いがいないどころか全員友達とかなんだお前は。
「……いつの間に仲良くなったんだよ?」
「うーん、試験のときと今日かな?」
逆にどう過ごしたらその二日でこんなに友達を増やせるのか。
試験の日なんて実技試験の時以外は俺と一緒にいたはずだし、誰かと話している素ぶりなんてなかったんだけどなあ。
「あれ? 隣にいる男って噂の『不思議君』じゃね?」
一人の男が俺を指差してそういうと、他の人たちからおーっと言う声とともに何故か拍手が起こった。
ワンダーボーイってなんだよ…………。
用事で少し間が空いてしまいました。
次話はもう少し早めに投稿しようと思います。




