自称勇者になったけどモテなかったよ
魔王との最終決戦もいよいよ終結しようとしていた。
「くらえ、聖剣斬り!」
自称勇者(35歳)の攻撃が魔王の体を引き裂き、ついに魔王に致命傷を負わせた。
「がああああ」
魔王が断末魔の悲鳴を上げた。さすがの魔王でも痛いのは苦手なのだ。いままで魔王は多くの敵との戦いに勝利してきた。故に、「最強」と呼ばれていた。そして、その「最強」と呼ばれし魔王がついに勇者たちの手によって討ち滅ぼされようとしている。
「ぐ、何故我は負けるのだ。」
人間が魔族に勝てるはずがないのだ。あり得ない。
「冥土の土産に教えてやろう、」
自称魔法使い(47歳)がその口を開いた。「口臭の覇王」の異名で呼ばれる彼のブレスは竜の王に勝るとも劣らない。
「魔王、貴様の敗因はボッチだったことだ。」
自称戦士(28歳)は寡黙で知られているが、その重い口を開いた。彼は長い間引きこもりであったが、仲間を手に入れてから、このように見ず知らずの他人にも話しかけられるようになった。
「俺達四人は女の子からモテるために修行をし、」
自称僧侶(43歳)はかつては教会の僧侶の中でもエリートだったが、煩悩に支配され、シスターや参拝者にセクハラした結果、僻地に追放されたという経歴を持つ。
無許可で触るのがダメならば、触ってもオーケーがでるくらい女の子からモテるようになることを誓った彼は同じ町に住んでいた独身男性を集め、山籠りを一緒に行い、童貞帝国を作ろうとした。相対的に自分が世界の中でイケメンとなれば一夫多妻のハーレム帝国が作れる。そんな彼の目的を阻んだのが自称勇者であった。最初は衝突したが、最後は彼のパーティーに加入することにした。勿論、それ相応の勝算があったからこそ自称勇者に協力した。
「ついに俺たちは「勇者」という肩書きを手に入れ、モテる記号を手に入れた。魔王よ、貴様は世界を征服することだけしか見えていない。俺たちは貴様を倒したその先を見ているのだ。」
勇者=モテモテ。その最強の勝利の方程式を手に入れるためにかつての彼は勇者の剣を台座から抜こうとした。案の定、貴族以外には抜けないように台座に鍵がかけられていたので、無駄であった。
そのため、彼は勇者の剣は持っていない。彼が魔王に突き刺したのはレプリカである。これは王都に観光したときに買ったものだ。贋作とはいえ自称勇者は素手で竜を八つ裂きにする怪力を誇り、その一撃は魔王といえども引き裂くことができる。
「ちくしょおおお」
魔王は勇者の剣で刺さなければ死なないとされる。だが、自称勇者の一撃は勇者の剣と錯覚させるレベルに達していた。そして、勇者の剣で斬られたという勘違いから魔王は心不全を起こし、その命を散らした。
「どうやら、終わったようだな。」
自称戦士は長きに渡る戦いが終わり、安堵していた。
「いや、まだだ。俺達にはこの先に最大の試練が待っている。」
自称僧侶の目はぎらつき、野心を抱いていることは一目瞭然だった。
「ああ、美女争奪のバトルロイヤルがな。」
姫様、女騎士、貴族の令嬢、村娘、女神さまetc.誰が女を先に射止めるか、彼らは魔王討伐の終わった日から再びライバル同士に戻る。
「俺達は今日からは敵同士。モテモテの称号を手に入れた俺達の中で誰が美女を手に入れるか、勝負だ。」
「「「「おおおお!」」」」
彼らは全力疾走で王都まで走って帰った。先にたどり着いた者が討伐の報告をし、後世までその名を勇者として歴史に刻む。
「おい、勇者は俺だろうが!」
「「「そんなの早い者勝ちよ!」」」
彼らは知らない。この先に彼らを待つモテない運命は魔王討伐よりも過酷であり、険しい道のりであった。ただ一人を除いて……
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帰ってきた直後に彼らは知る。
「おい、どういうことだよ。」
まるで家族の仇を見るかのような目で彼らは王都中央の城から手を振る見知らぬ男を見ていた。
彼らの討伐の実績は既に奪われていた。王都では貴族のボンボンの勇者が用意されており、魔王討伐のパレードが開かれていた。
勇者の隣には姫様がいて、ちょくちょく彼とチュチュしていた。これが絶望だ。恋人の浮気現場を目撃したかのように、自称勇者パーティーは絶望に染まった。
「「「「なんだと……?」」」」
その日の晩、酒場に彼らは集まった、
「姫様は勇者と結婚するんだろ?ならおかしいじゃねえか!」
自称勇者は怒っていた。だが、勇者の剣を持たない彼のことを勇者であると思う人間はこの世界には彼しかいない。故に、彼は自称勇者なのである。
「我らの中から姫様が結婚されるのであれば俺以外でも許してやらなくもなかった、だが、あれは誰だ。イケメンで顔だけのクソ野郎じゃないか。」
この自称僧侶の発言は一部嘘だ。万が一にもこの中から姫様が自分以外の男を選んだ場合には確実に暗殺を決行するだろう。
「「「そうだ、そうだ!」」」
「勇者、コロソスベシ」
「「「コロソスベシ!」」」
その場にいた人間が全員、同調した。「クソ野郎」などの発言は未来の女王の夫に対する不敬罪が適応されうるほどの暴言であり、「コロソスベシ」という発言をもし公の場でした場合には打ち首になり得る。
だが、この酒場における多数派は自称勇者パーティーと同じ意見であった。この酒場の中にいるおっさんは全員、姫様の大ファンであり、自分の義理の娘かあるいは自分の嫁にしたいと日頃から妄想していた。だから、勇者を許せない。
今回のパレードで彼らは魔王復活の知らせを遥かに超える絶望が叩き込まれた。
「男は顔なのかよ!ふざけんな!」
「いっそ、「異議あり!」とか言って誰か乗り込めよ!」
「「「誰か行ってこい!」」」
自称勇者パーティーであれば城の制圧は簡単にできるだろう。姫の誘拐程度は朝飯前だ。だが、女性経験のない彼らでは姫の攻略は魔王攻略の難易度の遥か上を行っていた。
「なあ、兄ちゃんもそう思うだろ?」
自称魔法使いは近くに座っていた可愛い顔をした華奢な男に話しかけた。
その男は顔を赤らめていて、魔法使いもドキッとしてしまった。
(俺が男に反応するだと?DTを拗らせてついに両刀になったのか?)
「えっと、私は貴方たちは素敵だと思います。」
「へへ、ありがとう。兄ちゃんは可愛い顔をしているし、モテそうだけど、男に狙われそうだから気を付けろよ。」
自称魔法使いは酔っぱらっていたので、ついつい華奢な男の唇にキスをした。
「///へ?」
「おお、モチモチの唇じゃないか。」
「おい、自称魔法使い、何キモいことしてんだよ。」
「キモいぞ。」
「こいつは衛兵に引き渡した方が良いな。悪かったな、兄ちゃん。」
自称戦士は自称魔法使いを引きずった。流石に悪のりが過ぎる。
「私のファーストキス」
周囲で一部始終を見ていた自称勇者のパーティーは愕然とした。そして、自称魔法使いは罪悪感に襲われた。いくらなんでも最初にキスした相手がこんな汚いおっさんでは生涯、心に傷を負うかもしれない。
華奢な男の目が潤んでおり、酒場も静まり返った。
「申し訳なかった。汚いものに触れられて傷ついただろ。ほら、好きなものを奢るし、この通り、こいつも反省しているから、許してくれ。」
自称勇者、戦士、僧侶の三人は魔法使いを床に押さえつけ、土下座させた。
「本当にすみませんでした!」
「///いえ、代わりに責任を取っていただければ私は気にしません。私と結婚してくれますか?」
「はい?」
この言葉に周囲はフリーズした。
そして、次の瞬間、周囲はどっと歓喜に沸いた。
「「「「結婚おめでとう!!!!」」」」
そして、その場にいた僧侶が即座に結婚の儀を行い、自称魔法使いは若い女のような顔の男と結婚した。
自称魔法使いに何故か不快感はなかった。もしかすると自分はゲイだったのかもしれないとも思った。一目惚れとは恐ろしい。
「じゃあな。元気でな!」
「俺達は女神さまに会いに行く。まあ、結婚したお前には関係ないな!」
「グッドバイ!末永くお幸せに!」
「ああ。」
自称魔法使いは心に傷を負った。かつての仲間が誰一人悲しむこともなく、旅立とうとしている。最年長の俺を敬うまでは行かなくとも、寂しがっても良いじゃん。
「じゃあ、結婚初夜を楽しめよ!」
勇者たちはその日の晩、旅立った。餞別に彼ら4人で借りていた部屋を自称魔法使いと若い男に譲った。ホモセックスには興味がなかった。
‐その日の晩‐
「お、お、っ、っ、ぱ、ぱ、い、い、?」
「///あまりじろじろ見ないで。恥ずかしいわあなた。」
「あ、ありのまま…今起こったことを話すぜ!若い男が服を脱いだら突然、髪の色も見た目も変化して、姫様の裸体が目の前に現れやがった。何を言っているのか分からないと思うが、俺も分からねー。ここは天国なのか?魔王に殺されるところなのか?どうにでもなれ、据え膳食わぬは男の恥!」
がば!
「///ああん。」
自称魔法使いはついに壁を超えた。
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後世の歴史書では一国の姫が大恋愛の末に勇者との婚約を破棄し、魔法使いの男性と結婚したと記録に残っている。勇者と結婚させようとした国王の意向に逆らい、自分に化けさせた女中と勇者をくっつけて、市井でしばらくの間、魔法使いの男性と暮らしたとされている。
多くの歴史書で彼ら二人は仲睦まじい夫婦であったとされる。しかし、一説では魔法使いに姫が媚薬を飲まされたとも、監禁レイプされたとも言われている。実情がどうであれ、彼らの子供が後に養子に出され、次期国王になったということだけは事実である。
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「アハハハ。ライバルが一人脱落したな。」
「くくくく、ライバル?それは違うな、奴は所詮四天王の中でも最弱。」
四人の中で本当に最弱なのは僧侶であったが、話の腰が折れるので、誰も突っ込まなかった。
「四天王の面汚しよ。」
「「「ハハハハハハ」」」
もし、彼らが真実を知ったら即座に王都に戻り、自称魔法使いを公開処刑しただろう。もし、彼らにあの時、未来視の能力があったのなら、酒場にてバトルロイヤルが勃発し、王都が火の海になっていただろう。だが、もしはないのだ。
彼らが姫様が城から失踪したことを知るのは今から半年後、そして真実に辿り着くのは次期国王の発表される十数年後のことである。これは確定した運命であり、魔王を倒した彼らでも覆すことができなかった。
「俺達の戦いはこれからだ!」
「行くぜ!」
「「「おお!」」」
‐第一部完‐