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アイネ、特攻!

「くっらっえぇ――――!!」


 雄々しい叫びと共に、上空からの跳び蹴りを敢行する愛音ちゃん。その標的たるあやかしの鎧武者は微動だにせず、真正面から受けて立つ構えだ。


「ちょ、ちょっと! いくらなんでも、跳び蹴りってのは無茶なんじゃ……」


 確かにあれだけ高所からの飛び蹴りとなれば、それ相応の威力は出るだろうけど……なにせ相手は妖。先程までの愛音ちゃんの攻撃が全然効いていなかった事を考えると、これで大ダメージを与えられるとはとても思えない。


「まあ、見てなさい。愛音はバカだけど、全くの無策で特攻するほど愚かじゃないわ」


 ……えーと、これは褒めてるのかな? 樹希ちゃんは動ずる事なく、腕を組んで状況を見守っている。


 再び空に視線を戻すと……ぼくにも彼女が語る、その言葉の意味が理解できた。


 愛音ちゃんの操る、四本の水晶剣。それが降下する彼女の足先を囲んだかと思うと、切っ先を合わせてくさび形を形成し、そのまま高速で回転を始めたのだ!


「あ、あれは――――!」


 そして身体に走る呪紋と同色の、ピンク色の凄まじい霊力を噴き上げながら、愛音ちゃんは一条の矢のごとく鎧武者に突っ込んでいく。


 ――――それは、螺旋。すべてを貫きすべてを穿うがつ、魔法の穿孔螺旋せんこうらせんだ! 


「【廻り穿つは滅死の螺旋スパイラル・デス・ドリル】!!!」


 轟音、閃光、衝撃。それらが渾然一体こんぜんいったいとなって、鎧武者の頭上に炸裂した。


「わわっ!」


 吹き荒れる爆風に煽られて、思わず両手で顔を覆う。見た目こそキックでも、これはもう大砲が直撃したに等しい。

 ごめん愛音ちゃん、一瞬でも「キックが最大術式とかしょぼくね?」みたいな事を思ってすいませんでした――――!


「……不味いわね」


「えっ」


 苦虫を嚙み潰したような、樹希ちゃんの表情。不味いって、何が? あれだけの術が直撃したなら、いくらあの鎧武者だって……


「!!」


 今だに続く、吹き荒れる霊力の嵐。ぼくがその向こうに見たのは、先程と変わらず仁王立ちしたままの鎧武者と、その頭の上で見えない壁に行く手を阻まれた愛音ちゃんの姿だった。


「こ、コイツ、なんて結界張っていやがんだっ!」


 高速回転する水晶の楔が散らす火花で、本来不可視であるはずの結界が浮かび上がっている。鎧武者を中心とした、それは半球状の薄く強固な壁。


 ……愛音ちゃんの最大術式、その凄さはぼくにも分かる。落下の勢いこそ殺されたものの、その先端は今も結界の表面をがりがりと削り続けている。

 物理的な破壊力なら樹希ちゃんの雷術さえも上回るだろう。


 それでも、無理なのか? 妖の結界を破る事はできないのか? どんな術をも弾き返す、無敵のバリアー……そんな神の御業のようなもので、あの鎧武者は守護まもられているっていうのか?


「情けないわね、愛音! でかい口を叩いた割には大した事ないじゃない!」


 厳しく恫喝どうかつする樹希ちゃん。これって彼女なりのエールだったりするのだろうか……けど、それを聞いた愛音ちゃんの表情は一変した。 


「なんだとテメー! このオレ様のドリルがショボいだとー!!」


 どこにそんな力が、というほどに……愛音ちゃんの霊力が爆発的に高まった。水晶の楔の回転がさらにそのスピードを上げ、火花混じりの霊力の嵐はどんどん勢いを増していく。

 そしてぴしっ、と甲高い音がしたかと思うと、鎧武者の結界に細かくヒビが入っているのが見えた。


「効いてる! いけるよ愛音ちゃん!」


「出し惜しみは無しよ! 成長したのが胸だけじゃないって事、見せてみなさい!」


「おうよ! もう後の事なんて知るかっ! フルパワーだ――――っ!!!」


 暴風に負けぬ大声を上げると同時に、愛音ちゃん自身の体も楔とは逆方向に回転を始める。ふたつの回転が相乗効果のように互いを高め合い……どこまでも、どこまでも加速して…………


 巨大な閃光のドリルと化した彼女の足元で、ついに……結界が、砕けた。


 先程をも上回る、天を破らんばかりの轟音と爆風。そして大地を揺るがす衝撃が辺り一帯を駆け抜ける。そのあまりの凄まじさに、ぼくは立っていられず尻餅をついてしまったほどだ。


「ふぃー、やったか? 手応えは……確かにあったぜ!」


 降り注ぐ土砂の中から、愛音ちゃんがごろごろと転がり出てきた。すぐに立ち上がれないところを見ると……さすがの彼女も、あれだけの一撃を放った後では疲労の色を隠せないようだ。


「……やってくれるとは思っていたけど、予想以上ね。あなたに対する認識を少々改めてあげるべきかしら」


 暴風が治まり、立ち込めた土煙が薄れゆく中、樹希ちゃんは油断なく爆心地を睨み付けている。


 愛音ちゃんの攻撃で結界は破られた。それが確かなら、鎧武者はその身で直に巨大ドリルを食らっているはずだ。

 いくら甲冑を身に着けていても、あの威力。無事で済むとは思えないのだけど……


「あっ!」


 一陣の風が土埃を吹き払ったそこには……立ち尽くす甲冑の姿。しかし、先程までと同じ姿ではない。

 左腕から胴体中央――――人間ならば、心臓のある辺り――――までがごそりとえぐられ、ぽっかりと大穴を空けていた。


「見たかイツキ! これがオレの真の実力だぜ!」


 胸を張り、勝ち誇る愛音ちゃん。いくら妖でも……いや、たとえ神であってもあれは致命傷だ。


「……待って、よく見なさい!」


 樹希ちゃんの切迫した口調に、ぼくは目を凝らす。魂が抜けたかのように、微動だにしない鎧武者。

 だがその身体には、今も変わらず【門】からの……天空に向け屹立きつりつする光の柱からの霊力が、とめどなく注がれ続けていたのだ。


 鎧に空いた大穴が、みるみるうちに塞がっていく。やがて失った左腕の先まで再生し、完全に元の姿を取り戻す鎧武者……何という事か。これではまるで――――


「ふ、不死身かよっ、コイツは!」


 結界を破り、ようやく本体にダメージを与えた……そう思ったのもつかの間。鎧武者はあっという間に元通り再生してしまった。更には粉々になった結界までもが、何事もなかったように復活している。


 ――――すでに、手遅れだったのか。ぼく達の前にいる存在……それは今や妖の次元を遥かに超え、神の域に至る勢いだ。もう人の手でどうにかできるものではない。


 こうなる前に、対処できていれば……最初に遭遇したのが、ぼくじゃなかったら。少なくとも一人前の術者であったなら、こんな事にはならなかったかもしれないのに。


「……灯夜、見たわよね?」


「へっ?」


 唐突な問いかけに、思わず素っ頓狂とんきょうな声を上げてしまうぼく。


「へ? じゃないわよ。あいつの中身、見たでしょう?」


「あ、うん。見たというか、見てないというか……何も、無かったんだけど」


 ――――鎧は、空っぽだった。甲冑に空いた穴から覗いていたのは、ただ何もない空間だけだったのだ。


「そう、あいつの中身は空っぽ。鎧も霊力を充填するだけで簡単に再生してしまう……さあ、答えてみなさい灯夜。あいつの本体……中枢はどこにあると思う?」


 真剣なまなざしでぼくを見つめる樹希ちゃん。これは……あの一週間の修行の日々で、幾度も繰り返してきた思考訓練か。


 世界中にいる妖の種類は、その全てを把握するにはあまりにも多すぎる。何の妖かが分かれば対処もしやすいが、問題はそれが分からない時だ。


 正体不明の妖にいちいち真正面から突っ込んでいては、当人だけでなく周囲の被害もばかにならない。初動対応のミスから取り返しのつかない状況になる事だって少なくはないのだ。


 だから、妖対策要員には少ない情報から妖の正体や能力を把握する能力が必須となる。

 記憶にある限りのデータから共通項を見つけ出し、目の前にいる妖に当てはめて比較する……正確な正体が分からなかったとしても、推測から有効な対応を導き出す。


 その為の訓練として、樹希ちゃんはぼくに何度も問題を出した。置かれた状況とわずかなヒントから、解答を見つけ出す訓練。

 実戦では戦いながら行わなければならない為、時間制限を課せられた事もあったっけ。


「アイツの中枢? そりゃあ、やっぱり――――」


「愛音は黙ってて!」


 厳しく制され、ぐぬぬ……とうずくまる愛音ちゃん。これは、ぼくに出された問題だ。ぼくが一人で考え、答えを出さなければならない。

 一週間の訓練の、これは総決算。樹希ちゃんは、ぼくがどこまで成長したかを試しているのだ。


「中身が無いって事は、怪しいのは鎧……けれど、あいつは最初に愛音ちゃんが仕掛けた時からずっと、攻撃を全部鎧で受けていた。結界が破られた時もかわすそぶりを見せず、ドリルが直撃するに任せていた……」


 愛音ちゃんのドリル……最大術式は、鎧武者の胴体が半分消し飛ぶ程のダメージを与えている。身体のどこに中枢があろうと、当たり所によっては破壊されていたはずだ。


「あいつはあのドリルを一歩も動かずに受けた……それはつまり、避ける必要が無かったから? 最初から体のどこにも弱点が……中枢が無かったからだとしたら――――」


 ぼくの脳裏に、鎧武者が【門】から現れた時の映像がフラッシュバックする。光の柱から霊力の流れが伸びて、謎の男性がかかげた刀に絡みつき……


「そうだ! 刀だよ! あいつの本体は鎧でもその中身でもなく、刀! 鎧武者は……あの刀を振るうためだけに生み出された、霊力で出来た操り人形だったんだよっ!」


 本体は……刀。鎧武者の方にいくらダメージを与えても、それは無意味だった。たとえバラバラに破壊されようとも、いくらでも再生できるのだから。

 そして、再生に使う霊力は【門】から無限に供給され続けている。これが……不死身の真相。


「多分、それで正解よ。よくできましたと褒めてあげたいところだけど……それは、あいつを何とかしてからになるわね」


 謎は解けた。しかし、それは最初の一歩でしかない。鎧武者を操る、魔性の刀。あれを打倒しない限り、ぼく達に……この天御神楽学園に、明日はないのだから。


「あまり時間もないから、手短に練るわよ。あいつを仕留める……起死回生の策を!」

いち小説書きとして、一度は書いてみたかったシーン……それは「やったか」フラグ!

長年の夢が叶いました(笑


活動報告には登場魔法少女のコスチュームへのこだわりについて。後述の理由で帰宅後にアップするのでちょっと待っててね!


次回更新日は12月24日、月曜日の予定です!

ちなみに去年の今頃もまだ昏睡状態だったと思います……意識が戻ったらクリスマス過ぎてたっけ。


最近、また伸びがなくなってまいりました。大工事を進めようにも、どうにも時間が……

今日も午後から病院なので、この更新は自動だったりします。


何度も言うようでアレですが、ブクマに評価に感想よろしくお願いします!

もうコレ無しじゃ生きられないっ! レビューも永久に待って……いる……よ……

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