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魔法少女、誕生?

「これは……一体どういう状況なの……?」


 ぼくの前には……思わず思考を停止したくなるような光景が広がっていた。


 真っ暗闇の中、見えるのはスポットライトに照らされたぼくの周囲だけ。床はつやつやの板貼りになっていて、学校の体育館のような感じだ。

 この空間に居るのがぼくだけならば、そこまで異常なシチュエーションではない……と思う。変ではあるけど。


 ただ、ぼくの周囲はもっと先にツッコミを入れるべき怪しげなモノ達で埋め尽くされていたのだ。


 ――――二本脚で直立した、ウサギのぬいぐるみ。


 大きさ三十センチほどの、どこにでもありそうな可愛らしいぬいぐるみ。しかしそれが照明が届く範囲すべてを埋め尽くしている光景は異様という他はない。

 しかも、綺麗に向きをそろえてこちらをじーっと見ているのだ。


 ……なんなんだろう、コレ。ぼくは何か取り返しのつかない悪事でも犯してしまったのだろうか?


 しんと静まり返った気まずい空気の中、ぼくは途方に暮れていた。ウサギに恨まれるような事をした覚えはないのだけれども……


 そこに、ぱんぱかぱ~ん、と不意に安っぽいファンファーレが鳴った。テレビのバラエティ番組で使われるようなやつだ。それに続いて、


「おめでとうございマ~ス!」


 背後から響く、妙に耳触りなキンキン声。さっきのファンファーレの倍くらいの音量と相まって、まるで騒音だ。


 びっくりして振り返ったぼくの前で、ぬいぐるみ達がざざっ、と左右に分かれる。昔の映画で見た、神に祈ると海がふたつに割れたシーンのように。


「あなたは選ばれたのデ~ス!」


 ぬいぐるみの海を割って現れたのは、神……などではなく、やっぱりぬいぐるみだった。他のぬいぐるみ達よりひとまわり大きい……ピエロのような仮装をしたウサギが、いかにも上機嫌に体を揺らしながらこっちに歩いてくる。


 え、選ばれたって……何に?


「何にって? そんなの決まってマ~ス!」


 いつの間にかぼくの足元まで来ていたウサギはふふん、と鼻を鳴らすと、くるくる回ってポーズを決めながら、高らかに宣言する。


「女の子達の夢の結晶! 憧れの……魔法少女デ~ス!」


 ……へ?


「厳正な審査の元、アナタが次の魔法少女に決定シマシタ~!」


 いや、ちょっと待って。


「それでは早速ワタシと契約して魔法少女になってクダサ~イ!」


 だから待ってって! それに契約って……絶対ヤバイ系の奴でしょ! そういうアニメ見た事あるよっ!


「ちなみに現在キャンペーン中につき、契約手数料および月額料金六ヶ月分は無料となっておりマ~ス!」


 キャンペーンって……つか、月額!?


「それでは、レッツ! 変~身!!」


 ウサギの声に合わせたようにキラキラ光る怪しげな粒子の流れがぼくを取り巻き、ぐるぐると回転しはじめた……っていうか、契約も何もした覚えないんですけどっ!


 ぼくの叫びもむなしく、粒子の流れは加速していく……何か、すごく嫌な予感がするよっ! だって、魔法少女の変身といえば……

 

 それに考え至ると同時に鳴り響く、ぽいん、という可愛い効果音。予定調和が為されるがごとく……ぼくの衣服は弾け飛んでいた。


 ――――!?


 幸い、全裸になったのはほぼ一瞬。何やら理不尽な謎の光に包まれたぼくの体に、ひらひらでフリフリの衣装が次々に装着されていく。


「さぁさご喝采! 新たなる魔法少女の誕生デ~ス!」


 だから、違うんだってば……いろいろツッコミ所も多いけど、そもそも前提からして間違ってるんだよっ!だって、ぼくは――――月代灯夜は……



「――――男の子なんだよぅっっ!」



 ぴぽぴぽ。ぴぽぴぽ。


 ベッドからがばっ、と跳ね起きたぼくの前に広がる、見慣れた部屋の風景。背後から聞こえてくる目覚まし時計の電子音。


「……」


 とりあえず手をのばして、もう三段階くらい音が大きくなっていた時計の頭をぺしっ、とはたく。最大音量のぴぽぴぽ音が止まって、世界は静寂を取り戻した。



 ――――ひどい夢だった。いや、夢でよかったというべきか。


 手の甲で汗をぬぐいながら、ぼくはベッドの脇に立て掛けてある姿見を覗きこんだ。


 そこに映っているのは、眠そうな目をした少年の顔。もっとも、少年と言い切れるのはぼく本人が自分の性別を知っているからに他ならず、何の予備知識もない人が見れば、おそらく十人中九人……いや、十人が女の子だと思うに違いない。


 そして性別以前に、まず日本人に見えない。


 ぼくの髪は白い――――正確には極限まで色素の薄いプラチナブロンド?らしい。髪型そのものは普通のおかっぱ頭に近いけれど、ぶっちゃけこれだけですごく目立つ。

 お母さんは日本人でちゃんと黒髪なので、おそらくは父方の影響なんだろうけど……


 そういえば一度お祖母ばあちゃんの白髪染めを使おうとして全力で止められた事があったっけ。「子供のうちから髪を染めるなんてとんでもない」って。


 あと、肌も白い。肌色がすごく薄いのだ。「お人形さんみたいでキレイ」なんて言う人もいるけど、ぼくはもうちょっと健康的な色が好みだったりする……照明の具合によっては白を通り越して青ざめて見えるし。


 それから、顔の作りも……控え目に言うと“男の子っぽく無い”。この顔のせいでナチュラルに女の子扱いされる事が多くて……本当に多くて困ってしまう。

 もう少し大きくなればちゃんと男らしくなるのかな……コレ。


 そう、ぼくは――――月代灯夜は、少なくともその程度には男らしくない男の子だったのである。

*2018/03/2:章開始の位置が間違っていたのを修正しました。


……こんなに長い期間気付かなかったなんて、不覚っ!

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