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急転直下

 不思議と、恐怖はなかった。


 校舎の屋上から弾き出されたぼくの体は、当然のように真っ逆さまに落下していく。

 地上四階、屋上からだから五階かな――――の高さから落下したらどうなるかは小学生でも分かる。

 すなわち“死”だ。


 ……人は死の直前になると走馬灯を見るっていうけど、意外とそうでもないらしい。なぜならぼくの目には今もぐんぐん近づいてくる茶色い校庭の地面しか映っていないからだ。

 人生の終わりまであと数秒。さて、何を考えようか? お母さんの事か、お祖父じいちゃんお祖母ばあちゃんの事か。それとも……静流ちゃんの事か。


 駄目だ、時間が足りなさすぎる。あっという間に地面は目前だ。ぼくは観念して目をつむった……月代灯夜十二年の人生はここに幕を閉じました。悲しいけど、これが現実――――



 不意にがくん、と体が揺れた。落下の衝撃とは違う、まるでつまみ上げられたような浮遊感。


「んぎぎ……まにあった~」


「しるふ!」


 目を開いて振り返ると、そこにはぼくの襟首をつかんで必死に羽ばたいているしるふの姿があった。


「うー、おもいぃ~」


 しるふの努力のおかげで落下速度はみるみる下がり……ぼくの体は校庭にふわりと軟着陸する事ができた。まさに間一髪、絶妙のタイミング。


「ありがとう。ほんとに助かったよ……」


「助かったじゃないよ~! アタシが通りかからなかったらどーなってたか……」


 ぷんぷんと怒るしるふ。出会ってまだ数日も経っていない子が、ぼくの事を本気で心配してくれている……その事実に、思わず胸が熱くなった。


「とーやこそ、なんであんなトコ飛んでたのさ~!」


 そうだ、今は何よりそっちが優先事項だ!


「屋上のプールで水に襲われて……多分、水の精か何かだと思うんだけど、しるふ、心当たりない?」


 ぼくがそう言った途端、しるふの顔が硬直した。


「あー、ええっと……言おうと思ってたんだヨ?」


「何を?」


「ココの屋上には性悪なウンディーネがいるから危ないよって、言おうと思ってたんだケド……」


「けど?」


「ゴメン、忘れてた。てへっ」


「てへっ、じゃないよ! こっちは危うく死ぬところだったのに……いや、それよりも静流ちゃんが!」


 ぼくが静流ちゃんが水の精に囚われてしまった事を話すと、しるふはいかにも困った、という顔をしながらその場をくるくると回転し始めた。


「うーん……これは面倒なコトになったね~」


「どうにかならないの? 同じ精霊同士、話し合いで解決とかさ」


「あーそれはムリ。同じ精霊ったって交流があるワケでもないし、アイツは特にそういうの嫌いっぽいしネ……」


 確かに、いきなり襲いかかってくるような相手だ。これでは平和的解決は望めないだろう。となると……


「……静流ちゃんを取り戻すにはあいつと戦うしかない。という事だね」


「ムリ! それ絶対ムリだから!」


 ぼくの言葉を聞くや、しるふは首をぶんぶんと振り全力で否定した。


「いや、でも……」


「でもも何もないの! ウンディーネがヒトを取り込んだという事は、そのヒトの霊力を取り込んでパワーアップしてるってコト! 相手が子供だったら最悪、憑依してるかもしれないんだから!」


「憑依って、まさか……」


「体を乗っ取って、好き勝手に使えるってコト! 子供相手だとそーゆうのがやりやすいの!」


 なんてこった! ただ捕まるだけじゃなく、体まで乗っ取られてしまうなんて!


「そんな状態のアイツに立ち向かうなんて、アタシなんかの力じゃムリだよ~。ザンネンだけど、ここは諦めるしか……」


 ――――諦める。確かに、それは最も現実的な選択肢だ。そもそもぼくのような(容姿以外は)平凡な小学生がどうこうできる問題じゃない。

 けれど、諦めるということはすなわち……静流ちゃんを諦める事だ。ぼくの目の前で囚われてしまった彼女を見捨てる事だ。


 そんなこと、できるはずが無い! ここで諦めたら、彼女の身がどうなるかわからない……いや、確実に命にかかわる状態なのだ。

 それに、ぼくが諦めたら、いったい誰が彼女を助けてくれるというんだ。先生? それとも警察? いや、自衛隊でもどうにかなるとは思えない。

 精霊を相手にするなんて、それこそ魔法少女でも呼んで来ないと……


「……魔法少女だ」


 ぼくの脳裏を一条の閃光が走る。そうだ、その手があった!


「え? マホーショージョ?」


「しるふ、昨日言ってたよね? 自分と波長が合う高い霊力を持つ人間と体を共有すれば、大きな力を得られるって。もしかしたら昨夜の魔法少女も、同じような方法で力を使っていたのかもしれない」


 屋上のウンディーネも、静流ちゃんに憑依して同様の力を得ているとしたら、対抗できる手段は――――ひとつだ。


「しるふ、ぼくと契約しよう! こんどは……仮じゃない方で!」

今回より3章開始となります~。

といった矢先に電話回線を絶たれてしまった六篠先生の明日はどっちだ!?


ほんの二ヶ月半留守にしただけで電話を解約されるなんて思ってなかったよ……

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